栞

きびだんご
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Category : Diary
Update : 2015/02/26[Thu]03:00



 どうでもいい近況で恐縮だが。

 現場をお偉いさん(監督所の所員)が訪問するとのことで、朝礼の最中「出会ったら元気よく挨拶してください」という小学校なみの注文が出た(建設現場あるある)。

 また「正午前の11時40分から職長会議があるので、いつものように職長さんは参加せよ」との指令もくだった。ちなみに職長会議とは「本日の各職の追加作業の有無」とか「明日の人員、作業内容、搬入予定」とか「本日以降の現場全体の予定」などを打ちあわせておく会議のこと。世間が曰く、日本の一般企業の会議は半分以上がムダ話でできているらしいが、建設現場においてはあんがい周知の必要な重要事項が取り沙汰されやすい。だからか、私は職長会議をムダだと思ったことがない。

 もちろん、面倒だが。

「遅刻や不参加が見受けられるので必ず参加するように」との念の入れよう。特に報告するような追加事項もないので、面倒くさいなぁと思いつつも、いちおうの職長である私は携帯電話のアラームを11時30分に設定してから作業を開始(私は仕事に集中すると時間の概念が吹き飛ぶので)。

 で、ちょくちょく黒服の人間が現場内を訪れるのを目撃する。パリッとしている。ピカピカの来客用ヘルメットもさることながら、ニッカズボンやらチノパンの往来する現場内にあってスーツ姿が異色である。いかにもお偉いさん然としている。なるほど、彼らが件のお偉いさんらしい。作業員の休憩所を兼ねる事務所へとしきりに出入りしはじめる。

 知ったこっちゃないわと思いつつ作業に集中。時間の概念が吹き飛ぶ。10時の一服休憩を無視しかける(仲間にうながされてようやく気づく)。喫煙所が別区画にあるため、荷物の中に置いてある煙草を取りに休憩所を訪れると、そこには黒服の集団。作業員の椅子を占拠してああだこうだと会議に没頭中。静々と入室した私のほうが異物感もたっぷりに一瞥される始末。

 なんか腹立つ。

 一服後、ふたたび作業に集中。で、集中していたおかげであっという間に11時30分を迎える。仲間に作業を託し、面倒くさい足で職長会議室である休憩所へと向かう。

 が、依然として黒服たちが占拠中。作戦会議はいまだに進行中で、もちろん現場監督もその中に混じってる。

 リードマスタである監督がいなくては職長会議など開かれない。ウチらで勝手に催すことはできない。

 なんだよと思いつつ、いったん持ち場へと戻る。およそ5分をかけ、もう使わない工具や立ち馬をとりあえずネタ場に戻す。それから、その足でふたたび休憩所へ。

 作戦会議、白熱中。

「あれ? 職長会議、ヤんねぇのかな?」
「……ね?」

 同じく休憩所前に来ていたガテンな大工さんと会話。やむなく、私も大工さんもひとまず自分の持ち場へと戻る。で、少しだけ作業場を片づけるなどしてふたたび休憩所へ。

 作戦会議、いまだ終焉が見えず。

「必ず参加って言ってましたよね?」
「念、入れてましたもんね」

 電気屋さんと会話。

 そうこうしている間に、

「は? まだヤってんの?」

 大工さん、再来訪。

「なに? 監督はバカなの? 俺、ヒマじゃねぇんだけどなぁ」

 休憩所内に聞こえるように愚痴る。

「おめぇがひとり抜けたところでなにも変わりゃしねぇっつーんだよ」

 職長会議を切り盛りするはずの誰かさんを痛烈批判。そして、

「こういうトコがニッポンだよな?」

 同感。

 ムダの多い日本の会議事情にあってまだムダが少ないほうの建設現場だが、その、わりと有意義な会議でさえも、お偉いさん如何によってポシャってしまう現状。年功序列だか階級序列だか知らないが、だったら「全員参加」なんて念は入れないでほしいもの。なにしろこっちもヒマじゃない。

 許多あまたといる監督の中から職長会議要員をひとりだけ出せばいいのに。で、あとはホウレンソウの要領で連携を取ればいいのに。なのに、誰も動こうとしない。

 まぁ、私なんぞからしてみたら、階級が上の人間を敵に回すよりも、よっぽど大工さんを敵に回したほうが怖いと思うけど。実践主義なわけで、監督よりも現場を熟知してたりするもんね、大工さんって。会議室ではわからない、作業場ならではの機微まで把握してる。で、それこそが業界全体のエンジンだったりする。

 別に、お偉いさんの会議を否定するわけではないけども。

 結局、職長会議はなかった……というか、最初はなからなかったようにされてた。あとになってポシャったことを謝罪するわけでもなく、通常運営を装われた。

「職長はヘルメットに職長バンドを装着しなさい」と命ずるほど、一見すると規律にうるさい現場なんだけど、見た目を重要視するだけの杜撰ずさんな現場でもある。

 大企業には程遠い──そんな印象。

 この現場にかぎらず、こういうことはよくあることである。わざわざネタにするほどのことでもない、あるあるネタにもならないような茶飯事。

 あえて書いてみた。

 他にも、面白いと言ってはナンだけど、お偉いさんの訪問予定を受け、前日の職長会議や当日の朝礼中に「彼らに見られてマズい作業はしないように」と釘を刺されることもある。見られてマズい作業ってどんな作業だという話ではあるが、つまりはソレが機微の部分。

 団子になって動けない監督の心情もまた機微のひとつではあるけども。




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