自室のベッドにごろりと横になって、買ったばかりの雑誌を開く。適当にぺらぺらめくっていくと、とあるページに灯火温泉の事が紹介されていた。
灯火温泉には旅の途中に一度だけ寄った事があるけれど、確かにあそこはいい温泉だったな。うん、少し遠いけど、たまには行ってみるのもいいかもしれない。
わたしの部屋に遊びに来ていたグリーンをちらりと横目で見ると、どうやら彼はゲームに熱中しているようだ。
「ねえ、温泉行きたくない?」
「別にー」
「…やっぱりね」
一応駄目元で聞いてみたものの、やはり彼からの返答は予想通りのものだった。こうなったら仕方ない。嫌がる彼を連れて行くわけにもいかなかいので今回はわたし一人で行ってこよう。そう思い立ち、タオルやら着替えやらをバッグに詰め込んで行く。あ、モーモーミルクも持って行こうかな。
ガサゴソと音をたてていたのが不愉快だったのか何なのか、グリーンはわたしを一瞥するとゲームの電源を落とした。
「どこ行くんだよ」
「どこって灯火温泉だけど…」
「は!?おい、なに勝手に決めてんだよ!」
「だってグリーンは温泉行きたくないんでしょ?だから一人で行こうと思って…」
するとグリーンは露骨に不機嫌な顔になり、わたしからバッグを取り上げた。
「ちょっと、バッグ返してよ!」
「お前、灯火温泉って混浴だろ!?そんな場所に行かせてたまるかよ!」
「混浴って言っても前に行った時はおじいさんおばあさんばっかりだったよ?それにちゃんとタオル巻くし…」
「前は前、今回は今回だろうが!もし野郎がうじゃうじゃいたらどうすんだよ!」
「う…それは確かに嫌かも…」
「だろ?大人しくしとけ」
「…はあ…仕方ないか…」
グリーンの言う事も一理あるので、今回は大人しく従う事にする。グリーンはわたしの返答に満足したのか、ほらよと言ってバッグを返してくれた。
「…温泉行きたかったな」
バッグを見つめながら不満の声を漏らすと、グリーンに額を指でつつかれた。
「…お前はそんなに他の男と風呂に入りてえのかよ」
「そんなんじゃないわよ!」
「じゃあ灯火温泉はぜってー行くなよ」
「もう…」
「…リーフ」
いつになく真剣な声色でいさめられたので、ついに諦めて小さく頷くと、いきなり彼に強く抱き寄せられた。
「あ、あの、グリーン?」
「…もういいから黙ってろ」
いきなりの事に戸惑っていると、大きな溜め息を吐かれた。首筋に降りかかる吐息の暖かさに心地良さを感じながらも、彼がこの調子では当分温泉には入れなさそうだと、わたしは僅かに肩を落としたのだった。
君にその気がなかろうと、(じーさんだろうが誰だろうが他の男に肌なんか見せんなっつーの!)
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