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Category : I Think
Update : 2015/01/15[Thu]23:00



 きっと悪い人ではないとわかっており、きっと憎めない人なのだろうと察せられる人なのに、きっと永遠にウマが合わないのだろうと思わせる人が実在する。

 リズムが合わないのだ。

 リズムとは「体内時計」と言い換えても良いのかも知れない。

 まず、その人は異様に足が早い。なにも短距離走のような競技的なお話ではない。平素の歩行スピードが異様に早い。私もだいぶ早いほうで、東京の人は歩くのが早いという上京初心者の言を都市伝説だと勘繰るほどではあるのだが、しかし、その人にはまったくもって敵わない。駅などで待ちあわせた後、一緒に徒歩で現場(仕事場)へと赴く際には、私はやや呼吸を荒げながらその人の背中を追うことになる。

 仕事面でもテキパキしている。いや、テキパキと言うよりもセカセカと表現したほうが良いのかも知れない。資材や工具を運搬するのも、施工も、回収も、どれもが忙しい。さっきまで右にいたと思えば瞬きの間もなく左に移動している。あくびの間もなく行方をくらませ、首を鳴らす間もなくバルコニィを横断している。しかも下層階のネタ場(資材置場)に仮置きしておいたはずの資材を担いで。

 休憩中も喉が慌ただしい。黙っていられない性格なのか、あちらの現場がどうだった、こちらの現場がこうだった、そちらの現場監督が頼りなかったと、体験談を無分別にまくし立てる。そしてその都度「あの現場は行った?」とか「この現場は知らない?」などと質問。現場での体験談を語ることが大好きな人らしいのだが、体験談から次の体験談へと移るスピードも早く、あの現場やこの現場に行ったのかどうかを思い出している時間さえも与えてはくれない。結果、私は「んー」というどちらとも取れるような反応しかできずじまい。

 ご飯を食べるのも早い。トイレも早い。疲れているはずの帰路でさえも早い。

 なにからなにまで猛スピード。

 コンビを組むと大変だ。例えば、重量物を2人で持つ際、たいていは「せーの」の「の」で呼吸を合わせて持ちあげる場合と「せーの、ん」の「ん」で呼吸を合わせて持ちあげる場合とに分かれる。たいていはこの2パターンなのだ。しかし、この人は「せーの」の「せ」ですっかり持ちあげ、そして「の」で移動をはじめる。おかげで身体が持っていかれ、つんのめる。危うく転んでしまいそうになる。

 ……こう聞くと、その人のリズムに順応すればいいじゃんと思うかも知れないが、肉体に馴染んだ技術というものは一朝一夕には変化させられない。50sを優に超える重量物だったりするのだから、どうしても肉体に浸透している運搬技術のほうが先に立ってしまう。極端な話、普通の打法しかできないバッターに対して「一本足打法でやれ」と言うようなものであり、残念ながら、頭ではそうとわかっていても肉体のほうが応急してくれないものなのだ。

 その人は工具の取り回しも早い。掃除も早い。段取りも早い。だからか仕上がりは大雑把になる。コンビを組むと必ずや巻きこまれる。私までもが大雑把になる。ホントは几帳面にやりたい。でもその人は「そこはザッとでいいよ!」と言い放ち、持っていた資材を私に手渡すや否や「こっちやろう、こっち!」と手招き。渋々に招かれた場所を施工していると、またもや「そこはザッとでいいから!」と言い放ち、いつの間に持ってきたのやら、別の資材を手渡してくる。

 疲れる。

 せめて昼食ぐらいは1人で取りたい。しかし、その人はあっけらかんと笑う。

「昼ご飯はどこにする?」
……どこ?」

 Howではなく、Where

 相席することが前提の質問なのである。

 息をつくヒマもない。

 なにしろ帰路も早いので、私が完全解放されるのは現場の最寄り駅に到着した時。ここで私は必ず、

「じゃあコンビニでお金をおろしてから帰りますんでお疲れっした!」

 予定にないことを口にしてムリヤリにその人から──その人のリズムから脱出。

 いや、決して悪い人ではないのだ。私にとっての悪い人ではない。プライバシィには干渉しないし、それこそ、私の趣味や興味や年齢さえも質問してこない。下ネタも口にしないし、人生論も口にしない。理論的ななにかを押しつけはしないのだ。そういうことをする人がことごとく嫌いな私には、その人はむしろ「気楽な人」と言えるのかも知れない。

 が、疲れる。

 その人は、疲れる人だ。

 リズムが違うと、こうも疲れる。

 レゲエを聴きに行ったら、そのハコがゴリゴリのトランスイベントだったような感じ。

 すべての細胞が、ドッと疲れる。

 きっと、永遠にウマが合わないと思う。悪い人ではないのに、きっと、永遠に。

 皆の衆。

 リズムをあなどるなかれ。

 この世のすべての原因は、リズム。

 イズムよりも、リズム。

 相手に尽くしたければ、相手のリズムを楽しめなくては。貧しき民族にもリズムは根づいていることだろうが、富める民族にそれを楽しめる音感が根づいていなければ……でしょう?

 平和ってそういうことかもね。

 ま、私には難しいことだけど。

 だって日常生活でコレだもの。





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Nanase Nio




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