栞

可笑しみ
Vignette


𝐂𝐚𝐭𝐞𝐠𝐨𝐫𝐲 : 𝐏𝐥𝐚𝐲𝐡𝐨𝐮𝐬𝐞
𝐔𝐩𝐝𝐚𝐭𝐞 : 𝟐𝟎𝟏𝟐/𝟎𝟑/𝟐𝟑[𝐅𝐫𝐢]𝟎𝟏:𝟑𝟎



 仕事の休憩時間に読んだウェブニュースの中、面白かったものを2件だけ紹介。



   ☆



『mobile R25』より。

 たぶん英語圏のものだと思うが、海外の匿名画像掲示板にて、日本のアニメのランク付けが行われたらしい。要するに、外国人の思う日本のアニメのベスト10だ。まぁ、36歳の私にとって、ベスト10のどれもがまったく知らないタイトル、謎に満ち溢れているタイトルなんだけれど、とりあえずは以下のとおりとなったらしい。


@ 魔法少女まどか☆マギカ (284票)
A STEINS ; GATE (131票)
B 輪るピングドラム (117票)
C THE IDOLM@STER (93票)
D ギルティクラウン (63票)
E 全部クソ (約60票)
F 日常 (42票)
G Fate / Zero (39票)
H フラクタル (38票)
I ゆるゆり (約20票)


 私にはなんのこっちゃという感じなんだけど、ただ、なにが面白かったって、堂々の第6位のところ。

「全部クソ」

 ちなみに、そういうタイトルのアニメはないらしい。とどのつまり、外国人の、日本のアニメに対する僻み、妬み、そねみ──と言ったところでしょうか。

 日本人って、こういうのあんまり開放的オープンじゃない印象。インにこもっていると言うか、少なくとも直球勝負はしたがらない印象。他国の優れた文化に対して、どうしても湿度100%な理屈構成に奔走はしりたがり、時に自虐モード全開で、最終的には責務理念の終末思想に陥りがちな印象。全部クソ──こういう、キュートな(←ここ重要)他国批評の瞬発力には恵まれていない民族という印象。

 侘寂の国だけあって、老齢的な可笑しみという方面では強いんだけどね。でも、残念ながら可愛らしい生意気とっぽという方面での直感的ユーモアはメッポウ弱いような。

 日本って攻める国じゃなくて責める国だもんなぁ──と改めて思ったりして。良くも悪くも。



   ☆



 老齢的な可笑しみにつなげての2件目。

『NEWSポストセブン』より。

 日常生活や社会に対し、高齢者が本音を綴る『シルバー川柳』が紹介されていた。主催しているのは全国有料老人ホーム協会で、これまでに11回と続いている。

 で、入選作の3句が紹介されていた。



◆「アーンして」むかしラブラブ いま介護
◆ 誕生日 ローソク吹いて 立ちくらみ
◆ 居れば邪魔 出かけりゃ事故かと 気をもませ



 さらに傑作選として3句が。



◆ 飲み代が 酒から薬に かわる年
◆ デザートは 昔ケーキで 今くすり
◆ 体調の 良い日は医者を はしごする



 で、過去の句を調べてみて、私個人的に感動したものを並べてみる。



   ☆



 まずは【 みた編 】。

 情愛を感じて沁みた句もあれば、年齢を重ねるがゆえの寂しさに沁みた句もあり。なんとなく沁みたってのもあり。もちろん、感じ方は人それぞれだけど。



◆ 夫婦旅 写真の横に 一句添え
◆ 老夫婦 小さな旅は 墓参り
◆ うちわ振る 湯上がり妻の 若さかな
◆ 夫婦風呂 背中に若さ 残してる
◆ ほめ言葉 あしたあしたで 古希となる
◆ 妻と行く ラドンの楽しみ 生ビール
◆「愛してる」じじの返事は「馬鹿言うな」
◆ 重い荷は 妻に残して 痴呆症
◆ 告知後の 残り灯惜しむ 若い妻
◆ 退院し 二人の家よ この味よ
◆ 亡き妻と 朝は分け合う 健康茶
◆ それからは 泣くこと忘れ 介護日々
◆ また来てね 一言のこし 姉は逝き
◆ 囲碁大会 子供のように 胸が鳴り
◆ 盆踊り 老いの手振りの あざやかさ
◆ ボケるなよ 俺とお前は 同じ年
◆ さびしさの 分かる枕に フリルつけ
◆ 爪だけが ゆっくり伸びてゆく長寿



 で、グッときた句がこちら。



◆ 表札で 生きる亭主の 三回忌
◆ 厚化粧 チャンと呼び合う クラス会
◆ 姿見に 貴方のせいと しわかくし



 で、じわんときた句がこちら。



◆ 空っぽの 乳房遊ばせ 露天風呂



 すがりつかれていた日々をとうにえ、それを「空っぽ」と表現しているように感じた。まるで終わりゆく母性の切なさが湯治に浮かぶようで、たまらなく沁みた。



   ☆



 次いで【 唸った編 】。

 ほぅ、年齢を重ねるとそういうふうになるものかね──とか、なんという若さでしょう──などと恐れ入った句。



◆ 七坂を 越えた夫婦に ある絆
◆ 皮財布 中身がなくても 持ち歩く
◆ 通院に シャネルのコロン 耳のうら
◆ ネオン街 カラスも遊ぶ いいところ
◆ 頑固でも ピンク話に 笑顔見せ
◆ エレベーター 止めるな隣に いい女
◆ 老いの恋 好きだと言はず 目が語る
◆ 混浴に セガレ立ちすぎ 上がられず
◆ H本 はんらん 平和だと思う
◆ 病む人が なくなりそうな 健康誌
◆ 朝刊の 隅から拾う 善の玉
◆ 赤信号 一番守る 幼稚園
◆ ピル解禁 もう駄目だわな 子が増えず
◆ 名医とは 患者が選ぶ 口コミで
◆ 露天風呂 地位も名誉も 湯気の中
◆ 人格の 格差広がる 高齢者
◆ 電話帳 載せてないけど 生きてます
◆ 生きている証 年賀を 墨で書く
◆ 黒喪服 しまう間もなく また出番
◆ 頼んだに コロリ観音 引き取らぬ
◆ 死生観 ドナーカードに 試される
◆ ろうそくの 燃え切るときは 輝かす
◆ 長生きは 一病持って 良しとする
◆ とって見て やっぱり解らん 年の功



 で、特に唸った句が2つ。



◆ 友逝きし カイロしのばせ 式場へ



 冬は老いの大敵であると思うと同時に、悲しむ句であるどころか逆にカイロを忍ばせる用意周到さのほうがクローズアップされているように感じ、葬祭事の慣習化されていく老後の現実リアルを垣間見たような気分。

 もう1句がこちら。



◆ 老いて見た 若い女性は みな美人



 わからないでもないけれど。でも、ほぅ、そういうものかね、そうなるものかね──唸らずにはいられなかった。



   ☆



 次いで【 笑った編 】。

 大笑いではなく、微笑ましい感じの句。



◆ 女房より やさしく起こす 終電車
◆ 亡妻の 遺品 他人のラブレター
◆ 食膳も 箸の進路は 妻が決め
◆ あの時は ああだこうだと おいの口
◆ セールスの 電話に歳を 多く云う
◆ 今日だけは 男にされた バレンタイン
◆ 無料パス 若く見えたか 顔見られ
◆ 茶髪いや 言った私も 白髪染め
◆ 留守電話 なかなか普通に 喋られず
◆ フィルムの 余りで老いも 並ばされ
◆ 矢印に 釣られて曲がる 我が車
◆ 長寿祝い 過去形だけで ほめられる
◆ 叱ったら「気にしてません」と いたわられ
◆ 風邪声の 低音魅力 若い内
◆ マイケルの 真似を発作と 間違われ
◆ 化粧品 リフォーム詐欺と 妻は言う
◆ あの世では お友達よと 妻が言い
◆ 来てやった 貰ってやったで 五十年
◆ 共白髪 まっぴらごめんと妻 茶髪
◆ 化粧品 ムダだと妻に まだ言えず
◆ 驚いた ホ (惚) れるとボ (惚) けるは 同じ文字
◆ 老人の 記憶を試す 特別便
◆ 古希過ぎりゃ 嫉妬もされぬ 朝帰り
◆ 長寿者に「ひけつ」なにかと 医者が聞き
◆ 聞くたびに 話が違う「若い頃」
◆ おれおれと 名のって妻に すぐ切られ
◆ 年だもの 最後だわねと またハワイ
◆ 忘れえぬ 人はいるけど 名を忘れ
◆ いびきより 静かな方が 気にかかり
◆ 持たされた 携帯 つまりは迷子札
◆ 診察券 五枚で 週休二日制
◆ 老いて子に 従うのにも 一苦労
◆ 口喧嘩 たまに勝っても 待つ試練
◆ 医者と妻 急にやさしくなる不安
◆ カードナシ。ケータイもナシ。被害ナシ。
◆ 万歩計 歩数のびるが 距離のびず
◆ 世辞言わぬ デジタルカメラの 解像度
◆ いたわりも 耳が遠くて どなりごえ
◆ 無病では 話題に困る 老人会
◆ 転んでは 泣いてた子が言う「転ぶなよ」
◆ 遺言を 書いた安堵で 長生きし
◆ 限界だ 元号 三つのとし計算
◆ 足腰を 鍛えりゃ徘徊 おそれられ
◆ 定年に エプロン貰い 嫌な予感
◆ お辞儀して 共によろける クラス会
◆ 証人が 一人もいない 武勇伝
◆ 定年で 田舎戻れば まだ若手
◆ 夫婦仲 社会福祉と 妻は言い
◆ 妬ましや 妻の犬への 言葉がけ
◆ バラに似て 妻も花散り トゲ残し



 で、うっかり笑い声の出た句がこちら。



◆ 注目を 一身に受け 餅食べる
◆ 秋茄子の きらいな嫁で 拍子ぬけ
◆ 混浴は 足湯だったと 友 ぼやき



 で、ツボにハマった句がこちら。



◆ 補聴器を 外し 無敵の 父となる
◆ 愛犬に とし追いつかれ 情がまし
◆ 美しく 老いよと無理なことを言う



 もはや寸評の必要もなし。



   ☆



 次いで【 孫編 】。

 なんかね、どれも胸が苦しい。



◆ 孫 やった 新聞配達 初給料
◆ 三輪車 孫にせがまれ 乗るこわさ
◆ チャンネルを がらりと替える 孫がくる
◆ 新学期 孫の入園 じいも行く
◆ 試運転 孫にひかれた おじいちゃん
◆ おれに似た 孫の短所に 甘んじる
◆ 楽じゃない ひ孫の相手 糸電話
◆ 笑わない 孫に汗かく 百面相
◆ 別れ際 孫の投げキッス 手で受ける
◆ 逆風に 落ちてくれるな 孫の凧
◆ 孫の夢 昔大臣 今大工
◆ 孫さし さっきも聞いたと 言い出さず
◆ その昔 恐竜 見たかと問う曽孫



 で、いいなぁと思った句がこちら。



◆ おじいちゃん いつまで生きると 孫が聞く



 一見、切なさのある句なんだけど、遠慮なく聞く無邪気なお孫さんに、どう応えたものかと戸惑うおじいちゃんの葛藤が目に浮かぶよう。可愛い孫を傷つけないように応えるには、この質問はあまりにも残酷。だけど、お孫さんにはきっと悪意がない。だから、もちろんおじいちゃんは嬉しいんだけど、その配慮の擦れ違いが胸のほろりとする暖かみを生み出しているように感じた。



   ☆



 最後に【 戦争編 】。



◆ シベリアで 寿司を夢見た 青春期
◆ 老兵の 端唄はうた いつしか軍歌なり
◆ 白旗に 命守られ 生還し
◆ バケツリレー せせら笑った 焼夷弾
◆ 深夜便 アコのいとし 戦中歌

  深夜便 → ラジオ
  アコ  → アコーディオン

◆ 戦友会 言葉 死語でも風化せず
◆ 国軍が 事後報告で 死ねますか
◆ 戦友の 残したものは 謎だらけ



 で、胸に迫った句がこちら。



◆ 思い出は 俺の初恋 挺身隊ていしんたい
◆ ヒロシマの 喪章が揺れる 五十年
◆ じいちゃんも 発砲したかと 孫がきき



 寸評はしないでおく。



   ☆



 しかし、シルバー川柳を楽しんだ直後にサラリーマン川柳を観ると、摩訶不思議なぐらいに可笑しみを感じられないという。

 千差万別の余命にいっそう迫っている世代だからこそ、不安や焦燥、諦観や意地を抱え──つまり彼らの、生命の残り灯にしがみついているかのような風情が、えも言われぬ人間の面白さを醸し出しているのかも知れない。延いては、うっとりと、まるで磁石のように、ひとつひとつの句にこの鼓動が引き寄せられるのかも知れない。

 要は、それが可笑しみで。

 なんと言うか、サラ川は、詠み人の生命にまだまだ余裕があるように感じる。土俵際のカタルシスをおぼえない。風刺や自虐を楽しむぶんにはいいけれど、勝負の綾としては足りない。理屈ロジックを超えた、えも言われぬ感覚という側面に関して言えば、やはり物足りなさは否めない。

 ……まぁ、私の個人的な価値観だけれど。



   ☆



 最後に。

『オタク川柳』というのもあり、これはこれで面白いので、ちょっとだけご紹介。



◆ ももクロか スマイレージか AKB
◆ 好きな子を 奪い合わずに 語り合う
◆ 俺の嫁 ならば作者は 俺の義父ちち
◆「ちょ」と入れて 予測変換 ちょwwまてwwおまww
◆ リア充に 侵食される 秋葉原




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