「大佐ぁ、お誕生日おめでとうございますぅ。
これ、プレゼントでぇす!」
「おや、ありがとうございます。
ところで、何を企んでいるんですか?」
「てへっ、バレちゃったぁ!
あたしの誕生日のプレゼント、期待してまぁす♪ってことですよぅ」
「はいはい」
アニスとジェイドが、そんな会話を交わしている場面を、ルークはたまたま目撃してしまった。
「アニス」
「うん?どーしたのさ、ルーク?」
自分の誕生日プレゼントの確約を取り付け、上機嫌なアニスを、ルークは呼び止めた。
「ジェイドって、誕生日なのか?」
「そうだよ?知らなかった?」
アニスが首を傾げると、ルークは気落ちしたように俯いた。
「ほぇ?そーなんだ?じゃ、今からでも何か用意すれば?」
「う、ん……」
アニスの言葉に、何とか頷いたものの、何を用意すれば良いのか、ルークには見当もつかないのだった。
*****
その夜。
ジェイドに宛がわれた部屋の前で、ルークは何をするでもなく、ぼんやりと佇んでいた。
――どうしよう。
ルークの頭の中は、その言葉で一杯で、どうにも身動きが取れないのだ。
徐々に視線が下がり、完全に俯いてしまった時、唐突にルークの目の前の扉が開いた。
「廊下は寒いでしょう?ルーク。
さぁ、入りなさい」
「……あ、……うん」
ルークが入り、ジェイドは扉を閉めた。
そして、いかにもションボリ、と言っている背中を抱き締める。
「ほら、こんなに冷えている…」
「うん……」
ルークは、心此処にあらずといった風に頷く。
ジェイドは、少し黙って、ルークの言葉が続かないか待ってみたが、部屋には沈黙が下りるだけだった。
はぁ、とジェイドは溜め息を吐いた。
「――いい加減、待ちくたびれましたよ、私は」
ぴく、とルークの肩が震える。
「今日、私が貴方に一番言って欲しい言葉が何か、分かりますか?」
ふるふる、とルークの首が振られる。
その幅はだんだん大きくなり、ついには首がもげるのではないかと、ジェイドが心配するほどに。
「…めん、ごめん、ごめんなさい!
オレ、オレ!ジェイドのためのプレゼント、用意できなかった!!
ごめんなさい、ごめんなさい!」
涙の滲んだ声で、そんなことを叫ぶ。
ジェイドは堪らなくなって、ルークをぎゅう、と強く抱き締めた。
「ルーク、ルーク。
良いんです、プレゼントなら、今、頂きました」
「え……?」
ルークは、涙を湛えた瞳を、ジェイドに向けた。
「オレ……ジェイドに何もあげてない…」
「いいえ」
ジェイドは、ルークの頬に手を当て、目尻にキスを落として、透明な雫を吸い上げる。
「ずぅっと私のことを考えていたんでしょう?」
「……うん」
ジェイドの手に擦り寄るように、ルークは頷いた。
「ならば、私は、貴方の時間を貰ってます。
ふふ、これほど嬉しいものはありませんよ。
離れていても、貴方を独占していたようなものですからね」
「あ……。
でも、オレは、ジェイドに何かあげたくて…」
「ですから、」
ジェイドはニッコリ笑った。
「言葉、を下さい」
「は?」
「今日、貴方が私に言い忘れている言葉があるでしょう?」
「――言葉?」
「そう、言葉です」
ルークは首を捻る。
――言い忘れている、言葉。
「………誕生日、おめでとう…?」
「はい♪ありがとうございます」
大正解です、とジェイドは嬉しそうにルークに頬擦りした。
「貴方に誕生日を祝ってもらえて、しかも貴方を独占できて。
今年は、とても良い誕生日でした」
「……そっか」
ルークは、漸く笑みを浮かべて、ジェイドにしがみついた。
「そっか。
ジェイドが喜んでくれて、オレも嬉しい」
「来年は、きっと、もっと良い誕生日になるでしょうね」
ジェイドがニコニコと言った言葉に、ルークはバッと顔を上げた。
「――ジェイド。
来年は、オレは……」
「来年の誕生日も、貴方は私を祝ってくれて、私のことだけを一日中考え続けてくれるんでしょうね」
ジェイドは、穏やかな笑みで、しかし目だけは真剣に、ルークを見詰めている。
「例え、見えなくても。
それが私にとって、一番幸福な誕生日です」
叶えて、くれますか?
ルークは、ジェイドの胸に、顔を埋めた。
「もちろんだろ、ジェイド」
来年も、再来年も。
この先、ずっと。
一番幸福な誕生日を、貴方に。
HAPPY BIRTHDAY to Jade
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アトガキ
ぎりぎりセーフ、ですか?
ジェイド誕記念小説でした。
甘く切なく、がモットーです。
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