まだ午前中だというのに空は薄暗く、ざばざばと降り注ぐ大粒の雨は容赦なくコトネの身体を打ち付け、徐々に体温を奪っていく。というのも、ポケスロンの帰りにコガネに寄り道しようと向かっていたところ、いきなり通り雨にあってしまったのである。初めはポケスロンのゲートへ引き返そうかとも思ったが既に35番道路の半ば辺りに来てしまっていたため、コガネのポケセンで休んだ方が得策だと考えたコトネは、跳ね返る水など気にも止めず一心に走っていた。



「はあ…着いた…」

やっとの思いでポケセンへと駆け込む。ポケスロンとコガネ間はさほど距離は離れていないものの、大雨のせいでずぶ濡れだ。連れていたバクフーンは雨が降ってきてからすぐにボールにしまったので大丈夫だろうが、念のためジョーイさんに預け、ついでにタオルを貸して貰った。

(まさかこんな日に限って傘を忘れるなんてついてないなあ…)

自分の運のなさに溜め息を吐きつつ、髪や身体を拭いていく。何気なく周りを見渡すと、コトネの他にも雨宿りをしているトレーナーがちらほらと見受けられた。

(あれ…?)

そのトレーナー達の中に赤い髪の少年を見つけ、コトネは目を瞬かせる。

「…ソウルくん!」

名前を呼んで、二人掛けのソファに座っていたソウルの傍に寄ると、彼は目を丸くしてコトネを凝視した。

「お前…」

「偶然だね!ソウルくんも雨宿り?」

「ああ。…それよりお前、ずぶ濡れじゃねえか」

そう言う彼の手には折りたたみ傘が握られており、どうやらそれのおかげで濡れずに済んだようだ。

「あー…傘忘れちゃって…」

「相変わらずドジな奴だな」

ソウルは皮肉めいた言葉と共に、少し横にずれた。…これは隣に座ってもいいという事なのだろうか。

「座らないのか?」

「…いいの?」

「二人掛けのソファなのに俺だけ座ってるのはおかしいだろ」

「じゃあ…お邪魔します」

せっかく彼がそう言ってくれているので、コトネは素直に厚意に甘える事にした。ソファが濡れないように、携帯していたビニール袋とハンカチを敷いて座る。

『………』

座ってみたはいいものの、二人の間に会話はない。何となく気まずくなり、ぎゅっと両手を組む。いくら暖かくなってきたとはいえ雨に打たれたせいか、身体はすっかり冷たくなっていて、濡れた衣服がますます体温を奪っていく。

(…寒い)

借りたタオルを脚に掛けて、何とか寒さをしのごうとするのだが、先程髪や身体を拭いたせいでタオルは十分に湿っておりあまり意味がない。
一方、隣でその様子を見ていたソウルは一瞬眉をひそめると、ジャケットを脱いでコトネに渡した。

「寒いんだろ、これ着てろ」

「…い、いいよ!暖房もついてるし、そのうち暖かくなってくると思うから!」

「いいから着てろ!」

一喝され、コトネはびくりと肩を揺らした。そしてソウルとは対照的に眉尻を下げると、袖は通さないものの、渋々ジャケットを纏う。

「あの、ありがとう…」

「…別に。お前に風邪を引かれても気分が悪いからな」

上着を脱いだ彼はTシャツ一枚だ。彼だって寒いだろうに。彼の不器用な優しさと、上着に残っている温もりに、コトネの顔は段々と熱くなっていく。
再び会話はなくなってしまったが、今度は不思議と気まずいとは思わず、寧ろ心地よいとさえ思えた。



「あがったみたいだな」

どれくらいの時間が経ったのか。窓の外を見ると先程の大雨が嘘だったかのように、空はすっかり晴れ渡っている。

「俺はもう行く。お前もさっさと家に帰れよ」

「うん、そうする。…あ、これ本当にありがとう!」

感謝を述べて上着を返そうとすれば、手で静止させられる。

「それはお前が着て帰れ」

「だ、駄目だよ!そんな事したらわたしじゃなくてソウルくんが風邪ひいちゃうよ!」

「お前だってまだ服が乾いてねえじゃねえか。いいから着て帰れ」

「でも…」

「俺の事は心配するな。俺はお前と違って体調管理を怠ったりはしない」

「なんっか気になる言い方だけど…まあいいや。…でも本当に借りちゃっていいの?」

「何度も言ってるだろ、無駄な遠慮なんかしてないで着て行け」

「じゃあ…借りて行くね、ありがとう」

上着を抱き締めれば、ソウルは納得したようで、先にポケセンを出て行こうとする。しかしふと足を止めて振り返るとコトネを指差した。

「…明日、俺は竜の穴に行く。だからお前もそれを持って来い」

「…!うん!じゃあまた明日!」

コトネが大きく頷けば、ソウルもうっすらと笑みを浮かべ、今度こそポケセンを出て行った。

「明日も、かあ…」

ジャケットに袖を通し、ビニール袋とハンカチをバッグにしまい、借りていたタオルを返却する。ポケセンを出ると、いつの間にか陽は傾いていた。キョロキョロと辺りを見回してみたが既にソウルの姿はどこにも見当たらず、コガネシティはいつもの人混みで溢れ返っていた。

家に帰ったら早速ジャケットを洗おう。そう考えながら、外の空気を胸いっぱいに吸い込む。

見上げた空は、いつもよりも眩しく感じられた。





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