「雨だ……」
そろそろ日も昇る時間なのに、空はどんよりと薄暗く、分厚い雲に覆われていた。
庭はすでに水たまりがいくつも出来ている。
池も絶え間なく波紋を生んでいた。
冬の雨は冷えるなと、白い息を吐きながら寝起きの頭をゆるゆると働かせる。
寒さに体を震わせて外を眺めていれば、「主?」と心地よい低音が耳に響いた。
「ああ、おはよう光忠」
「おはよう。今日は早起きなんだね?」
「……雨の音で目が覚めて」
へにゃりと笑えば、光忠も同じように頬を緩めた。
よく見れば、光忠はいつものような洋装ではなく、着物姿だった。
おそらくは自分と同じで、雨につられて起きてきたのだろう。
「それで、光忠はなんでここに?」
まだ起きるには早い時間だろうに、なぜここにいるのかと純粋な疑問が湧いた。
たしか今日は廚当番でもないし、出陣の予定もないはずだ。
もっとゆっくり寝ていても問題はなかったはずだと、記憶を頼りに可能性を練ってみる。
首を傾げていれば、光忠は「特に理由はないんだけどね」と前置いて、口を開いた。
「君も起きてるかなって。そう思ったら会いたくなったから来てみたんだけど、……まさか本当に起きてるとは思わなかったな」
「私に? あはは、嬉しいけど照れちゃうね、そういうの」
顔を見合わせてくすくすと笑いあっていれば、光忠の手が頬に添えられる。
ひんやりとした感触が伝わってきて、体がぎゅっと縮こまる。
「鼻、真っ赤だよ?」
「光忠こそ。……うわ、手冷たい。冷えきってるじゃん」
雨の音が辺りを包む中、二人で額をくっつけて笑う。
互いの白い息が混じり合って、ふわりと空に消えていった。
触れている部分だけじんわりと熱が重なって、ああ生きているんだな、なんて考えが頭に浮かんだ。
「ねえ、二度寝しちゃおうか。寒いけど二人ならあったかいと思うんだけど」
「いいね。きっと布団は冷えきってるだろうから、くっついて寝ようか」
「うん」
手を繋いで、部屋に戻る。布団はすっかりぬくもりを失い、真っ白な布が尚更冷たさを際立たせるように思えた。
二人で布団に潜り込めば案の定その冷たさが伝わってきて、「寒いね」と言い合いながら身を寄せた。
「おやすみ光忠」
「おやすみ主」
静かに降る雨の音と相手のぬくもりを感じながら、瞼を閉じた。
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