再び生まれる 「…………。」 無言のまま、夜のタタル渓谷を奥に進む。 仲間達は、一年前に還ってきたアッシュの誕生日を祝うため(ガイの据わった目を見れば、それは名目であり、何かを隠しているらしいアッシュを問い詰めるためだと知れた)、皆、バチカルへ向かった。 しかしジェイドは、例え形だけであったとしても、アッシュを祝う気にはなれず、未練がましいと思いながらも、今年もタタル渓谷へとやって来たのだった。 ***** 頭上には、大きな丸い月。 足下には、月光に照らされて揺れる、白い花。 夜の黒いうねりの向こうには、巨大な塊――エルドラント。 青年は、深く息を吸い込み、細く長く吐き出して、微笑んだ。 「還って来たんだ…」 夜の海と、白く輝くセレニアの花。 美しい景色を満足いくまで眺めながら、青年は呟く。 「良かった、誰もいなくて…。 取り敢えず、夜が明けたら、ケセドニアに向かって…」 海を、崩れ落ちた栄光の大地を見つめていたのが、いけなかったのだろうか。 青年は、背後に近付く影に気付けずにいた。 ***** 短い斜面を登り、岩影を迂回して、セレニアの花畑に出た時、ジェイドは思わず息を呑んだ。 緋色から金に移る、腰までの美しい髪をなびかせた青年が、海を、そしてその向こうのエルドラントを見ている姿があったからだ。 足音を隠し、気配を消して、青年に近付く。 と、青年の声が聞こえた。 「夜が明けたら、ケセドニアに向かって…」 「許しません」 咄嗟に青年を抱き締めていた。 驚きに満ちた、青年の顔が振り替える。 「じぇっ、ジェイド!?」 「また、私の前から消えるなんて、許しませんから」 ぐっと、ジェイドの腕に力が入る。 「大体、どれだけ心配かければ気が済むんですか、帰ってくるのが遅すぎるんですよ、ガイは毎週八つ当たりに来るし、ティアとアニスは毎月愚痴りに来るし、ナタリアは月に二通は怒りの手紙を送ってくるし、アッシュは何か隠しているようだし、私の苦労が貴方に分かりますか!?」 「いや、えー…っと……」 「この上、ケセドニアに雲隠れなんかされてたまりますか、いい加減私の胃に穴が開いて、心には疾うに穴が開いてましたが、ついには狂ってしまいますよ?良いんですか?」 「いや、良いも悪いも…取り敢えず、落ち着け。な?」 「何を言ってるんです?私は落ち着いて………」 「ジェイド!?ジェイドー!?」 意識がフェードアウトするのを感じながら、ジェイドは、そう言えばこの一週間、まともに寝食を摂っていないな…と思い出した。 どうやら、気が抜けて、一気に空腹と疲れが襲ったらしい。 慌てる青年――ルークの声を聞きながら、ジェイドは眠りに落ちた。 ***** 抱き締められた状態で意識を失われ、縋り付くように体重をかけられて、ルークは大いに慌てた。 怪我!?(血は出ていないし、痛そうでもない) 病気!?(見た目で分かるのか!?) 未知の何か!?(何かって何だ!?) しかし、耳をすますと、すうすうと落ち着いた寝息。 「何だ、寝てるだけか〜…」 良かった、と安堵したが、ふとルークは考えた。 何故、こんなにも唐突にジェイドは眠ったのか? よく見れば、ジェイドの目の下にはうっすらと隈があり、頬は少し痩けて、何だか不健康そうだ。 ――何やってんだか、コイツ…。 ゆっくりとジェイドを地面に横たえ、自分も転がる。 起きたら取り敢えず、何か食い物を作ってやって(ジェイドの荷物の中には、食料もあるだろう)、 それから世話の焼ける大人の面倒を見るため、水の帝都に行くことになるのだろうな、と考えながら、自分とジェイドにマントをかけて、ルークは目を閉じた。 後書き。 えーと、ルークの日(6/9)だと聞きました。ので、こんな話。 どうしよう、上手くまとまりません…。 ジェイドは寝食を忘れて研究に打ち込んだ挙げ句、ルークと再開して、気が緩んで、色々ぶちまけちゃった後、バタンキュー(古) アッシュは、ルークが還ってくる可能性を知ってましたが、あくまで可能性なのでひた隠し(政務とか勉強とかで逃げ回る)。でも、バレバレ(笑)なのでPTメンバーは苛々して、誕生パーティ(つまり逃げられない)に、皆で問い詰めに行きました(笑) 11,06,09 back |