「…うぅっ!」

「ひ、ヒビキくん…大丈夫?」

「うわあああ!動かないでくれえええ!」

「………」



今わたしとヒビキくんはライモンシティの観覧車の中。家族ぐるみでイッシュ地方へ旅行に来ていて、わたし達子供組は遊園地で遊んでいるんだけど。

「…うへえ…高いなあ…」

ヒビキくんはさっきからぶるぶると震えあがっている。そういえば以前電話で高いところが苦手だとほのめかす事を言っていたっけ。48番道路の高さでも怖がっていたから、観覧車の高さなどたまったものではないんだろう。彼がこんな状態じゃあ仕方ない、景色を楽しむのは諦めよう。

「ごめんね。ヒビキくんが高いところ苦手なの、すっかり忘れてた」

「…い、いや。これくらいどうって事ないよ…」

「無理なら言ってくれればよかったのに」

「…大丈夫だって!」

大丈夫とか言っておいて、必死にわたしに抱きつきながら震えているのはどこの誰なんだろうとか言ってはいけない。とりあえずこの密室で抱きつかれるのは暑くて仕方ない。まだ半周以上あるのに。

「ごめん、一回離してくれる?」

「嫌だああああ!」

「はあ…」

「…ねえ、何か揺れてない?」

「揺れてないよ?」

「風強くない?」

「別に強くないよ?」

「コトネ、揺らすなよ!絶対揺らすなよ!」

「え?それは揺らせっていう前振りなの?」

「違うよ!僕は真剣だよ!」



そんなやりとりをしている内に、てっぺんまであと少しとなった。

「もうすぐてっぺんだよ。あと半分頑張ろう?」

「やっとてっぺんか…」

ようやくヒビキくんはわたしの身体を解放してくれた。と思ったら今度は両肩をガシッと掴まれる。

「こ、コトネ!」

「は、はい?」

ヒビキくんはそのまま何も言わずに顔を近付けてくる。意味を理解したわたしはそれを受け入れるため目を閉じた。
ほんの数秒お互いの唇が触れ合う。目を開けてみると丁度てっぺんを通り過ぎた頃で、ヒビキくんの震えもだいぶ治まっていた。

「…はは、頑張って乗った甲斐があった!」

頬を赤くしながら照れ笑いをする彼を見て嬉しさが込み上げる。

「…ヒビキくん!!大好き!!」

「うわあああ!急に抱きつかないでくれえええ!揺れる!揺れるーー!」

「…あ」







「コトネ!次はジェットコースター乗ろう!」
「え!ジェットコースターの高さは平気なの?」
「だってあれはすぐ終わるじゃん!それに室内だし!」
(そんなものなのかな…?)

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「見えない臓器の名前は」
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