彼を一言で表すなら、月並みだけれど『とても素敵な男性』という表現がよく似合うと思う。大人で、優しくて、少し自信家で、なのに気高くて。バトルではわたしの方が優位だとしても、彼との差は一向に埋まらない。手の届かない人だ。
けれど、ずっと憧れ続けていた人と出逢えて、戦えて、仲良くなれて、笑いあえて。彼を知っていくたびに、憧れ以上の感情が芽生えていったのは、ごく自然な事のように思える。
どうせグリーンには勝てないと分かっているのに、それでもついついリーグに挑戦してしまうのは、少しでも彼に会いたかったから。もっと彼と近くなりたかったから。
グリーンとの対戦後に、彼から「暇ならお茶でも飲んでいかないか」と誘われたので、喜んで承諾した。案内されたリーグの執務室にはわたし達の他には誰もいない。
「ワタルさんって彼女とかいるんですか?」
彼が淹れてくれた熱々の紅茶を少しずつ啜りながら、何気なく、そう聞いてみた。いや、おもしろ半分とでも言うのだろうか。とにかくほんの冷やかしのつもり。彼の浮いた話は全く聞いた事がない。だから、どうせいつものような優しい笑顔で「いるわけないじゃないか」と答えてくれるだろうと思っていた。
「そうだね…。彼女というか、将来は一緒になろう、と約束した女性ならいるよ」
みんなには内緒にしてくれよ、と彼は少し照れながら付け加えた。
「…そう、なんですか」
ああ、聞くんじゃなかった。やめておけばよかった。傷付くハメになるんだったら。
「きっと、その内リーフちゃんにも素敵な男性が現れるんだろうね」
彼は「妬けるなー」なんて冗談を飛ばした。妬けるのはそっちの方だ。なんて憎らしくて、悲しくて、紳士的な冗談だろう。
「現れ…ますかね」
「もちろん!俺が保証するよ!」
少なくとも、彼の言う『素敵な男性』が彼ではない事は確かだった。
結局、彼は永遠に手の届かない人だという事なのだ。
この恋に未来はない(なのに、どうして“お幸せに”って言えないの?)
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