栞

ブラタモリ
Vignette


Category : Review
Update : 2015/07/11[Sat]22:00



 好きな人も多いだろうから、コレを書くことに躊躇をおぼえる。しかし、あえて書いてみよう。



 4月頃に再開した『ブラタモリ』が、まったく面白いと思えないのだ。

 あんなにも好きだったのに。

 もちろん、人の好みは十人十色であるからして、あくまでも私の趣味嗜好の問題ではある。

 でも、それにしては面白いと思えない。

 なぜだろう?

 色々と考えてみたのだが、第1要因として、タモさんの歩かせられている感があげられる。制作者サイド、もしくはゲスト有識者の持ちこんだ古地図テーマに沿ってタモさんが歩いているというプロセスが、ありありと見えてしまうのだ。

 もちろん、前シリーズでもそういう流れはあった。明確なテーマなくしては番組など成立していなかった。しかし、前期までの『ブラタモリ』には、タモさんの爪先や思考の寄り道も多かったため、ある意味『タモリ倶楽部』のような物臭レイジーさがあった。国営放送に特有の四角四面けんじつさを裏切る番組構成が最たる魅力だったように思う。

 今期は、寄り道が少ない。

 なぜか?──と考えると、ひとつに、地方ロケーションがメインになったことがあげられる。要は、タモさんの知らない、脳内の引き出しにない、新境地とも言える地方であるということ。

 タモさんにとっての身近な土地(東京都内)であるからこそ、得意気に蘊蓄や高説を述べていられた。それが高じ、また興じることで余計な寄り道が生まれ、自由奔放な散歩感へとつながっていた。四角四面な教育的インフォメーションにいていた私も、だから「国営放送だってやればできるじゃん」と感心し、なおさらタモさんのどうでもいいB級知識を期待したのだと思う。

 良い意味でのアングラ教養番組だった。実に優秀なB級プログラムだった。

 が、さすがに地方ではそうもいかない。タモさんの知識や見識もテキストの範疇を越えられず、だから、ゲスト有識者の用いる古地図に沿って歩いていくしかない。しかも、ゲストはみなテレビのプロではないため、誰もがタモさんを持ちあげてばかりいる。どうでもいい知識ならば苦笑いのひとつも浮かべていられるのだろうが、残念ながら、今期ではテキストどおりの知識を披露するばかりで、よってゲストたちにはしきりにタモさんを「さすがですね!」と絶賛し、持ちあげることしか体裁がない。

 予定調和なのだ。

 都内だったらば、景観の混みあうカオスな世界だからこその寄り道も生まれように。しかし、地方にはそんな雑多な魅力がなく、むしろ整然としていて、だから予定調和な、順当な展開が生まれる──というモノの見方もできる。

 私も地方出身者(岐阜県の村育ち)。だから言うが、地方はお利口さんだ。息づく人も、景色も、あげく地図記号からして良心設計だ。これこそが地方最大の魅力と言えるのだが、哀しいかな、良心的で優しい構造だけに、視聴者を突き放すクールさがない。B級アングラの無益な面白みがない。

 地方って『ブラタモリ』を不利にする。もしも我が故郷(宇治川の戦いで有名な梶原景季と縁のある村)がロケ地に選ばれたとしても、私は「やめて!」と拒絶するだろう。

 徹底的に東京都内であってほしかった。関東圏であってほしかった。少なくとも、タモさんのB級知識が活かされる土地であってほしかった。

 地方進出が足枷となり、タモさんの良さ(どうでもよさ)はナリをひそめ、ゲスト有識者たちの「これってどういうことだかわかりますか?」というクエスチョンばかりが目立つ。予定調和なQ&A方式に特化してしまい、本来は『ブラタモリ』の最善の魅力だったはずの視聴者にとってなんの利益もない寄り道が殺がれてしまった。一部のスキもない、利益だらけの教育テレビと化してしまった。

 地方活性化が求められる昨今、人気番組が名乗りをあげたい気持ちもわかる。しかし、それが『ブラタモリ』であってほしくはなかった。古地図を片手に、鋭くもどうでもいい知識をもとに推理を立てて歩いていたほうがまだ趣があったのに。演出を演出と思わせないフラットな演出が面白かったのに。でも今は、演出ということが一見してわかる。四角四面で決まりきっている。

『ブラタモリ』とは名ばかりになっている印象が私には残念でならない。




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Nanase Nio
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