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Category : I Think
Update : 2020/02/12[Wed]12:00



 色いろと不倫騒動が起きているらしい。芸能界の話。

「騒動」と聞くと昨今の渋谷のハロウィンをイメージしてしまうのだが、見渡すかぎり街は落ち着いている。外国人観光客が自撮りセルフィで旅を謳歌している以外は。

 主にSNS上での話らしい。Twitter とかヤフコメとか。

 どっちが悪いとか、相手が可哀想とか、スポンサが迷惑とかで、最終的に「がっかり」とつぶやいているらしい。当事者でもスポンサでもない人々が。

 本当かしら。

 Twitter にもヤフコメにも参加していない、閲覧すらしていない私にとって、騒動が起きているという情報自体が眉唾物まゆつばものなのだが、少なくとも某ニュースサイトは、騒動が起きていると想起させる後追い記事に占められている。偏向報道はどうかと思うが、話題トピックが偏るのもどうかと思う。なんだか誘蛾灯を見ているようで気持ち悪い。

 これらの後追い記事が真実であると仮定すると、世のSNSユーザはたいそう憤怒ふんぬしていらっしゃることになる。そんな人、街で見たことがない。どこにいるんだ憤怒するSNSユーザって。どこに行けば会えるんだ。新橋?

 なにはともあれ、不倫したほうを叩いているのだそう。不倫されたほうは可哀想なのだそう。スポンサに代わって迷惑を叫んでいるのだそう。

 本当かしら。

 まぁ、不倫問題で世の民が憤るのは、なにも今にはじまったことではないと思う。当事者の出演番組やそのスポンサ企業に苦情が殺到したという話は昔から耳にする。SNSの普及によってそれが表面化、話題がよりクローズアップされやすくなったということなのだろう。

 私は、どうでもよい。

 誰に惚れて誰が腫れただのって、そんなのはどうでもよいこと。仮に、身近な人が不倫したとしてもこの食指は動かないだろう。動くとすれば、せいぜい自分の恋人が浮気した時ぐらいか(最低でも殺意は芽生えるだろう)。とりあえず、芸能人が不倫したところで私の日常生活にはなんの支障もないのだから無関心。他人事ひとごと。どうでもよい。完。

 終わりませんけど、こういうSNS上での炎上騒動を見聞きするにつけ、ひとつ、私には思うことがある。ちょっと危ういかも──と。

 SNSって、匿名でのやり取りが多い。本名などの個人情報を隠し、主にユーザネームでやり取りする。FacebookLINE には身近な人とのやり取りも含まれるのでこのすべてではないものの、それでも、匿名性を保持しているチャンネルは必ず存在する。

 そうなると、匿名であることをかさに着て赤の他人を口撃することが容易くなる──という問題が発生する。これに関しては以前から指摘されているようで、もうそろそろ匿名はやめようという声もちらほらと目にするのだが、要するに、これが「匿名性SNSの武器であり凶器」と言っても過言ではない。

 じゃあ、逆に、匿名性SNSの弱点はなにかと言えば、

「自分の身の潔白を証明できない」

 というのが挙げられる。

 例えばの話、自分は今まで安全運転を心がけてきた──とツイートしたとしても、この人の歴史をいっさい知らない他のユーザからしてみたら「ホントかよ」という話になってしまう。仮にゴールドの運転免許証を掲載できたとしても、やはり「どうせ加工でしょ?」とか「ほとんど運転しなければ自然とゴールドになるし」とか「たまたま白バイに見つからずに生きてこれた説」などと揶揄やゆされるばかりで、絶対に信じてもらえない結果になるだろう。中には信じてくれる人もいるかも知れないが、確率で言えば、信不信の割合は常にハーフハーフ──身の潔白を証明するための割合としてはあまりにも心もとない。

「人を差別したことがありません」
「人をいじめたことがありません」
「子供を虐待したことがありません」

 こういう発言も同じでハーフハーフ。家族とか、級友とか、同窓とか、実子など、発信者の身近にいる人間や発信者の歴史を知っている人間以外に、発信者の身の潔白を証明することはできない。

 もちろん、

「今まで不倫したことはありません」

 これも。

 私が危惧きぐしているのがまさにこの部分。

「潔白狩り」のターゲットにされた場合、匿名性である以上、絶対に身の潔白が証明できないのだ。絶対に反論できない。そして、証明できないこと、反論できないことに気づき、味を占め、こうしてハンターが増えることによって匿名性SNSの自由度が著しく低下してしまうかも知れない──という危惧。

潔白けっぱくり」である。

 すでに「言葉狩り」や「不謹慎狩り」というのがある。災害時など、限定的暫定ざんてい的な条件が揃わないと発動しにくい狩猟だし、まだ反論の余地もある狩猟なので今のところ大事には至っていない様子だが、もしも「潔白狩り」というのが出てきたら、ちょっと厳しいかなぁ──と私は推測している。

 芸能人の不倫問題に関し、

「なんかがっかりなんですけど」

 と発言したとして、

「あなたは不倫してないんですか? あなたは潔白なんですか? 自分を棚上げしてるだけなんじゃないですか? だとしたら卑怯ですよね? ただの悪口ですよね? 違うって言うんなら不倫したことがないのを証明してもらえます?」

 こう横槍よこやりを入れられたら、どうする?

 しかも、1人や2人じゃない、わりかし多くの赤の他人から狩猟のターゲットにされたら。そういうサブカルチャが形成されたら。

 匿名だから、証明できないのよね。

 で、なんにも言えなくなるのよね。

 しょうがない、個人情報、明かす?

 私には、ムリ。

 たぶん、擁護してくれる人はあらわれるだろう。でも、擁護してくれた人にも「潔白狩り」の矛先は向けられるだろう。それができてしまう類いの狩猟なのだから。で、擁護してくれたのにご迷惑をおかけして──申し訳ない気持ちでいっぱいになるだろう。

 仮に、

「そういうあなたは不倫したことがないんですか?」

 という反撃を試みたとしよう。しかし、

「ありますよ? あるので批判してませんが? あなたは不倫したことがないんですよね? だから批判してるんですよね? だったらまずは身の潔白を証明してもらえますか?という話をしているんですけど? 読解力がないのでしょうか?」

 開きなおって返されるのは想像にかたくない。

 なので、

「不倫したことがあるだなんて開きなおって気持ち悪い!」

 こう反論したとしても、

「あなただって不倫したことがあるかも知れないのに、そんな自分を棚上げして第三者を批判して、そっちのほうが遥かに気持ち悪いと思いますけど?」

「ないと言ってるんです!」

「それを証明してくださいと言ってるんです。人の話、聞いてます?」

 どう考えても分が悪い。

 聞くところによれば、今のところは同調性優位なのか、芸能界の問題に関しては当事者に対する批判で占められているらしい。が、いつかこの序列が逆転しないとも言いきれない。匿名性SNSの武器がいつか諸刃の剣へと変貌するかも知れない。それで、萎縮いしゅくして、言いたいことが言えなくなって、SNS自体が小ぢんまりとしたツールになってしまうかも知れない──言葉狩りや不謹慎狩りの時とは比較にならないぐらいに。

 まぁ……やっぱりどうでもよいのだが。

 それでも、こうやって誰が見るともわからないような感じで文章をネット上にアップしている者としては、たまさか狩りの矛先がこちらに向けられるようになってもらっては困る。ハンターは血に飢えている。貪欲なのだ。過疎っているかどうかなんて彼らには関係ない。

 憤怒もほどほどに──と書いておこう。

 杞憂きゆうに終われば良いけど。SNSという文化そのものが変なテイストをおぼえないことを祈る。私、美味しくないんです。





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Nanase Nio




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