※ヒビキとソウルがヤンデレ化しているので注意。
レッド←コトネ前提のライ→コト←ヒビ









あと少し。あと少しで彼の元に辿り着ける。コトネはそう自分に言い聞かせ、息も絶え絶えにバクフーンと共にシロガネ山の麓を目指して草むらを駆け抜ける。そして、逃げるコトネ達の後を追うのは、コトネのよく知る二人の少年だった。

「…マリル、ハイドロポンプ」

突如下された指示にマリルは戸惑いの色を見せたが、それは一瞬の事で。勢いよく噴射された水は容赦なくバクフーンを目掛けて襲い掛かる。

「…っ、バクフーン!大文字!」

瞬間、水と炎が激突し合った。辺りには爆発音と共に蒸気が立ち込め、一気に視界が悪くなっていく。

「くっ…!」

すると相手に隙が出来た。今のうちに一気に逃げ切ろう、とコトネはバクフーンをボールにしまうと勢いよく地を蹴った。けれど先方にぼんやりと人影が見え、思わず後退る。

「…ソウルくん…」

ソウルと呼ばれる赤髪の少年は無表情のまま一歩、また一歩とコトネの側へと歩み寄る。

「逃げ切れるとでも思ってるのか」

「ソウルくんこそ、本気でわたしを止められると思ってるの?」

ソウルは臆する事なく、ただコトネの背後を見据えると僅かに口角を上げた。その意味に気付いた時には既に遅く、コトネの背後からはガサリと草を踏む音が聞こえた。

「…駄目だよコトネ。僕達から逃げようとするなんて」

「ヒビ、キくん…」

優しく叱りつけるような声音とは裏腹に、彼の瞳は狂気の色を映し出している。

「ったく。なに逃がしてんだよ、ヒビキ」

「はは、油断した」

自分を挟んで会話する二人はどこか楽し気で、けれど苛ついているようにも思えて、それがますますコトネの焦燥感を掻き立てた。

「…そこをどいて」

「それは無理だな」

「わたしはあの人のところに行きたいの」

「うん、知ってるよ」

「だったら…!」

「だからこそお前を行かせる訳にはいかない」

「あの人なんかにキミは渡さないよ、絶対に」

二人はじりじりと、確実に間合いを詰めてくる。再びバクフーンを出そうとボールに手をかけるのだが、何故だかそれ以上身体を動かす事が出来ない。

「わたし、は…」

「ねえコトネ。あの人はコトネの事を何とも思ってないよ。それなのにわざわざ危険を冒してまで行く価値なんてあるかなあ」

「そんな事…」

「ならどうしてアイツは、こうしてお前が追い詰められてるにも関わらず助けに来ないんだろうな」

「ね、言ったでしょ。あの人にとってコトネはそんなもんなんだよ」

「…やめて!」

聞きたくない聞きたくない聞きたくない!その一心でコトネは己の耳を塞いだ。これ以上彼らの言葉に耳を傾けてはいけない、自分が惑わされるだけだ。

「…酷いなあ、僕達は事実を述べただけなのに」

まあいいや、と付け足して、ヒビキはソウルに目配せをする。ソウルはそれに頷くとモンスターボールからゲンガーを出した。

「ゲンガー、怪しい光だ」

「…っ!?」

一瞬にして視界はぐらりと揺れ、コトネはそのまま地面に倒れ込んだ。一体何が起こったのか、耳を塞いでいたコトネには分からない。大丈夫かと尋ねてくる二人の声がやけに遠くに感じる。身体に力が入らない。自分はどうしてここにいるのだろう。いや、誰かに会いに来たのだ。その誰かとは誰の事なのか。鈍った思考を必死に巡らせてみるのだが、思い出そうとすればするほど意識が朦朧としていく。

「あーあ…ソウルのせいでコトネが倒れちゃったじゃないか」

「…仕方ないだろ」

ソウルはそう言うと、ぐったりしたコトネを背負い、元来た道へと足を向ける。コトネは最早抵抗も出来ず、ソウルの背中に身体を委ねる他なかった。

「…ソウル、勝手な事するなよ」

「俺が責任持って連れて帰る」

「コトネをこっちに寄越して」

「別にこいつはお前のものじゃない」

コトネは言い争う二人の会話をぼんやり聞きながらも、重力に逆らえ切れずゆっくりと重い瞼を閉じた。
意識が途絶える寸前、コトネの脳裏をよぎったのは、雪山に佇む愛しい彼の後ろ姿だった。






(それは、永遠に)


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