飼い猫 「ただいまー!」 バタン、と少し乱暴に開け放たれたドアから、楽しそうに表情を輝かせた子供が入ってきた。 ジェイドは、読んでいた本から目を上げて、そちらを見た。 「お帰りなさい。随分楽しそうですが、どこに行ってきたんです?」 「アニスと、ちょっと買い物に!すげー面白いもんあったから、ジェイドにお土産買ってきた!!」 ニコニコと言う子供の両手は、いかにも何か隠してます、と言わんばかりに背中に回してある。 「何を買ってきて下さったんですか?」 柔らかく目を細めたジェイドが問うと、子供はてててっと、椅子に腰掛けたままのジェイドに近寄り、目を瞑れと言う。 「仕方ありませんねぇ」 はい、と目を瞑ってやる。 「えいっ」 ズボッ。と、しか表記出来ない音と共に、ジェイドの頭に何かが装着された。 驚いて目を開けたジェイドの前には、満面の笑みを浮かべたルーク。 「これは……?」 「うん、やっぱり似合うな、ジェイド!」 ジェイドが頭に手をやると、三角に尖った、柔らかい物が左右にある。 「ネコ耳カチューシャ!色がな、ジェイドの髪にそっくりだったからさ、思わず買っちまった!」 会心の出来だ、と実に嬉しそうに笑うルークに、ジェイドは少し意地悪なことを思い付いた。 両手をルークに伸ばして、ニッコリ。 「――では、ルーク。 遊んで下さい」 「………は?」 首を傾げるルーク。 そんな反応などお構いなしに、ジェイドは続ける。 「ネコ耳が似合う私は、猫っぽく振る舞うべきかと。 ですから、」 遊んで下さい。 恐慌状態に陥ったのか、ルークは反応しない。 「―――ルーク」 「……は、はいっ」 声を低めて呼ぶと、妙に良いお返事が返ってくる。 ――意識が別次元をさ迷っていたのだろうか。 ジェイドはちらりとそんなことを考えた。 「遊んでくれないと拗ねて、ルークに無理矢理ジャレついてしまうかも知れません。 そしてそのまま、明日の朝まで放さないかも知れませんね」 「……えぇっ!?」 我に返ったルークは、慌てた声で抗議する。 「ちょっ、それ困る…!」 「でしょう? ですから、私と遊んで下さい」 「……具体的には、何をして遊ぶか、が問題だと思う………」 ふむ、とわざとらしく考え込んだジェイドは、今思い付きましたと言うように、ぽんと手を打った。 「ルーク、来て下さい」 「ん?」 首を傾げながらも、ルークはうかうかとジェイドに近寄る。 ジェイドは、十分に近付いたルークの腕を掴み、あっと言う間に反転させて、強引にルークの体を自分の膝の上に落ち着けた。 「――ジェイ、ド?」 「はい、何ですか?」 ルークの腰に腕を回し、深く抱き込んだジェイドが、満足げな声を返す。 「――何してんだ?」 「ルークを捕獲して、ジャレてます」 至極ゴキゲンな声を聞いて、ルークは覚った。 ――あ、コイツ、オレを放す気は無いんだな。 暴れても無駄だろうことは、ガッチリと腰を捕まえる腕から、容易に察せられる。 諦めて、ぐったりとジェイドにもたれ掛かる。 「おや、抵抗しないんですか?」 「しても放してくんないんだろ」 「えぇ」 クスクスとルークの髪に頬を寄せながら、頷く。 「絶対に放してあげません」 「じゃオレ、無駄なことはしねぇ」 「おやおや」 悟りきったルークの言葉に、ジェイドは朱い頭に顎を乗せて苦笑する。 「それはそれで、つまらないですねぇ」 「お前……、ワガママ言うなよ」 ルークの呆れた声に、ジェイドはまたクスクスと笑う。 「無理ですよ」 「なんで」 不満そうな声。 その反応さえも愛しくて、ジェイドはまた笑う。 「貴方が貴方だから」 「はぁ?」 訝しげな声。 やはり愛しい。 「貴方は、何だかんだ言っても、最終的には私を受け入れてくれる。 貴方は私に、甘いですよね」 「お前はオレをイジめるのにな」 「えぇ、全くです」 ジェイドは、ルークの肩に額を預ける。 「でも、それすらも貴方は受け入れてしまう。 だからつい、貴方にばかり我が儘を」 すみません、とジェイドが言うと、ルークの手のひらがそっとジェイドの腕を撫でた。 「やっぱお前、ネコだよな」 邪険にしたかと思えば、甘えて擦り寄ってさ。 怒るに怒れねぇだろ。 そう拗ねたように呟くルークは、ちらりとジェイドの顔を見た。 「別に、そんな困ってるわけでもねぇし? オレにワガママ言って気が済むんなら、言えば良いじゃねぇか。 オレは、その……ジェイドが、すき、なんだし」 頬を染め、目を必死で逸らしながら言われた言葉に、ジェイドは目を見開いた。 次いで、苦笑を浮かべる。 「そんなこと言うから、調子に乗った猫に懐かれるんですよ」 「大丈夫、オレが嫌だったら放り出してるから、安心しろって」 ぽんぽん、と腕を叩きながら、ルークが答える。 「そんなに不安なら、首輪でも付けるか? ジェイドはオレの!って主張するためにさ」 「いえ、結構ですよ。 そんなことは、私と貴方だけが了解していれば良いんですから」 なら良いけど、とルークは柔らかく笑った。 「ところで、お土産は他の人にも?」 「あ、やべっ! ジェイドにネコ耳カチューシャ!ってので頭一杯で、何も買ってねぇ!」 ジェイドはそのネコ耳カチューシャを、ガイに自慢してやろうかな、とちらっと考えたのだった。 後書き。 「ジェイドにネコ耳」と頂いたんです。 途中、ウサギ耳と書きそうでした 何か、ジェイドってウサ耳っぽいイメージがあるのです 11,08,29 完結 back |