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  Happy Halloween


「「Trick or Treat? 」」

談話室への階段を下りきった瞬間、左右から聞き慣れた声がかけられた。

「Happy Halloween! 」

ライムがニヤリと笑ってポケットから取り出した飴玉を左右に立つ者たちに差し出すと、途端に二つの真逆な反応が返ってきた。

「ああー!! 負けた! クッソ! 」
「あっはっはっは! だから言っただろう? シリウス。ライムはこういう事に抜かりない、って」
「寝起きならまだ油断してると思ったんだよ! 」
「甘いね、砂糖菓子より甘いよ、シリウス君。そんなんで僕に勝とうだなんて100年早いね! 」
「うるせえ。第一、二人ともおんなじ方に賭けたら賭けにならないだろうが」
「だから公平にコインで決めただろう? 君は二度負けたんだよ」

ふっふっふ、と至極愉快そうに笑い声を上げるジェームズと、苦々しげにそっぽを向くシリウスに挟まれたまま、ライムはぼうっと談話室を眺めていた。ハロウィン当日の談話室は綺麗に────いや、ゴテゴテと鬱陶しいくらい豪華に飾り付けられていた。

空中を漂う小さなジャック・オ・ランタンは普通のものより不気味な表情をしているし、よく見ればカボチャ以外のものまで混ざっている。オレンジと紫が目に痛い。ちかちかと瞬く光が多すぎやしないだろうか。
なんと言うか全体的に、鬱陶しい。これは絶対、ジェームズがやったんだろうな、とライムは目星をつける。

あまり長い時間見つめていると目が悪くなりそうだったので、ライムは直ぐに視線を外した。ハロウィンの飾り付けを楽しむのは大広間だけで良いや。そういえばどこからか、カボチャの匂いがする。ああ、後でパンプキンパイを食べよう。寝起きのぼんやりとした頭で、ライムはそう決心した。

「ライム、談話室を見回して、何か気付くことは無いかい? 」
「……気づきたくない事なら、たくさん」
「現実から目を逸らしてはいけないよ、ライム。ほら、もっとよく見て」
「目がちかちかする」
「っ……! あっはっはっは!! 」

ライムの容赦ない答えに、シリウスが吼えるような笑い声を上げた。対照的にジェームズは不満そうだ。

「ほらな、不評だろ? 」
「ひどいな、親友。君だってノリノリで飾り付けたくせに」
「こういう反応が見たかったんだよ」
「ええっ!? 嘘だろう? こんなに綺麗なのに……! 」

軽くショックを受けている様子のジェームズを見ながら、ライムとシリウスは顔を見合わせる。

「ジェームズの目は節穴なの? 」
「眼鏡が悪いのかもしれないな」
「それは眼鏡に失礼だよ」
「そうだな、目が悪い。目が」
「ひどい! よく見てよこの澄んだ目を! 綺麗なガラス玉のようだろう? 」
「うん。まるで魚のような目だね、シリウス」
「ああ。市場に並ぶ新鮮な魚の目だ」
「死んでる! それ死んでるよ! 」

ああもう! と頭を抱えて叫ぶジェームズと笑い続けるシリウスを生温かい目で見守りながら、ライムは近くの肘掛け椅子に座って事の成り行きを眺めていたリーマスとピーターの方へと近づく。

「Trick or Treat? 」
「ふふ、Happy Halloween。はい、どうぞ」

今度は先手を打って声をかけた。するとリーマスはにっこりと笑って、小さな金色の包みをライムの手のひらに乗せた。
 
「これ、なあに? 」
「チョコレートだよ」
「やった! リーマスらしいね、ありがとう」

穏やかに笑うリーマスも、今日は顔色が良い。満月はまだ大分先だからだろうか。つられて微笑みながら、ライムはピーターに向き合った。

「ピーターも。Trick or Treat? 」
「あっ、うん、Happy Halloween。えーと、あ、あった! はい、これ」
「ありがとう。じゃあ私からはこれ」

そう言ってライムがポケットから取り出したのは、小ぶりな紙袋だった。二人は受け取ると、ぱちぱちと目を瞬いた。手のひらに乗せると少し重く、甘い香りがする。

「クッキーを焼いたの。良ければ食べてね」
「手作り? ライムが作ったの? 」
「ええ。厨房の隅を借りてね」
「へぇ、すごいね。ありがとう、ライム。でもどうしてわざわざ手作り? 」
「ほら、私って孤児みたいなものだから学費は免除してもらっているんだけど、あんまり自由になるお金って持っていないじゃない? だからたくさんお菓子を買うのは少しキツイんだよね。元々お菓子作りは好きだし、作ってみたの」
「そっか。ダンブルドアが後見人なんだっけ? 」
「そう。色々お世話になっているわ」
「へぇー」

そのまま3人でわいわい雑談をしていると、いつの間にか近づいてきたジェームズとシリウスもその輪に加わり、会話は広がった。

「ライム、僕らの分は無いの? 」
「あるよ、はいどうぞ」
「さっすが! ありがと! 」
「サンキュ」
「シリウスのは甘さは控えめにしてあるけど、無理して食べなくて良いからね? 」
「バーカ。貰ったもんはちゃんと食うさ」
「よっ! 男前! 」
「うるせぇよジェームズ」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ声は耳に煩い。けれど不思議と不快ではなくて、こうしてその輪の中にいられることが何だか嬉しい。

来年も、そのまた次も、みんなでこうして楽しくハロウィンを過ごせたらいいなと、笑顔の合間にライムは思った。


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