この別荘に置いてあるオーディオセットは滅多に使わないし、テレビもそんなに頻発にはつけない。だから何か物音をたてると、この静かな室内にはかなり響くのだ。
ガリガリガリ。
隣からはそんな音が絶え間なく聞こえてくる。あたしと彼は大きなソファに座りながら飴を食べていた。というより、殆ど彼が食べていると言った方がいいかもしれない。先程あげた粒状のモーモーミルク味の飴はあっという間に噛み砕かれ、次々に彼の胃の中へと収まってしまう。
そういえば、何かの本で飴を噛む人はせっかちな性格だと書かれていたっけ。こんな時にも性格は表れるものなんだな、と感心してしまう。飴は舐める方が噛むよりも長く味が楽しめるのにな。
あたしは一つだけ余っていたロメ味の棒付きキャンディーをバッグから取り出し、ピリッとビニールを剥がした。飴を咥えれば、ロメの実の味が口内に広がっていく。ああ、やっぱりこの飴おいしいな。新発売の広告に惹かれて思わず手に取ってしまったけど、買ってよかった。しばらくはリピートしよう。
「ヒカリ、飴くれよ!」
不意に呼ばれて隣を見れば、彼が手を出して飴の催促をしている。
「え!もう全部食べちゃったの?」
先程5個もあげたのに、彼の手元には飴の包み紙しか残っていない。
「もう残ってないよ」
「嘘つけ!お前の持ってる飴は何だよ!しかも俺のと違うやつ!」
「これで最後なの!ジュンは5個も食べたんだからもういいでしょ!」
「本当か!?嘘ついたら罰金100万円だぞ!」
「嘘なんかついてないってば…」
「じゃあそれくれよ」
「あ、あげないから!」
羨ましそうに見つめてくるジュンには気付かなかった事にして、一回り小さくなった飴を再び舐めようとすると。
「ちょっとでいいからくれよ!」
驚きの声を上げる暇もなく、あたしの腕はジュンに引っ張られ、そしてガリッという音がした。
「おっ、こっちの飴もうまいなー!」
気が付いた時には飴は半分に欠けていて、ジュンの口からは、あのガリガリとした飴を噛む音。どこがちょっとなのよ!なんてつっこむ事も出来なかった。だって、だって、かかか間接キス…!
「どうした?飴食わねーの?」
そう尋ねられて余計に意識してしまったあたしはそれ以上飴を舐める事が出来なくなって、ついには俯いてしまった。ああもう!何でこいつはこんなに鈍いの…!
別荘内には「食わねーなら俺にくれよー」というジュンの声だけが響いていた。
キャンディーの罠「…ジュンのバカ!鈍感!」
「なっ、なんだってんだよー!」
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