この世界の人々やポケモンは誰も私の存在を知らない。私はこの世界の住人に姿形を見せる事は叶わない。ただ世界を眺める事しか出来ない。つまりは世界からのはぐれ者だ。私はみんなを知っているのに、何て不公平なのだろうと、こんな運命を私に与えた神様に小言の一つでも言ってやりたくなる。でも、それは仕方のない事。どう足掻こうと、私はあの世界の住人にはなれない。
だから私は自分の立場や運命を受け入れて、ただこの世界を見守っている。見守るというよりは、眺めると表した方が正しいのかもしれないけれど。まあ、そんな事はさしてどうでもいい。兎にも角にも、それが私に与えられた唯一の自由だと言うのならば、私はその自由を遠慮する事なく堪能し、けれど大人しく見守っていようと、私はそう決めたのだ。
なのに。
そう思っているのに、願わずにはいられない。
あの水色の髪の少女が、本来ならば私の幼馴染とも分身とも言える“彼”と笑いあっている光景を目の当たりにした瞬間から、ずっとずっと、願っている。
世界が作られるのがもう少し遅ければ、私もそこの住人として存在する事が出来たのではないのか、私も彼と笑い合う事が出来たのではないか。そうと思うと、私より後に作られたあの少女と今の世界が、たまらなく眩しいのだ。
けれど、それを羨む事は決してない。羨んだところで、どうにもならない事は分かっている。
私の願いはただ一つだけ。
『レッド』
もう一人の私。
気付いて。どうか私の存在に。
***
「………?」
自分の名を呼ばれた気がして、レッドは辺りを見回した。が、思い当たる人物と言えば、いつもこのシロガネやまに遊びに来るクリスという少女しかいない。
けれど、彼は数秒の沈黙を経て「ああ」と納得したように頷いた。
「…どうしたんですか?」
そんな彼を不可解に思ったのか、クリスはレッドにそう尋ねた。どうやら、彼女には何も聞こえなかったらしい。
「うん。僕を呼ぶ声がしたんだ」
レッドが素直に答えるなり、クリスはみるみる顔を真っ青にしてすくみ上がった。
「それってもしかして…ゆ、幽霊…!?」
クリスは肩をびくびく震わせながら、メガニウムに擦り寄った。自分達が出会った頃は、自分の事すら幽霊扱いして来たのにとレッドは思わず苦笑する。
「野生のムウマのいたずらですかね…」
なおも震えるクリスに、レッドは優しく微笑み、違うよと首を横に振った。
「………? じゃあレッド先輩は誰の仕業か分かるんですか?」
レッドが否定した事で多少の落ち着きを取り戻したクリスだったが、彼の根拠の無い否定の言葉と落ち着きっぷりに、やはり疑問を抱かざるを得ないのか、ただただ首を傾げるばかりだ。
「うん。犯人はね…、」
そんな彼女に、レッドは先程と同じ笑みで犯人の正体を教えてあげるのだった。
何せ、犯人の正体は幽霊でもポケモンでもないのだから。
「僕の、もう一人の幼馴染だよ」レッドの耳に、嬉しそうな笑い声が届いた。
初代赤緑の発売18周年記念に。
初代没主♀(ブルー)の存在に、レッドはずっと前から気付いていましたよというお話でした
タイトルと内容が全く合っていませんが、ご容赦ください。
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