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  疑惑の鉾先


「事情聴取……ですか?」

ダンブルドアに呼び出された先でライムに告げられたのは思いがけない話だった。失踪中の二年間について、より詳しく話を聞きたいと魔法省から再三の要求があったのだと言う。始めはダンブルドアの方で断ってくれていたそうだが、それでもなお、要求は途絶え無いのだと。

「左様。魔法省も最近は何かとピリピリしておるようじゃ。君の失踪中の事についてより詳しく知りたい、としつこくての。これ以上断り続けるよりも、出向いてきちんと話した方が良いかもしれん」

入院中に魔法省の役人から一通りの事情聴取は受けたはずだが、それでは足りなかったというのだろうか。

「……疑われて、いるんでしょうか?」
「君が過去に行っていた、という事に関しては気付いてはおらぬじゃろう。そんな事例は無いからの。現にスラグホーン教授さえ気付いてはおらぬ。ただ、最近の情勢から考えるに、少しでも疑わしいものは調べたいのじゃろうな」
「大丈夫でしょうか……」
「ライム、心配はいらぬ。魔法省にはワシも同行する。尋問では無いのだから、そう緊張せずとも良いじゃろう」

ニッコリと、安心させるように微笑むダンブルドアに応えるように、ライムはぎこちなく笑った。


****


魔法省に向かう当日、指定された時間に合わせてライムは校長室へと向かった。
いつも通りの格好で良いと言われたので、ライムの服装は制服にグリフィンドールのローブを羽織った姿だ。皺や汚れが無いか念入りにチェックして、リリーに髪を整えてもらったから身だしなみはバッチリだ。
しかし校長室で待っていたのは何故か、ダンブルドアではなくマクゴナガル教授だった。

「マクゴナガル教授?」
「ダンブルドアは急な呼び出しで、一足先に魔法省へ向かわれました。貴女の説明にまでは間に合うでしょうから、心配はいりません。魔法省へは、私が同行します」
「そう、なんですか。わかりました。よろしくお願いします」
「ええ。それでは早速ですが、行きましょうか。フルーパウダーの使い方は知っていますね?」
「はい」
「では、先にお行きなさい。私は貴女が無事に向かったのを確認して、後から行きます」

暖炉の中で燃え盛る炎にひとつまみのフルーパウダーを投げ入れると、一瞬で赤から鮮やかなエメラルドグリーンへと変化した。勢い良く燃え上がる炎に踏み込むのは抵抗があったが、後ろにはマクゴナガル教授がいるしぐずぐずしてはいられない。ライムはぎゅっと目を閉じると、思い切って暖炉の中へ飛び込み行き先を告げた。

「魔法省、アトリウム!」

ぐるぐると脳みそがかき混ぜられるようなひどい感覚と浮遊間。唐突に足が地面を踏みしめ、勢いを殺しきれずにライムは前のめりに暖炉から飛び出した。

「わわっ!」

咄嗟に体勢を立て直したお陰で、何とか転ぶ事は避けられた。乱れたローブの裾を直していると、背後で再びエメラルドグリーンの炎が燃え上がる。柔らかいヒューッという音と共に暖炉からマクゴナガル教授が現れ、危なげなく着地した。

「無事に着きましたね、モモカワ」
「は、はい、マクゴナガル教授」
「よろしい。では、私は手続きをしてきます。それまでそこの噴水で待っていなさい」
「わかりました」

マクゴナガル教授を見送って、ライムはぐるりと辺りを見回す。
長い豪華なホールの床は黒っぽい木で出来ていて、汚れ一つ無くぴかぴかに磨き上げられていた。両側の壁も黒い木で覆われ、ライムが今出てきたような金張りの暖炉がいくつも並んでいた。孔雀の羽のように鮮やかなブルーの天井には金色に輝く記号が絶えず動き回り、巨大な掲示板みたいに見える。

「すっごい……想像以上に広いのね」

ホールは行き交う人の数も多く、様々な服装の魔女や魔法使いたちが早足で移動している。中ほどにある丸い噴水には大きな黄金の立像が飾られていて、ものすごく目立っていた。高貴な顔つきの魔法使い、美しい魔女、ケンタウルスに小鬼、屋敷しもべ妖精の像が並ぶ丸い水盆には、投げ入れられた無数のシックル銀貨やクヌート銅貨が光っている。お金を投げると願い事でも叶うのだろうか。

「モモカワ!」
「はっ、はい!?」

突然名前を呼ばれて、ライムは飛び上がった。声の主であるマクゴナガル教授は口を真一文字に引き結び、大股でツカツカとライムの方へとやってくる。何があったのかはわからないが、一目で苛立っているのがわかる。

「一緒にいらっしゃい。ダンブルドアの元へ向かいます」
「え、あの、どうしたんですか?」
「事前の話と全く違うのです。これではまるで……!……ともかく、ダンブルドアを探さなくてはなりません」
「その必要は無いよ、ミネルバ」

二人の背後から穏やかな声がした。
驚いて振り返ると、そこには濃紫の長いローブを着たダンブルドアが立っていた。

「二人とも、待たせてすまんのう。今日に限ってやたらと色々な所から声が掛かっての。思ったより時間がかかってしまった」
「アルバス!ああ、良かった。この通知を見てください!」

マクゴナガル教授が駆け寄り握りしめていた分厚い羊皮紙を手渡すと、ダンブルドアの目が素早く紙面を走った。

「ただの事情聴取のはずだったのに……!これでは完全な騙し討ちです!」
「なるほど……まさかこんな卑劣な手を使ってくるとはの」
「事情聴取ならば、こんな場所でやる必要はありません!これではまるで、モモカワが犯罪者か何かのようではありませんか!」
「まあ落ち着きなさい、ミネルバ」

ダンブルドアに宥められてマクゴナガル教授が落ち着いたところで、ライムは恐る恐る口を挟む。

「あの……一体、どうしたんですか?」
「モモカワ、落ち着いて聞きなさい。貴女の事情聴取は、十号法廷…ウィゼンガモット法廷で執り行われます」
「えっ、法廷!?なんでそんなところで?」

ウィゼンガモット法廷といえば、死喰い人の裁判を行った場所ではないか。

ハリーも“不死鳥の騎士団”で尋問を受けてはいたが、あの時は事前にそう通達されていた。そもそもライムはハリーのように法を犯したわけではない。確かに二年間も失踪していたなんて少し……いや、大分不自然かもしれないが、あれはあくまで事故だし、尋問なんて受ける必要は無いはずだ。

「事情聴取とは建前で、尋問がしたいのじゃろう」
「尋問って、どうして、そんな……」
「最近は死喰い人の活動が目立つ。あまりに乱暴な考えだとは思うが…何らかの関係があると、邪推されているのかも知れぬ」

その言葉に、ざぁっと血の気が引いてゆく。魔法省に嵌められたのだと、ライムはようやく理解した。


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