慣れというのは不思議なもので、今までは鬱陶しかった存在がいつの間にか、いないと違和感を感じるようになったりする。
今日は火曜日。そろそろアイツが来るだろう。
「ソウルくん!今日もお疲れ様!」
「…また来たのか」
「うん!わたしも一緒に修行しようと思って!」
俺がこの竜の穴で修行している姿を目撃されて以来、コトネは毎回のようにここに来るようになった。最初は邪魔くさいと思っていたものの、日に日にそれは日常化していった。
コトネもただ茶化しに来ているわけではなく、一緒に修行をしたり、日によってはバトルもする。時には的確なアドバイスをくれるので、不本意ながらこいつには感謝していたりする。最近ではここでばかりバトルするため、セキエイに行く事はなくなった。
「今日はどうするの?」
「今日は…」
ピピピピッ!ピピピピッ!
勝ち抜き戦にしよう、と言い掛けたがそれはうまい具合にコトネのポケギアによって遮られた。
「あ!電話出てもいい?」
「ああ」
「ごめんね、すぐ終わるから待ってて。………はい、もしもし!…はい。…はい。…あっ!そうでした!ごめんなさい!今から行きます!」
ピッと電話を切り終えたコトネの顔は申し訳なさそうにしていた。
「どうした?」
「…ごめんね。ジムリーダーの人と再戦する約束すっかり忘れてて…これから行かなきゃならないの。だから今日はバトル出来ないや」
「それなら仕方ないだろ。早く行ってやれ」
「本当にごめんね」
「別に…」
「今度埋め合わせするから!また木曜日もここに来るでしょ?」
「…ああ」
「じゃあ木曜日!絶対ね!絶対いるよね?」
「分かった!いるから大丈夫だ!早く行ってやれ」
「うん!じゃあまたね!ばいばい!」
「…ふう。そろそろ帰るか」
コトネが帰ってから俺はひたすら修行に励んだ。こうして一人で修行するのはかなり久しぶりだった。
だけど、いつもは狭苦しいと思っていたこの修行場が、やけに広く感じた。修行が終われば、お互いのポケモン同士で遊んだり喧嘩したりで騒がしいのに、今日はそれもない。俺のポケモン達もいつものように、はしゃいだりしない。
「…俺もお前達も気持ちは一緒、か…」
慣れというのはつくづく不思議だ。
最も、そう考えるようになったのは、俺が変わったからなのかもしれない。
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