ジェイドには、これが夢だと分かっていた。 何故なら、目の前にルークがいる。 呼吸も、心拍も、止まっている。 つまり、死体だ。 ――ルークの死体。 これは、有り得ないことだ。 だから、これは、夢なのだ。 夢なのだし、とジェイドは、ルークに触れた。 冷たい、しかし、なめらかな肌。 そこに指を滑らせながら、ジェイドは考える。 (――いっそ、) いっそ、解剖してしまおうか。 腹を割いて、頭を開いて。 そうだ、目だけは。 (綺麗なきれいな、碧の目だけは、) 瓶に詰めて、執務室に飾ろうか。 否、とジェイドは頭を振る。 それでは、いけない。 だってそれらは、ルークの一部にしか過ぎなくなってしまう。 ルークのはらわた、ルークの脳、 ルークの目玉。 それはもう、ルークの一部でしかない。 ならば、このまま、 (このまま、音素を固定して、) 丸ごと、屋敷の――そう、書斎が良い。 あそこならば、きっと、ルークも退屈しないだろう。 ルークが少しでも気に入っていた本は、棚に並べてあるのだから。 そうして、毎日、見詰めていれば、ルークを忘れてしまうこともないだろう。 毎日、毎日、ルークの死体を眺めては、記憶を反芻し。 そして、私は、きっと恋に堕ち続ける。 死体でも、冷たい身体でも構わないから、と触れて、 そして、恐らく。 (――犯してしまう) その時、とジェイドは考える。 (その時、私は後悔するだろうか) しないだろうな、と結論を出し、ジェイドは少し笑った。 ただ、恍惚感に身を任せ、ルークに折り重なったまま、譜術を放つだろう。 「聖なる焔の光」の名に相応しい、炎の譜術が良い。 二人、燃えて、灰になって、 混ざり合って――。 ルークの冷たい頬に、指を滑らせながら、ジェイドは思う。 ――良いだろうか、今なら。 今なら、夢の中なのだし。 ルークと共に、燃え尽きてしまっても。 ――良いだろうか。 『――ジェイド』 ルークの声。 たった一語。 名を呼ばれただけであるのに、ジェイドは強く叱られたかのように、動きを止めた。 やがて、ゆるゆると息を吐き出し、弱く笑んだ。 「まったく、貴方は――」 夢の中でも、私に優しく、厳しいのですね。 嗚呼、神よ、慈悲を! 何て非道い赦し! 後書き。 ……もう、何も言うまい…。 11,11,26 完結 back |