春―新緑の頃



昼休み。

「………………」

オレは大変に困惑していた。




*****

事の始まりは、四月まで遡らなきゃいけないだろう。

隣家の幼馴染みが、同じ高校に入学してきたのが、多分この状況の最初だ。



入学式の日。

双子の兄が生徒会長なんてしてるせいで、生徒会役員の一人が風邪で休みとかいう理由で、入学式の手伝いに駆り出されて。

中身はともかく、見た目で女の子に注目されていた幼馴染み――ジェイド・カーティスが、オレを見付けるなり輝かんばかりの笑顔になり、
入学式が終わるや否や、オレにニコニコと近寄ってこようとしたのだ。

――まぁ、新入生は入学式が終わったら、教室に移動せねばならないので、結局近寄って来れなかったのだが。

入学式には、新入生の他は、生徒会役員と、放送部などの進行の関係者しか出席しないので、オレを入学式の日に敵と見なしたのは、新入生の女子だけだったが。


入学式の次の週には、ジェイドは全校女子のおよそ3分の1を虜にしていて。

そして、その全ての女子に敵と見なされている。




そして、今。

ジェイドと一緒にいるのは、ピオニー・マルクトとサフィール・ネイス。

この二人の内、ピオニーの方は、ジェイド派でない女の子の2分の1を魅了している。

そして、その全ての女子も、オレを敵と見なしている。


つまり、オレは現在、全女子生徒の3分の2に敵とされているのだ。




*****

「ルーク、このエビフライあげますから、この塩鮭、私に下さいね」
「あっ、ズリィぞジェイド!ルークルーク!この唐揚げやるから、そこの卵焼きくれよ!!」
「………はぁ」

コイツらは毎日、一年の教室から、わざわざ三年の教室に来て、昼ごはんを食べる。

しかも、弁当のおかず交換まで要求する。
飲み物も、オレの分まで持ってくる。
デザートまで完備している。

教室の前には、ジェイドのファンと、ピオニーのファンが群がっていて、自分の目当ての方をうっとり眺めた後、オレをギッと睨んでくる。(お前ら、飯食えよ……。)

サフィールは、本当にただ、二人について来ただけなので、マイペースに弁当を食べ、今はミカンの皮を真剣に剥いている。


「お前ら、自分とこの教室で弁当食えよ」
「ヤですよ。教室にいても、煩わしいだけなんですから」
「そうそ。三年の、それもSクラスに、勝手に入ってこれる奴なんていねーから、ここが一番平和なんだよ」
「お前らは勝手に入って来てんじゃん……」

オレは、深々と溜め息を吐く。

するとジェイドは、オレの顔をじっと見詰めて、悲しそうな表情をした。

――否。作った。

「……ルークは、私が教室に入ることを許してはくれないんですか?」
「……うぜぇ」

オレが顔を背けてぼそりと言った言葉が聞こえなかった訳は無いのに、ジェイドは表情を崩さない。

「……勝手にしろよ」
「ありがとうございます、ルーク」

オレが何と言ったところで、コイツには痛くも痒くもないんだろう。
半ば諦めながら、吐き捨てると、ジェイドはそれはもう嬉しそうに、にっこりと笑った。

――不気味だ。

そう思ったことを隠して、オレはオレの弁当箱に移動してきたエビフライを一口かじって、また溜め息を溢したのだった。






後書き。

幼馴染み続編です。
ハッキリ言って、ルークにベタベタしてるジェイドが、気持ち悪いです←酷い
苦労性ルーク(笑)頑張れ(笑)

11,06,13



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