ピュアでイノセントなNはいません。










可哀想に。
ボクは隣で眠っているトウコを見詰めながら、そんな事を思った。そして、馬鹿だ。とも。

ボク達が再開したのはつい先日の事。半ば無理矢理トウコ宅に招かれ、果てには一緒に住むという事態に陥った。しかし、ボクは疑問だった。この少女は何故こうまでしてボクと一緒に居たいと願うのか。
再びイッシュに定住する気などなかった。彼女の元気な姿が見られるなら、トモダチと仲良く過ごしているならそれだけで良かった。それが果たされたなら、すぐに他地方へと旅立つつもりだった。だのにボクはここにいる。

「…トウコのせいだよ」

ボクなんかを引き止めたから。ボクなんかを好きになってしまったのだから。なんて、自分には非がないかの様に彼女を責める。結局ここに残ると決めたのは自分自身だと言うのに。

トウコ。トウコ。とうこ。とう、こ。

ひたすら愛しい恋人を求め続ける自分はまるで狂気だ、と心の中で自嘲する。

「…可哀想に」

今度は思うだけでなく、口に出して呟いてみる。けれど深い眠りについているトウコには届かなかったらしく、相変わらず規則正しい寝息をたてている。何とも幸せそうな寝顔だ。

トウコは知らない。ボクという人間の中にどれだけ醜い感情が潜んでいるのか。だからこそこうやって安心し切って、ボクに身体を寄せて、幸せそうに眠っている。
だけど、トウコ。キミもそろそろ知った方がいい。雄という生き物の正体がどんなものなのかを。

こんな醜いボクを知ったら、彼女は幻滅するだろうか。ボクと一緒になると選んだ事を後悔するだろうか。まあ、例えどんなに彼女に嫌われようとも今更離してはやれないけど。嗚呼、キミは何て可哀想なんだ。ボクに捕まってしまったキミは馬鹿だ。…いや、トウコの事だ。きっと彼女は笑って許してくれるに違いない。そして、今みたいにボクに寄り添って、幸せそうな寝顔を見せてくれるだろう。そう自己完結すると、ボクは何も知らない彼女の白い首筋に噛み付いた。




(つまりボクが何を言いたかったのかというと、いい加減この生殺しには耐えらないという事だ)


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