不機嫌の理由
正直言って、ルークは混乱していた。
だって、さっきまで仲間と一緒に宿屋に泊まったはずなのに、ここはどう見てもバチカルのファブレ邸、しかも夫妻の寝室である。
そして、ルークを最大に混乱させたのは、母が自分を抱き上げているという事実だった。
(なんで、どうして、何がどうなってるんだ!?)
とにかく落ち着いて、何か情報を集めようと思うが、どうにも上手くいかない。
まず、目が上手く開かない。
母が母だと解ったのは、ひとえに赤い髪と、穏やかな雰囲気、声などによるもの。
場所が解ったのは、色や配置などが記憶と寸分違わなかったからだ。
次に、音がきちんと聞き取れない。
なんと言うか…反響しすぎているのだ。
ダアトの大聖堂で、大勢がてんでバラバラに話しているのに耳をすましている感じだ。
それでも、何とか集めた情報によると、今はND2000、自分は生まれたばかり、
しかも双子らしい。
(オレ、母上から生まれたのか?それに……双子?アッシュかな)
「もう一人の御子様は健康でいらっしゃるのに…」
(ん?)
それじゃあ、自分は健康ではないようではないか。
はたして、その予測は正解だったのである。
*****
療養としてバチカルを離れ、そこで五年間を過ごした――らしい。
らしい、と言うのは、その間の記憶が非常に曖昧だからである。
だが、不幸ではなかったようで、自然に笑顔を浮かべることが出来る。
「ルーク、お医者様の許可も頂けましたし、そろそろバチカルに戻りましょうか」
「はい、母上」
そうして、五年ぶりに帰還したバチカルのファブレ邸では父と、見知らぬようで何だか知ってる気がする男児が待っていた。
父は、たまに療養地に訪れてくれたので知っているが、その子供は知らなかった。
「よく戻ってきた、シュザンヌ、ルーク。
大分、健康になったそうだな」
「ただいま戻りましたわ、あなた。
えぇ、随分と体が楽になりました」
「ただいま戻りました、父上……」
一礼して顔を上げたルークは、やはり男児を見てしまう。
ルークは誰だったかを思い出そうとしているのだが、父はそうは思わなかったらしい。
初対面の子供を警戒している、と判断したようだ。
「おぉ、双子とは言え、お前たちは初対面だったな。
ルーク、この子はお前の双子の弟、ジェイドだ。
ジェイド、この子がルークだ。何度も話して聞かせただろう?」
「はい」
(――ジェイド?)
蜜色の髪、ヘーゼル色の瞳、整った顔立ち……で、ジェイド。
「初めまして、兄上」
「あ、あぁ、初めまして、よろしく、ジェイド」
(あれ?)
その無感情な瞳と目を合わせて、ルークはとてつもなく違和感を感じた。
*****
「ってなとこで、目が覚めた。
つーか、ジェイドに起こされた」
今日一日、ルークの機嫌が悪かったので、何かあったのかと訊ねたら、これまた不機嫌な声で「お前のせいだ」と言う。
部屋で詳しい話を聞いてみれば、何てことはない、面白い夢を中断されて、ちょっと不満なだけらしい。
「兄上って呼ばれて、ちょっと嬉しかったのに……」
ちょっと笑みを浮かべてしまう。
完全に拗ねたルークは、ぶつぶつと不満を漏らしている。
もう理由は解ったのだから、ご機嫌を取るのはそう難しいことではない。
「……兄上」
「!?」
ベッドで隣合って腰掛けていたルークの耳元に、顔を近付けて囁く。
ルークの振り返った、驚きの表情が楽しい。
「兄上、離れていた五年間、何故か寂しかった。
これからは、一緒にいられるのでしょう?」
「えっ、あ、えぇ!?」
あたふたと慌てふためくルークの肩を押して、ベッドに倒れ込んだところを上から覗き込む。
「兄上、もっと仲良くなりましょう?」
カッと顔を赤らめたルークがジタバタと藻掻くが、時既に遅し。
自称・弟と仲良くするしか、道は残されていないのだった。
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アトガキ
そして、翌日も不機嫌(笑)
今更ですが、2000hitお礼です。
赤ちゃんは、反響音も聞こえているらしいですね。
それを不要な情報として切り捨てることを脳が学ぶまで、凄く聞き取りづらいんじゃないかと思います。
フリー小説ですが、まさかの夢オチ…
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