「もう!!ダイゴさんなんて知らない!!」
我ながら可愛いくない事を言ってしまったと思う。後悔しながら、既に通話が切れているポケナビを見詰める。
だけどデートの約束を持ち掛けて来たのは彼なのに、待ち合わせ時間ギリギリになって『珍しい石が発掘されたらしいんだ。僕も見に行きたいから今日はデート出来ない』という連絡は酷い。いや、これが一度や二度ならまだしも、こんなやりとりは今までに何度も何度も交わされて来たのだ。ダイゴさんが石を愛してるのはよーく理解していたから我慢していたんだけど、ついに堪忍袋の尾が切れてしまい、冒頭に至るわけだ。
「…ぶらぶらして帰ろう…」
掛け直してくる気配もないポケナビを涙目になりながらバッグへしまい込むと、今日のデート場所の予定だったミナモシティの道をとぼとぼ歩いてコンテスト会場に向かった。ポロックを作ろうときのみブレンダーを回してみたものの、どうしても集中できない。やけくそになってボタンを力任せに連打していると、協力していた女の子達に苦笑いを向けられた。あたしは無性に申し訳なくなって、女の子達に何度も謝罪をしてから、悶々とした気持ちを抱えたままコンテスト会場を出た。気分転換に海でも眺めようかと南の沿岸の方に向かうと、ラブラブの老夫婦が今日も今日とて海を眺めながら思い出を語り合っている。
(羨ましいなあ…)
歳を重ねてもああいう風に仲睦まじいというのは憧れる。理想の夫婦像だ。
(でもダイゴさんとじゃ無理かなあ…)
虚しくなってデパート方面へ向かおうとすれば。
…バラバラバラ
不意に、遠くからヘリの音が聞こえた。始めはうるさいなあ程度にしか思っていなかったけれど、その音はだんだんこっちへ近付いて来るようだった。ポカーンと口を開けたまま空を眺めていると、どういうわけか、ヘリはあたしの上空で止まった。周囲の人々も何事かと空を見上げている。
(な、何なの!?)
不審に思っていると、急に搭乗口が開き、中から長い梯子が垂らされた。そして、中から顔を出したのは先程デートの約束をすっぽかした張本人だった。
「ハルカちゃん!」
「だ、ダイゴさん!?」
ダイゴさんは梯子を降りてストッとあたしの前に着地する。その動作はやけに様になっていて、思わず見惚れてしまった。
「…じゃなくて!な、何でダイゴさんが!」
「よかった…まだここにいてくれて」
「…何しに来たんですか?」
「デートに決まってるじゃないか」
「石を見に行くんじゃなかったんですか?」
「ハルカちゃんに嫌われるのはごめんだ」
「…」
あたしはきっと単純だ。ダイゴさんが石よりもあたしを優先してくれた事がこんなに嬉しいなんて。
「機嫌直してよ」
「…いっぱい、ギュッてしてくれたら…」
「お安い御用だ」
ああ、やっぱりこの人には敵わない。
やさしくて、ずるいひと「ところで何でヘリなんか…」
「急遽、デボンの社員に用意してもらったんだよ」
「目立つからやめてください!」
「早くハルカちゃんに会いに行くためだったんだ。仕方ないじゃない」
「…っ!」
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