暑さ対策



ジェイドは、馬鹿な子供が嫌いだ。

馬鹿な子供の、馬鹿な癇癪も、当然嫌いだ。

「あ゙ー!あっちぃー!!っつーか、コレ、どうにかなんねぇのか!?マジ、あちぃ!」
「ルークさまぁ、仕方ないですよぅ。だって、砂漠ですもん、暑くて当たり前ですしぃ」

アニスが、自身も暑さにやられているように力無い笑みを浮かべながら、ルークを宥める。

「砂漠だから、とかじゃなくて、どーにかなんねぇのかよ、この暑さ!こー…気温が下がる何かとか、ねぇのかよ」
「すみません、僕はそんな手段は知らなくて…。
でも、砂漠がこういった環境だからこそ生きている生き物もいるんですよ」

つい半日前に、ザオ遺跡で救出された、導師イオンがニコニコと言えば、ルークはふぅーん、と頷いた。

「分かった。じゃあよ、気温は下げなくて良いから、オレが涼しくなる方法って、ねぇのか?」
「では、その髪を切ってしまっては如何です?」

いい加減、不毛な会話にイラついたジェイドがそう割り込むと、ルークはいつもの不遜な(そして純粋な)瞳で、ジェイドを見上げた。

「髪切ったら、涼しいのか?」
「えぇ、そうやって長いまま放置しているよりは確実に、風通しが良くなり、涼しく感じるでしょうね」
「ふーん、そうか」

じゃ、そうしよう、ルークはそう呟いて、ガイとナタリアが話しているところに近付いていった。

「ちょ、大佐ぁ。それはマズイんじゃないですかぁ?」
「おや、そうですか?」

悪びれることなく、笑顔で返すジェイドに、アニスはあちゃぁと天を仰ぐ。

――このおっさん、地味にイライラしてんのね。

分かりにくい分、余計に質が悪い。

アニスは肩を落とした。



*****

「ガイー」
「ん?どうした?ルーク」

ナタリアに水筒を渡して、ガイが振り向く。

「あちぃから、髪切ってくれよ」
「……………は?」
「あら、駄目ですわよ、ルーク」

ガイは固まってしまい、ナタリアが反対した。

「何でだよ、アッチィんだよ、オレは!」

暑さで短気さに磨きのかかっているルークが、地団駄を踏む。

「キムラスカ王族は、式典の際に髪を結い上げるのが習わしですわ。
切るだなんて、とんでもない!」

眦を上げてナタリアがそう言い、復活したガイも言葉を継ぐ。

「あー、そう言えば確かに、奥様だけじゃなくて、旦那様も髪長いよな」
「お父様もですわ」
「うー…、でもアッチィ…」

畳み掛けられて、理解はしたが納得は出来ないルークが、自分の髪を一房摘まみあげる。

「じゃあ、結ってやろうか。
首筋に髪が当たらなくなるだけでも、だいぶ違うと思うぜ?」
「じゃあ…、頼む」

はいはい、とルークの後ろに回り、ガイはその髪を纏めあげ始める。

「あら、良いですわね。
ルークの髪は綺麗ですから、とても見映えが良いと思いますわ!」
「え、んなっ!?き、キレーとか言うな!」
「ちょ、ルーク、暴れんな!」

ナタリアの言葉に照れたルークが首を振り、ガイが慌ててたしなめた。




*****

ケセドニアまでの長い道程、途中のオアシスで休憩をとる。

木陰で一息ついているジェイドの前を、ひらりと焔色が翻った。

「――ルーク?」
「あ?んだよ?」

くるりと振り返ったルークに、少し遅れて揺れる焔色の尻尾、否、一つに結われた長い髪。

「どうしたんです?その髪」
「あー、何か、切りたいっつったら、ガイとナタリアに止められた。
んで、暑いんなら結んでやる、ってさ」

その髪は、焔の色と不思議と喧嘩しない、澄んだ翠色の飾り紐で結われており、美醜など気にも止めないジェイドですら、一見の価値があると思ってしまう。

「ま、何もしねぇよりは涼しいかもな。
あー…、ジェイド、礼くらいは、言ってやる…」
「はい?」

ルークが明後日の方を見ながら小声で言うのに、ジェイドは首を傾げた。

「いや、お前が髪をどうにかしたら良いって教えてくれたから、だな……」
「――あぁ…」
「そんだけだ!」

じゃーな!!とルークは走って去った。

その顔が赤かったことを見逃すジェイドては、勿論ない。

「ふふ、良いネタが出来ました」

明日は自分が結ってやれば、もっと面白いことになるだろう。

そうほくそ笑んだジェイドだった。





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アトガキ
5000hit、ありがとうございます!!
長髪ルークのポニテが見たくて、書きました♪
ティアがいないのは…絡め方が分からなかったからです←
あ、習わしは勿論、捏造ですから!
では、今後とも、よろしくお願いいたします。


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