それは解放か 『ジェイド』 柔らかな声に、ハッとした。 『あんまり頑張りすぎるなよ。 ほら、もう寝ろよ』 慌てて、ドアを振り返る。 声の主は、そこには居なかった。 ――やはり。 ――貴方は居ないのですね。 ほんの少し、落胆した。 あの子は、もう何処にも居ない。 ***** 「お前、もー休め。 酷い顔してるぞ。」 午後になって、ピオニーが執務室に(恐らく政務をサボって) 来た。 「酷い顔、ですか? 私はいつも通りの……」 「もう、どれほど寝ていない? まともに食事を摂ったのは、 いつのことだ?」 「…………。 仕事に支障は無いでしょう」 確かに、最近は二時間ほどの浅い眠りと、固形栄養食に頼りきりだが、特に問題があるとは思えない。 「支障が無くてもだな、お前が体を壊すぞ。 そんなことになったら、ルークも悲しむだろうが」 「……あの子はもう、悲しむことも出来ません」 三ヶ月前に還ってきたのは、 あの子ではなかったのだから。 「あの子はもう、悲しむことはありません。 喜ぶことも、楽しむこともない代わりに、憤ることも、苦しむことも、悲しむこともありません。 ――あの子はもう、居ないのだから」 私たちが、殺してしまったのだから。 「ジェイド……、お前、」 「――陛下、そろそろ戻られないとマズイのでは? 大臣方か、近衛が迎えに来られますよ?」 口を噤んだピオニーは、深い溜息を吐いて、執務室の隅の抜け穴から戻っていった。 ***** 近頃、私はこう思うのです。 死が恐怖だと、一体誰が証明 しうるのかと。 恐ろしいのは、死ぬその瞬間 だけで、死後はいっそ穏やか なのではないのか、と。 ならば、今あの子は穏やかで いるのかも知れない。 あの子が欲しいと、叫ぶ心と、 あの子が穏やかであれと祈る心 発狂しそうな想いを抱えて、 今日も私の世界は回っている。 『ジェイド』 嗚呼、ルーク…… 私の光(ルーク)は、 闇に掻き消されそうだ…。 後書き。 初TOA小説。 ……上手く纏まりませんでした ルークに還ってきて欲しいと望むことさえ、己に禁じているジェイド、みたいな…←みたいなって、オイ 11,05,08 back |