春―入学式 ――痛い。 庭の奥は、木々が鬱蒼と繁る森だった。 手入れはされているから、やはりこれは、己の不注意だった。 木の枝で、二の腕を切ってしまったのだ。 しかも、どうやら迷ってしまったらしい。 行けども、家の屋根すら見えない。 ――困った。その上、痛い。 途方に暮れて立ち止まると、ガサガサと下草を蹴散らしながら、誰かがやって来た。 やって来た誰かを見て、息を飲んだ。 緋色の長い髪の、美しい少女、だった。 その子供は、足元ばかり見ていたが、ふと顔を上げて、驚いた表情をした。 「え、ねぇ、血が出てるよ!?」 「あ、あぁ、うん」 その子に見惚れて、痛みも困惑も忘れていたのだ。 「ちょっと待って」 その子は、ゴソゴソとハンカチを取り出し、傷口を覆うように巻いてくれた。 真っ白なハンカチが、汚れてしまうのに、と思いつつ、その気持ちが嬉しくて。 黙って、その子の手が、不器用に動くのを眺めていた。 「これでヨシ!」 不格好に巻かれたハンカチ。 それでも、満足げに微笑むのが可愛くて。 「……ありがとう」 無愛想に言った言葉にも、笑ってくれた。 ***** その後、その子供は、少女でなくて、少年だと知るのだけれど。 そんな、森の中で印象的な出会いを果たしたのが、2歳歳上の幼馴染み、 ルーク・フォン・ファブレだ。 彼のいる高校に、今日、入学する。 もっとレベルの高い高校も、合格できた筈だ、と中学での担任は嘆いていたが、 知ったことではない。 明日から、彼と一緒にいる。 それだけが、自分にとって、重要なことなのだ。 後書き。 取り敢えず、始めてみました。 ルークが好きすぎるジェイドが生息すること、受け合いですね!(笑) ジェイドに怪我させてみましたけど、リクエストとは違いますよね…?(とある方面への問い) 11,05,31 back |