納得いかない状況について 「……………………」 気まずい。 すげー勢いで、気まずい。 つか、何でオレが、この陰険眼鏡のおっさんと、二人っきりで部屋に籠ってなきゃいけねぇんだよ!? 早々にギブアップして、オレはベッドを出ようと、起き上がる。 しかし、それより早く淡々とした声が掛けられる。 「ルーク、寝ていなさい」 「ヤだよ。何でオレが、お前の言うことなんか聞かなきゃいけねぇんだっつの」 「体調的な理由からでしょう」 おっさんの視線は未だ、手元の本から離れない。 オレは、おっさんの言葉なんぞ、無視することにした。 「――忠告はしましたからね?」 「ああ?何だっつの………っっつあぁ〜!!」 おっさんの視線が、ちらりと此方を見たが、オレは構わず足を床につけ、体重を掛けた途端、脳天まで駆け抜けるような痛み。 「っぐ、ああぁぁぁ…っ!!」 痛ってええぇぇ!! 足首を掴んで、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。 コツコツと軍靴が床を叩く音。 の後に、おっさんの年齢詐称な顔が、視界に現れる。 「だから、言ったでしょう」 溜め息を吐く、その仕草が腹立たしい。 「酷い捻挫なんです、急に立とうとしたら、痛くて当たり前でしょう。ティアがある程度までは治してくれましたが、それでも限度があります。 それに、怪我が熱を持っていて、貴方自身、発熱しているのですから、大人しくしておきなさい。 ――そう言われたのを、忘れましたか」 そうだ、ガイとティアは、湿布や熱冷まし、食料品を買いに行った。 イオンとアニスは、教会に用事とか。 こんなおっさんと二人っきりの理由は理解できても、状況に納得いかねぇ。 むすっ、としながら、横にはならずに、ベッドヘッドに背中を預けて、足を投げ出す。 見るもんなんてねーから、ボケッと天井を眺めていたが、如何せん暇だ。 おっさんは椅子に戻って、本を読んでいるし。 ブタザルはティアが連れて行ったし。 「………暇だ」 「そうですか」 一人言のつもりだったのに、おっさんが淡々と返すから、余計にイラッとする。 「……おっさん、何か話せよ」 「嫌ですよ、意味もなく語ることなどありませんから」 ――即答かよ。 ムカッ、ときたから、引き下がってなんかやんねー! オレは、このおっさんで暇潰しをする!! 「じゃあ、オレが何か適当に話すからな!!聞いてろよ、おっさん!」 「はあ?」 おっさんの嫌そうな声が聞こえたが、無視だ無視。 さぁって、何から話すかな〜…お。 「前にな、屋敷から抜け出そうと思って、白光騎士団の鎧を着たことがあるんだけどよ、アレって重いのな〜」 「ほう」 「鎧着て、兜被ったまでは良いけどよ、動けなくってな、結局失敗したんだぜ〜」 「それはそれは」 余りに適当な相槌に、ムッとしたが、適当に話すと決めたのだ。 まだまだ、負けてやるものか。 「こないだ、ガイがな……」 「へぇ」 「んで、ガイが……」 「ふむ」 「でな、ガイのヤツ………」 「そうですかー」 ***** ゼェゼェ。 息を切らしてるのは、錯覚じゃねぇ。 マジでずっと喋ってんのに、おっさんときたら、返事にもならねぇ相槌ばっかり。 ――今度はテメェの番だ。 とばかりに睨んでいたのが効いたのか、おっさんは本をパタリと閉じて、オレを見た。 その視線が、何か刺さる感じがする。 ――何でだ? 内心、首を傾げていたが、おっさんが立ち上がり、こっちに近寄ってきた時点で、その疑問は空の彼方だ。 「貴方は、本当に私を苛立たせる天才ですねぇ」 「は?」 いや、今までの流れで苛立って良いのは、寧ろオレだろ!? 瞬間的に頭に血が上り、勢い良く顔を上げると、おっさんの顔が……近ぇっつの! 「貴方が、幾らガイが良いと言っても、許してやりませんからね」 「あぁ?言ってる意味が……」 ん? 口が動かしづらい。 つか、動かない。イコール喋れない。 ――何でだ? さっきも思ったな、コレ。 おっさんの顔が近すぎる。 大袈裟に言えば、睫毛の本数も数えられそうだ。 妙に凪いだ赤い瞳が、オレを見ている。 と言うより、凝視している。 その、近すぎる顔が離れた。 おっさんは好きではないが、あの赤い瞳は好きだ。 だから、ちょっとばかり、残念かもしれない。 「今の……」 あ、口が動く。 おっさんは、まだオレを見ている。 「今の……何だ?」 無意識に唇に触る。 そうか、唇を押さえられてたんだな。 位置的に、おっさんの唇に。 おっさんの顔を眺めながら、確認する。 うん、間違ってない。 ん?それって、何か名前付いてたよな。 「キスですよ」 「きす?」 「えぇ」 それきりで、おっさんは椅子に戻り、本を開く。 オレは、日光の関係で天井に映った、庭木の枝の影を眺める。 ガサガサと揺れるあそこには、鳥でもいるのか。 思考回路が空回っているのを自覚しながら、早く他のヤツらが帰ってこねぇかな、と考えた。 ――キスの意味、訊かねぇと。 やっぱり、この状況には納得がいかねぇ。 後書き。 暇なルー君と、無自覚嫉妬ジェイドさんでした。 バチカル帰還前です。のでナタリア居ません。 長髪、可愛いですよね。 ルー君のカテキョになりたひ…。 11,05,18 完結 back |