Vignette 

Category : Playhouse
Update : 2016/01/26[Tue]02:00



 私は「テツ」じゃない。オタクでもマニアでもない。列車の顔は見分けられないし、モータの音も聞き分けられない。犬釘にも、パンタグラフにも、吊革のフォルムにも、この食指は上手に動かない。

 ただ、動かないからと言って、もとより無関心というわけでもない。ただ単に、1からスタートするのが億劫おっくうなだけの話。鉄道への愛好精神が世間に認知されて以降、まるで宇宙のように膨張しつづける鉄道網情報を1の段から暗唱することはまことに骨の折れる作業タスクだと勘づいている。まことに億劫で、または憶している。

「鉄」の熱情パッションの姿を各媒体で見るにつけ、羨望の感が湧きもする。首ったけになるための新陳代謝がすでにできあがっている様子が、なんだかとても羨ましい。

 それでも、仕事の関係上、ゆりかもめの高架の上を歩いたり、営業終了後の地下鉄『表参道』の構内を闊歩かっぽしたこともある。中には一般客の立ち入れない領域も含まれていて、そういう意味では、こんな私であっても「鉄」に羨まれる側となり得るのかも知れない。

 熱情の話に戻るが。

『A列車で行こう』という名のゲームがある。もとはPCゲームだけど、この世に生まれて以降、多くのプラットフォームへと葉脈を広げている。基本システムは守りつつも、しかし幅広い深化を続けている。まさにシミュレーションゲームの王様だ。

 なにもない一定の大地に駅舎を建設、線路を敷設、電車を設置し、また、住宅地、歓楽街、商業区域といった属性をつける。たったそれだけの作業で、駅周辺に様々な施設(民家、マンション、雑居ビル、高層ビル、店舗、娯楽施設など)が、指定した属性に従って徐々に建っていく。それから、また駅舎の建設や拡張、線路延長、ダイヤ操作、属性指定などを施す。そうやって、資金が許すかぎりに大地を開拓し、発展させ、管理し、資金を増やし、理想に近い箱庭を創造していく。昼夜や季節の概念があったり、日本のみならず世界中で活躍する既存の列車を配置することもできる、シミュレーションゲーム『A列車で行こう』とは、リアルとファンタジィを両立させるゲームだ。

 プレステ初号機版とプレステ2版の2作品のみだが、一時期、私はこれにハマった。もともと箱庭への関心が高いということもある(このブログの主題『Vignette』には「フィギュア以上、ジオラマ未満の箱庭的玩具」という意味もある)んだけど、なにはともあれ、しんしんと雪の降る架空の街の中、ごとんごとんと音を立てながら駆けるオレンジ色の中央線車両を私はうっとりと眺めたもの。自然音のみ、すべてのBGMを排除したサイレントな演出であっても、それが逆にリアリティを招き、甘美な悦楽さえも招いたものなのだ。

Vignette の一例

 クドいようだけど、私は「鉄」じゃない。でも、彼らを支える熱情に匹敵するだけの悦楽は、この頭の内部に確かに備わっていると感じる。私が億劫がりでなければ、もしや「鉄」になっていたかも知れない。可能性は否めず、否めない可能性に対して満更まんざらでもない感覚さえもおぼえる。



 話は変わって(実は変わらない)。

 私は、東京都練馬区の某所に暮らしている。最寄り駅は、西武新宿線『上石神井かみしゃくじい』から数えて数駅の某駅。職業は(詳細は秘密だが)いわゆるガテン系で、所属会社は副都心部に建っている。

 作業内容にもよるのだが、建設現場へと直行することがある。よくある。所属会社には寄らず、公共交通機関を乗り継いで直接現場へと出勤するわけだ。

 新宿や渋谷などの近場ならば問題ないんだけど、場合によってはなかなか遠い現場をあてがわれることがある。ガテン系全体が東京五輪バブルに沸いているのかと言えばサにあらず、沸いているのはおよそ大店おおだなで、ウチのような弱小下請建設会社が都心部の五輪関連現場に介入できる機会は乏しい。おこぼれにあずかってラッキーという程度のこと、そうでもなければ郊外にしか現場はない。葛西かさい立川たちかわ二子玉川ふたこたまがわ、川口、大宮、川崎、横浜、牛久うしく──など、我が家からではどうしても遠い場所ばかり(先日は小田急線『町田』を最寄り駅とする某所に行って雪掻きだけで日が暮れた)。

 で、結論を言う。

「西武新宿線は素晴らしくアクセスが悪い(いつもお世話になっています)」。

 例えば、東武東上線とうじょうせん和光市わこうし』が目的地の場合、西武新宿線『高田馬場たかだのばば』まで出て、JR山手線に乗り換えて『池袋』へと向かい、東武東上線に乗り換えてようやく『和光市』となる。地図上では半時計回りに迂回する格好となる。または、西武新宿線『中井なかい』で都営地下鉄大江戸線に乗り換えるなどして行けもするが、いずれにしても遠回りには違いない。

 ただ、ここで問題なのだが、我が家から『和光市』を南北の直線で結ぶと、電車を利用するよりも早く到着できてしまうのだ。要するに、電車で迂回すれば1時間程度になる通勤時間が、自動車などで北上すれば30分程度で事足りる。

 JR中央線『三鷹みたか』も似たようなもので、西武新宿線『東村山ひがしむらやま』あたりまで出て、西武国分寺線に乗り換えて『国分寺こくぶんじ』へと向かい、JR中央線に乗り換えて『三鷹』──これまた半時計回りの迂回であり、所要時間は30〜40分程度。でも、自動車などでまっすぐに南下すれば15〜20分程度で到着できてしまう。

 小田急線『成城学園前せいじょうがくえんまえ』ならば、まず新宿方面へと迂回しなくてはならないし、東急田園都市線『二子玉川』であれば、まず渋谷方面へと迂回しなくてはならない。

 西武池袋線『石神井しゃくじい公園』ともなると、これがまたバカらしい話になる。なぜならば、自動車であれば10分程度でたどり着ける駅なのに、電車の場合、いったん西武新宿線『所沢』まで出て、西武池袋線に乗り換えて『石神井公園』──所要時間は実に30分にもおよぶ(昔は特級のライバル会社だったものだから両線の間に妙な距離があるのは目をつむるにせよ)。

『上石神井』を中心とした半径数十q圏の空白地帯が、複雑な東京の鉄道網にぽっかりと空いているイメージ。まったくのドーナツ化現象で、つまるところ、西武新宿線と他の路線の相性はバツグンに悪い。せめて石神井のあたりを中核ベースにして、縦に1本、線路が縦断していてくれればどんなに便利だろうか。

 ……たぶん東京在住の者にしか理解できない話題なんだろうな。練馬区民にしか理解できない苦悩かも知れない。ただ、はっきり言って、不便、不条理な実情であることには違いない。

「車にすればいいじゃん」と言われるかも知れない。そのとおり。でも、残念ながら駐車場のある建設現場なんて稀有けう。たいていは近場のパーキングに停めなくてはならない。

 そんなぜぜこなんて持ち合わせたくない!

 そもそも車を持ってない!

 真実、車はドMの趣味である(これはそのうち脳科学的に証明されると思うマジで)。ドSの私にはまったく理解できず、ゆえに自動車を持つための確たる理由もない。

 社用車という方法も、ないわけではない。ただ、今回の随想エッセーの論点は「単独での現場直行」だ。会社に寄るという作業は除外される……というか、早朝からわざわざ電車に乗ってさらに副都心部の会社まで徒歩で行くという作業がまず地獄なので、原則的に私は直行直帰システムしか希望していない。

 そんなこんなで、自動車を持たず、バスは電車よりも確実ではない(渋滞に引っかかる懸念が大いにある)ので会社から推奨されてないし、私自身もバスは頼りないと思っている(バスの失敗談は山ほどある)しで、やむなく電車で迂回している。あぁ面倒くさい面倒くさい(いつもお世話になっています)。

 そこで。

 ここからが妄想の話になるんだけど。

 東京都大田区を出発点にして、世田谷区を経由、さらには、西東京、そして埼玉方面へと流れていく新たな路線を勝手に考案してみた。

 なにぶん、この全域はすでに住宅が多い。地上に線路を敷設するにはムリがある。そういう理由で、ここはひとつ、地下鉄メトロということにする。

 もちろん、地下鉄の隧道トンネルを掘るためにクリアしなくてはならない条件を、私は知らない。例えば「大きな公園の下は避けるべし」とか「学校の下はNG」とか「大きな道路に沿え」とか、もしかしたらそんな条件や規則が存在するのかも知れない。でも、なにしろ私は「鉄」じゃないんだし、つまり1から勉強するような根気はない。

 要するに、妄想の話だということ。実用性だの需要だの供給だのコスパだの地域別条令だのというロジックをすべて排除し、あくまでも「私にとっての利便性」だけを念頭に置きながら新しい地下鉄を掘り、開業させてみた。すなわち『A列車で行こう』を脳内プレイしてみたというわけだ。



【 続く 】≫≫≫





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Nanase Nio




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