空っぽの男 - 先鋒戦
歌帆さん 〜 Sick And Tired




 証言者 017
 狂犬グループの中層構成員
 京師 航 きょうし わたる 続ける
 
 幻影
 大隣 憲次 おおとなり のりつぐ 構える




 野良仕事の似合いそうな伝説の武人は、大樹の表皮を思わせる手をしていた。

 ブランデーの色を放ち、凸凹と節くれ立って波を打つ皮膚。かえって皺の刻まれていない箇所が浮き上がって見え、だから樹液の滴る大樹の表皮と思えた。そうでもなければ、猛禽の脚にたとえるも相応しい。

『は? シュハクぅ?』

 同じ人類とは思えない異様な手を容易く見逃し、軽蔑的に疑う兄弟子。そんな彼に「ははは」と滑らかな笑声を向けながら、おもむろに歩を寄せる好好爺こうこうや。それから、流れのままに右手の人差し指を伸ばすと、とん──少年の右肩を、分厚い道着越しに小突いた。

 直後、

『ごえッ!』

 兄弟子は嘔吐の咆哮ほうこうを上げると、玩具のように翻筋斗もんどりを打って悶絶したのである。それはすぐに号泣へと移ろい、あげくには吃逆しゃっくりまでも加わる始末。

 唖然と静まる夕方の道場。

 まったく言葉を失う弟子たちに、獰猛どうもうな笑顔の好好爺、その、枯れた枝の指を天に向けて問うた。

『な? スポーツにはないだろ?』

 そして、こう教えたのである。

『効かない拳なんて捨ててしまいなさい。捨てた先に空手が宿るのです』



      



 何十枚もの段ボールに外光を遮蔽され、暗黒と化しているヒナ高の校内。やはり、昼間よりも遥かに1歩1歩を貴重なものとしていた。ぢゃり──スニーカーの靴底にわめく窓硝子の破片は五寸釘に匹敵し、スケートリンクの大地に匹敵する。いつ踏み抜くか知れず、転ばされるとも知れず、摺足すりあしの合理性を改めて実感してしまう。

 歩くことがこれほど難しいとは。

 左斜め後ろを付き従うブレザスカートの武道家は、流石というか、視界の悪さや足場の不安定さなどどこ吹く風、散歩でもするようにゆったりと、のしのしと歩く。おっかなびっくりの頼りない新米ガイドに歩調を合わせてでもいるかのよう。

 確か、中国武術の中には「立禅りつぜん」という鍛錬法があり、立ち居や所作のベストバランスを探りつつ微調整していくものだと耳にしたことがある。

(そこまでこうが成っているんだろうか)

 などと、ついつい専門的なことを考えてしまう京師航である。そうでもしないと、この女の悠然さが不気味でしかない。

 すると、

「どこに連れて行ってくれるんですか?」

 彼氏のリードに頼るデートのような抑揚で、緊張感もなく尋ねる百目鬼歌帆。

 そういえば、玄関扉の窓が段ボールに代わっていた。先日、桐渓更紗が突き破ったのが原因らしいが、突き破らせた張本人はこの女であるという。蛮カラにもほどがある巷説だが、他人事のようにして追従する彼女が不気味のひと言である。

 いつ背後から卍固めを喰らうのかと怯えながら、京師は1年4組の教室を目指す。特殊な教室ではないが、階段フロアに隣接しているという、第1の関門である。

 運良く破壊を免れた一部の窓硝子から池袋の明かりが斜めに射しこまれ、荒廃の廊下に一縷いちる僥倖ぎょうこうを示唆している。どんな暗闇にも、必ず出入口は存在するのだと。

 しかし哀しいかな、今の京師にはその出入口を出る予定がない。出たい気持ちは山山だが、予定として許可されていない。それどころか、

(なぜ気配がない!?)

 自分と百目鬼の他に、微塵も人の気配を感じない。空手経験者の彼をもってしても、痛いほどの静寂しか嗅ぎ分けられない。

 敵をあざむくにはまず味方から──実は誰も待っていないのではないか。結局、京師と立ち合わせるのが目論見もくろみなのではないか。

(駒で終わるのか、俺は?)

 にわかに不安が増す。

 しかし、ひとたび遊ぶ気になった狂犬がよもや早退するとは考えられない。欲しい玩具を手に入れたが最後、乱暴に、壊れるまで遊び尽くす──鬼束甚八とは、そんな子供っぽい男なのである。そして、子供に秘められたポテンシャルを楽しむ教育者のように、彼に魅了されて集まった幹部たちなのである。

 誰もいないはずがない。ただ単に自分が未熟なだけのこと。

(漫画じゃあるまいし、気配なんてそんな簡単に感じられるモンじゃない)

 そう理屈づけて自分を鼓舞する。だって、もうすぐ最初の目的地なのである。誰かが居てくれなくては困る。

「どこに連れて行ってくれるんですか?」

「う」

 デジャヴの問いが後頭部を叩き、不意のあまりに計らずも京師は戦慄。

 答える義理はないのだが、

「ここだよ」

 義務の指で前方を突いた。

 1年4組。

 この部屋の中、京師や百目鬼と同学年、狂犬グループの幹部が待機しているはずである。

『幻影』と諢名あだなされる男である。

 普段は相槌すらも打たないほど無口で大人しい男だが、空手の有段者、しかも、いざ喧嘩ともなれば簡単に空手の枠を飛び越えてみせる非常識な男。正面から向かいあってのタイマンに美学を感じないのか、音もなく背後に忍び寄っての急襲を得意としており、武器も平然と使用──そんな暗殺者のような闘法が不良少年の恐怖心を煽り、ゆえなる『幻影』の冠なのである。

(ゲンエーて)

 いかにも無学な不良少年たちの考えつきそうな諢名だが、実際、彼の卑怯千万な喧嘩っぷりは折紙つきである。確か茨城の有名暴走族を殲滅せんめつした時には、幹部の男を火ダルマにするや否や消火器の消火剤を浴びせかけ、消火器のホースで首を絞め、苦悶の顎を外し、ぽっかりと空いた口腔こうくうに右の回し蹴りを喰らわせ、5mもの崖から滑落させたのだった。

 ブラを使ったり、つねったり、負傷した患部に追撃をしかけたりする百目鬼ともどっこいどっこいの曲者。

「いよいよ第1の関所ですか」

 嬉しそうな抑揚で曲者のひとりが言う。嬉しがる気持ちはさっぱりわからないが、なんにせよ跫音きょうおんもなく京師を追い抜くと、4組の出入口まで歩み寄った。

 むんと、シナモンの香り。

 閉め切られた引き戸、向かって左の戸を彼女は躊躇なくスライド。オーダメイド必至の広い背中をまっ暗な教室の中へと遠慮なくおさめた。

 と同時に、京師はわずかに仰け反った。

 さんッ──今度は向かって右の戸がスライド、背の高い痩身の男があらわれたのである。腰のポケットに左手を挿し、右の中指で頭頂部を掻きながら、音もなく廊下へと踏み出す。

 百目鬼と行き違いにあらわれたこの男、180pはあるだろう背丈を若草色と思しいツナギで匿い、同系色のバッシュを履いている。およそスーツの似合うモデル体型には違いないが、このラフな出で立ちこそが彼の普段着。

 優しい面立おもだちである。仔犬を連想させる愛らしい丸顔だが、整ったイケメン。肌の色艶もよく、廊下内、微かに漂う池袋の外光を余すことなく跳ね返している。

 おっとりとしたイケメンが、優しげな、爽やかな微笑みを湛えたまま、ちらりと横目で京師を見下ろす。

(……大隣憲次)

 同学年で、上司で、しかも空手の有段者。

 どんな顔をすればいいのかわからない。勝手に、黒目が左右に泳ぐ。

 そんな情けない京師を見限ったように、大隣は視線を前に戻し、右手もポケットに挿して廊下を横断、対岸の窓辺に立った。そして、辛うじて生き延びている窓硝子から薄明かりの裏庭をぼうと眺める。

(アルコール?)

 仄かとなったシナモンに、わずか、酒のような匂いが混ざっている。

 と、静寂を裂いて、だばんッ、

「おぅわッ!」

 思わず悲鳴を上げ、頭を抱えるようにして防御姿勢を固める京師。

 けたたましい爆音を立て、1対と化した引き戸が軽軽と廊下に吹き飛んできたのである。そしてそれは、背中を向けたままの大隣へと襲いかかり、す──滑らかな体捌たいさばきで奥に回避した彼の目の前、寸でのところをかすめ、対岸の壁面に激突して跳ねた。

 ぽっかりと空いた敷居の奥に、ドロップキックのうつぶせで着地するシルエット。ブレザスカートは躍り、だが肝心の中身は暗闇にまぎれて見えなかった。

 すると、着地してすぐに百目鬼、そこにトランポリンでもあるかのように軽快に腕力だけで跳ね起きる。背を向けたまま、一足飛びに廊下にまで躍り出ると、空中で反時計回りに身を翻らせ、大隣の左の膝を目掛けて右の下段回し蹴り、一閃。

 ざりっ──安っぽい摩擦音とともに、大隣の右手にライターの炎が立った。そしてその妖しい朱色に向けて彼、口に含んでいたらしい液体を一気に噴きかける。

 ぼうッ──空気を殴ったような低音が鳴り、朱色は瞬く間もなく拡散、百目鬼の頭上へと。

(酒!?)

 火炎放射を頭から浴びた彼女、紙一重のところで標的を失してローキックを空振りさせるも、すぐさま床に仰向けに。そしてブレイクダンスのようにして横に1回転、さらに両の腕力で強引に逆立ちすると、どりゅッ──スクリューの回転を得た足蹠そくせきで前人未到の顎を急襲。

 ライターを手放して大隣、咄嗟にクロスアームでガード。しかし押し負け、180pの背丈がわずかな背伸びを許した。

 逆立ちの肢体が宙空にホバリングする。

 唖然と見蕩れるほどの滞空時間である。

 と、足の裏が頂点に達するや否や、彼女は下半身をこちらに折り畳んだ。スカートは完全にはだけ、逞しいお尻と黒い下着が目の前に──再び見蕩れる京師を余所にふわりと彼女は着地、わずかな前傾姿勢で大隣と対峙たいじ

 分厚い背中は、まだ蒼白く燃えている。

 しかし百目鬼は休まなかった。たちまちのうちに間合いを詰めると、右の上段突き、左の下段蹴り、右の中段突き──ひと息にまかなわれる剛刀のような連打。

 ところが、右手で捌き、右膝で和らげ、左手でなす大隣。ほんの今し方に踵を浮かされていたとは思えぬ正確さで、彼は烈火の連撃を外してみせたのである。

(空手)

 まさに空手の体捌きだった。

 しかも彼、中段突きの勢いで、わずかに彼女の身体が流れるのを見逃さなかった。往なした左手で彼女の黒髪をむんずとキャッチ。そのまま大地へと落としこみ、同時に顔を目掛けて右の膝を蹴り上げる。

 ごッ──硬質な、しかし鈍い音が廊下に響いた。膝が直撃したとわかった。

 が、百目鬼はくずおれることなく、ガラ空きの軸足を生け捕る。右脚も絡ませ、まったく基本どおりのタックルである。

 支えを失い、やむなく尻餅をつく大隣。すると彼女は、捕えた左の足首を右の脇に抱えなおした。そして腕力と梃子の原理を利用し、一気にアキレス腱を絞り上げる。

「むがッ!」

 これも基本どおりのアキレス腱固めに、初めて苦悶の声を上げる大隣。せっかくのイケメンも形なしの皺をチークに刻むと、彼女の胸もとをフリーな右の足蹠で何度も何度も蹴った。策略の蹴りではなかった、焦りの蹴りだと容易にわかった。

 どッどッどッ──大隣の微かな吐息とともに、鼓動のような音が床を這う。だが、厚い胸筋と豊かな乳房がことごとく足蹴あしげを吸収、百目鬼になんら揺らぐ気配はなく、涼しい顔の陰影がさらなる負荷をかけた。

 そういえば、いつの間にか蒼炎が消えている。アルコール臭も消え、その代わりに髪の毛の焦げた悪臭がうっすらと

 ぼつッ。

 コードの切れるような音がした。そして直後に、

「だおッ!」

 大隣の絶叫。

 アキレス腱、断裂。

「うぅわ……」

 京師までもが苦痛の顔になる。

 もとのフォルムがわからないほどの鬼の形相で、歯を喰い縛り、細かく震えながら無言で悶絶する大隣。アキレス腱を切った経験のない京師だが、声も出ない激痛であることは彼の形相でわかる。

 が、次の瞬間、

「あ」

 京師の死角となっていた大隣の右手に、妖しい光が。

 蒼白い光。

 サバイバルナイフだった。

 それが、百目鬼の左の太腿に消えた。

 刺した。

(刺した!?)

 わからない。だって音がしなかった。テレビドラマのような、肉を斬る音なんてなにも聞こえなかった。ただ単に死角からあらわれ、再び死角に消えただけ。

 でも、刺す以外の用途が思いつかない。

(刺した!? 刺した!? 高校生が!?)

 にわかに動揺する京師。

 顎を外すのも、崖から落とすのも、火炎放射も、どれも残虐な手口とはいえ、狂犬グループの幹部であり『幻影』であれば十二分に納得できる手ではある。むろん、本来ならばナイフも。

 しかし実際、

(ナイフだぜ!? 刃だぜ!?)

 銃と刀──法律上の禁忌に置かれている理由を戦慄で悟った。リアルなものとして目撃すれば、その緊迫感たるや甚大なるものだった。

(いくらなんでもナイフは……)

 まきッ。

「……あ?」

 動揺を隠せない京師の目の前、柔らかいような、硬いような音を立て、大隣の左の足首から先が勢いよく半周。

 天を向いていたはずの足の先が、摂理を無視したかのように大地を指している。

 百目鬼は、怯まなかったのである。

「ごおおおお……ッ!」

 排水溝の詰まりが取れたような大隣の低い絶叫。両腕と右脚を天に伸ばして仰け反り、スタチューのように全身を硬直。

 と、やにわに彼は上体を起こす。般若の形相で、半周して変わり果てている己の足首をつかまえに行った。拾いに行くように見えた。

 腹を斬られ、臓物をこぼした侍が慌てて掻き集める──戦国時代にはそんな光景が見られたというが、変わり果てた己の肉体とは、いつの時代にも未練の凝固したものなのだろうか。

 そんなことを感じ入っている間に、百目鬼はあっさりと大隣の左脚を解いた。

 しかし、見逃すわけではなかった。

 足首を拾う、その一瞬、百目鬼は素早く彼の首を右の脇に抱えこんだ。絞り上げてうつぶせにし、まるでフロントチョークを押し倒したような状態にすると、彼の背中から左手を回して左腕を捕える。そのまま背後にねじり上げて肩関節をめる。

 右の脚もすでに捕えられていた。股を広げ、蟹挟みするように太腿で太腿を囲っている。

 百目鬼は、力強く胸を張った。

 チョークを極める右腕、肩関節を極める左腕、右の太腿を囲う両脚──そのどれもが棍棒のようにパンプアップしている。

「いぐぎぎぎ……!」

 自由が利くはずの右腕もこうなってしまっては不自由に等しい。溺れるようにジタバタと藻掻もがくが、有効な打開策とはなるはずもなかった。

 そんな1対を見て、京師はふと、

(あぁ、抱かれているような……)

 不思議と、そう感じた。

 下になる百目鬼、上になる大隣──折り重なるシルエットは、なんだか、愛しあう女と男のそれだった。

 だが、女は月を見ている。悟ったような無表情で、天の一点を見据え、無我夢中に愛撫する男を余所に、されるがまま、女はただ、月を見ている。

 決して愛しあっているのではない。

(待ち人が他にあるかのような……)

 池袋の薄明かりを月に見立て、京師の瞳は、そんな儚い女心を映していた。立ち合いであることを忘れさせる、それほどにキネマティックなシルエット。

 やがて、

「こ、か……」

 男はついに、

「……ぉ……」

 果てた。

 無我夢中だった右腕も、ついにしなれ、ぴくりとも動かなくなった。

「ふ」

 小さく息を吐くと、やおら、女は棍棒の四肢を緩め、覆い被さる男を左にける。

 憐れな表情の、大隣だった。

 仔犬の双眸そうぼうは白目を剥き、無言を貫いてきた口からは長い舌が飛び出ている。弛緩した顔はソフビ人形のようで、見れば見るほど原型がどうだったのかを思い出せない。

「悪くない闘争でした」

 観客だったかのように余裕綽綽な感想を述べ、ゆっくりと百目鬼は起き上がる。そして腰の左右に両手を当てると、

「ナイフを出すまでは」

 一転、低い声で言い、大隣の悲惨な顔をじっと見下ろした。

「地位、権利、学歴──そんなにいっさいも頼らず、生まれ持った拳足だけで人生を押し通す、そんなピュアな自負心を養うことこそが空手の本懐なんですよ?」

 我が子を諭す親のようにつづける。

「ましてや刃物を持つなど後手も後手。不要な手を拾ったも同然です。まったく、空手家ともあろう者が情けない」

 熱帯夜だというのに、彼女の背中からは湯気が立っていた。それが汗なのか、燃えきれなかったアルコールなのかは流石にわからない。ひとつ、確かなことは、傍観していた京師のほうがじっとりと汗ばんでいたということ。

 見れば、左の太腿にはナイフが突き立っている。刃の半分は肉に埋まり、もう半分は薄明かりを模倣している。予想外に出血は少なく、しかし、抜き取れば瞬く間もなく噴血するだろう危うい深さを示している。当の百目鬼こそ飄飄としているものだが、その危うさに、なぜか、ずくん──京師の肉体が疼いた。

 背徳の性衝動だった。

 ふと横顔を上げ、深呼吸の胸を大らかに膨らませる百目鬼。自負心の塊のような、堂堂たる対の母性は思いがけず円やかで、無我夢中を演じさせられた大隣のことがなんだか羨ましく

「野蛮な目ですね」

 不意にずばりと囁かれた。はッと我に返ると、いまだ精気に満ちる瞳が京師をまっすぐに貫いている。

「思いの他に勇気がおありのようで」

 上目遣いを浴び、取り繕うことしか術がない。

「いや、あ、の、そ、それはそうと、さ、最後の、あの極め技? あれ、あれはさ、オリジナルの技なの? それとも」

「鬼門陰陽流のひとつですよ」

 百目鬼は素っ気なく答え、わずかに左脚を引きずりながら歩き出す。

「名を、月夜這い──といいます」

「ツクヨバイ」

 その斜め後ろで追従する京師。これではどちらがガイドだかわからない。

「ええ。相手の左腕を捕えるのが難しい、意外と難易度の高い技なんですよ……この階段を上がればよいのでしょうか?」

「あ、あぁ、そう、だね……大丈夫?」

「ダイジョウブ?」

 口をついて出てきた我が本音。なのに、京師ときたら、

「お、気、づかいは、不要です」

 珍しく動揺する百目鬼の眉間まで、ついうっかりと見過ごす体たらく。




    





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