もう一人の馬鹿



嫌いだ、と言われた。


常々、嫌われてるんじゃないだろうか、と思っていた相手に言われたのだから、驚きはない。

これは寧ろ、ショック?

――そーか、オレ、ショック受けてるのか。


「…………」
「ルーク、どうしたの?」
「具合でも悪いんですの?」
「何なに〜?嫌いなものでもあったぁ?」

知らない間に食事の手が止まっていたようで、女性陣に口々に問われる。
そこに心配の色を読み取って、ルークは咄嗟に笑みを張り付けた。

「いっ、いや、別に何ともねぇって!ただ、ちょっと考え事してただけで…」
「ルークが考え事ぉ!?明日は槍が降ってきちゃうかも!!」
「槍!?槍とは、降ってくるものでしたの!?」

アニスが茶化した言葉に、ナタリアが騙される、いつもの騒がしい食卓にあって、沈黙しているルークは普段と違っていた。

「ルーク、考えるのは良いことだけれど、悩みすぎる前に誰かに相談することも必要よ?」
「そうだぜ?何なら、俺が聞こうか?」

ティアとガイが、ルークの顔を覗き込む。

「ん、どーしてもダメな時は、ガイに相談するよ。二人とも、サンキューな!
ごちそうさま!!」

ルークは食事を切り上げて、宿の割り当てられた自室へと戻った。

「さて、私も部屋へ戻らせて頂きますよ」

会話にも混ざらず、一人早々に食事を終えて、食後の珈琲を楽しんでいたジェイドも立ち上がった。





*****

『私は嫌いですよ、貴方のこと』


嫌い。

そう言われたからといって、
何をこんなに落ち込んでいるのか。
分かっていたことではないか。

「あ゙〜…何でだぁ…?」

ベッドの上を、右に左にゴロンゴロン転げ回るも、答えが出るわけではない。

そこに、トントンとノックの音。
次いで、
「ルーク?私です。起きてますか?」

何故、よりにもよって、今!?

パニックに陥った挙げ句、

「も、もう寝た!!」

なんて答えてしまう有り様。

一瞬の沈黙の後、クスクスと笑う声が聞こえて、ルークは更に居たたまれなくなり、頭まで布団に隠れる。

「失礼しますよ、ルーク。
起きているんでしょう?」

それは、暗に出てこいと言っているのか。

平然としているジェイドに、
ルークはムッとした。

――お前のせいなのに!

そのムスッとした声のまま、布団の中から喋る。

「何で来たんだよ」
「はい?」

その不思議そうな声にも腹が立つ。

バッと布団をはね除けて、その勢いで怒鳴り付ける。

「お前が言ったんだろ!?
オレのこと、嫌いだって!!」
「えぇ、言いましたね」
「じゃあ、何でわざわざ……!」
「……ルーク、私が言ったその言葉の続きは覚えてますか?」
「………続き?」

きょとんとすると、ジェイドは深ぁく溜め息を吐いた。

「……何だよ」
「私はね、『エイプリルフールですからね』って言ったんですよ」


「エイプリル、フール……?」
「えぇ。ですから、嘘です」

「うそ……」
「はい」

うそ、ウソ、嘘…。
そっか、嘘か…、

「良かったぁ…」

ルークが安堵そのままに、ほわりと微笑えば、ジェイドが息を飲んだようだったが、気のせいだろう。

「これで、貴方の考え事は解消されましたね?」
「おぅ!なんか、これでグッスリ眠れるって感じ!!」
「そうですか。
では、おやすみなさい」
「ん、おやすみ、ジェイド!」

パタンとドアが閉まる。

はぁ〜、と息を吐いて、ふと気付く。


「あれ?何でオレ、あんなにショック受けてたんだろ?」





*****

「これからは、手加減せずに、落としにかかりますから。覚悟なさい、ルーク」

くすり、と笑みを口端に刻んで、ジェイドは自室へ戻った。


後書き。

前作『四月馬鹿』の続きです。
ぐるぐるー君です(笑)
自覚はあまり余りありません。意識してるだけです
これからが大変そうです(笑)頑張れ、ルーク←他人事
あ、続きませんよ

11,05,14 完結



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