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short short


2015/04/18 17:28

じめじめとした岩肌は荒く、手をついた拍子に微かに掌を傷付けた。人の出入りの無い洞穴には澱んだ空気とかび臭さが充満している。やけに寒い空気と、言い様の無い不快感。待ち受けるものの大きさに心は重いのに、足取りは不思議と軽かった。

あの人は、今の僕を見たら何と言うだろう。

愚かだと笑うだろうか。嫌悪感も露わに眉を顰めて罵るだろうか。それともほんの少しくらい、胸を痛めるのだろうか。肉親の死に。……いや、それだけはないなと微かに笑う。
どちらにしろ、意味のない事だ。そんな日は永久に来ないのだから。

僕は歩く。死に向かって。あのお方と、僕自身の終わりに向けて。未練が無いとは口が裂けても言えない。後悔が無いとも。もっと上手いやり方があったのかもしれない。もっと賢い方法もあったのかもしれない。けれどこれが、今の僕にできる唯一の事で。これが、今の僕が考えた最善の答えで。

これこそが、僕にできる最後の贖罪。

(レギュラス/死に向かって)
ロケットを破壊する為に洞窟へ行くレギュラスの話。まだ若く未来もあったレギュラスが自ら死を覚悟して分霊箱を壊しに行くには未練も後悔も数えきれないほどあっただろうけど、最期はせめて少しでも晴れやかな気持ちでいてくれたらいいな、と。

2014/11/09 10:52

おまたせ―――――その声に背後を振り返ろうとして、私は動きを止めた。背中に当たる何かの気配に息を飲む。細くて尖った何か――――そう、まるで、杖のような――――そう、杖だ。確信した時にはもう遅かった。衝撃と共に、体を貫く閃光。一拍遅れてやってきたのは、痛みというよりは熱さに近い感覚だった。
二、三歩前へ。足がよろめき歩が進む。熱さに導かれるように脇腹へ手をやると、べっとりと赤い液体がついていた。
頭の中が真っ白で、言葉が上手く出てこない。疑問符ばかりが浮かんだが、言葉になったかは最期までわからなかった。

 「残念だよ」愁いを帯びた声は美しかった。色っぽささえ感じさせるリドルの美声が、石畳に反響する。
ふっと埃を払うような気軽さで杖を振るった。そこには何の重さも無く、慣れた行為に今更感慨も湧かなかった。ただ生きるために必要だった。だからそうしただけだ。
リドルにとって最早殺しはただの手段であった。父親を手に掛けた時はそれ自体が目的であったけれど、回を重ねていくごとにその特別性は失われていった。当然だ。人間は慣れる生き物だ。どんなにそれがは傍から見て異常な状況や行動であっても、徐々に慣れていく。そうでなければ生きていけなくなるからだ。
だからこうして彼女を手に掛けたのも、別に特別な理由があったからではなかった。深夜の空き教室。呼び出した相手はもうすぐここへ来るはずで、部外者にそれを見られたら困る。理由を付けて追い払うこともできたが、そうするのには些か時間が足りなかった。ただ、それだけだ。理由なんていらない。無くても人は殺せる。物事にいちいち理由を求めるのは人間の悪い癖だとリドルは思う。そんなものが無ければ安心できないのは弱いからだ。自分の理解の範疇を超えたものを認めることができないからだ。ああ、何もかもがくだらない。だからこそ、こうしてすべてが上手くいくのだけれど。
リドルはゆっくりと窓辺に近寄り、そこにかかるカーテンを開けた。空一面に広がる星空。まばゆいほどの光を放つ月は作り物のように青白く丸い。ああ、どうやら今日は満月だったらしい。
 真っ暗だった教室に、青白い月光が流れ込む。張り出し窓に腰掛けて、冷たいガラスに頬を付ける。光で明るくなった室内は身を切るように寒く、耳に痛いほどの静寂が落ちていた。光が差せば影が濃くなる。そう。何処にも影はある。僕の内にも。けれど誰も気が付かない。誰もが僕より遙かに愚かで愚鈍だから。けれどそれでいい。その方が都合がいい。周囲の誰もが僕の影に気付いた時には何もかもが手遅れだ。その時後悔しても遅いだろう。
 それでいい。それがいい。僕はただ、成すべきことを成すだけだ。全ての愚かな人間たちが、眩しさに目がくらんでいるうちに。

(リドル/人の殺し方)
30分クオリティ。リドルが埃を払うような軽さで人を手にかけていたらとてもいいな、と。

2014/10/18 21:24

「もう駄目みたいだ」
戦から戻り、一人自室に籠っていた半兵衛の元を訪ねた秀吉に、半兵衛は苦笑交じりにそう言った。手元に広げられた濃紫の手拭いには、刃こぼれした関節剣の破片が積まれていた。無数の刃が連なる剣はいつも丁寧に手入れされていた為か、その用途に似合わず光をきらきらと反射して美しく輝いていた。
「ここのところ戦続きで、随分と無理をさせていたからね……」
伏し目がちに俯いた半兵衛の白い肌に、薄鼠色の影が落ちる。長いまつ毛は色の無い純白。葡萄色の鮮やかな瞳を縁取るそれは繊細で細い。まるで半兵衛自身の命のように。
「そう気にすることはないだろう。武器とはそういうものだ」
淡々とした声に僅かな労りを込めて秀吉が答えると、半兵衛はふっと息を吐くように笑った。
「そうだね。いずれは駄目になるものだ。どんなに手入れをしていても、永遠にはもたない」
武器の話をしているはずなのに、その言葉には自嘲が含まれていた。半兵衛は砕けた刃の欠片をひとかけら摘まんで、格子窓から差し込む陽光に翳した。
「壊れたものをいつまでも大事に抱えているより、代わりのものを見つける方が遥かに有用だ」
武器も、人も。言葉にならないその先を、半兵衛は唇の動きだけでつぶやいた。
(挿げ替える/半兵衛/BSR)
暦さんのリクエスト。その場で30分即興書き。

2014/03/08 02:22

※革命前夜第三章ラストのIFで一応死ネタ
苦手な方や未読の方はご注意ください。


****


打ち付けられた肩が痛む。倒れた際にぶつけたのか、頭は何だがぼんやりしていて視界は霞がかったように不明瞭。なのに不思議と気分は穏やかだった。
「ジェームズ」
名を呼ぶ声は虚ろに響いた。
「リリー」
応える声は無い。もうここにはいないから。ざわざわと鳴る木の葉の葉音に混じって、時折ハリーのむずがる声が聞こえる。仰向いた視界には死の呪文の衝撃で破壊された天井が見えた。吹き込む風は冷たく、こんな時でも星は綺麗だった。
初めは階段下まで這うので精一杯だった。次は階段の途中まで登ることができた。徐々に距離は伸びて部屋まで追いかける事ができた。伸ばした指が、あの人のローブを掠めた事もある。何度もやり直して、ようやくここまで辿り着けた。

なのに────なんどやっても今日になる。

幾度も幾度も繰り返した。抗って歯向かってみた。けれど結果はどうしたって変わらなかった。止められなかった。
乾いた涙の跡が引き攣れてぴりぴりと痛む。喉の奥がつんとして、抑えきれない感情がじわじわと湧き上がってくる。それを無理矢理飲み込んで、嗚咽を堪えて歯を食いしばる。
あと何度やり直せばいい。あと何度目の前で死ぬのを見ればいい。あと何度殺すところを見なきゃならないの。
祈るように、縋るように、小さな砂時計を握りしめて目を閉じる。
絶望にまみれて、何度も諦めかけて。それでも私はもう一度、願いをかけて時を戻す。
諦めきれないから。誰も捨てたくないから。それが我儘だと知っていても、私は願いを捨てられない。
だから戻す。だから変える。だから望む。
いつかこの日を迎えずに、別の今日を迎える日のために。


(なんどやっても今日になる Title by as far as I know)(革命前夜)

もしあの砂時計が逆転時計のように時間を戻すもので、何度も使用可能だったらの話。
のぞむ未来を作るために延々ループするヒロインの話。多分これで続きを書こうとすると救いようが無くなるのでボツ。

2013/12/10 09:55

リドルと双子の妹の話。
特殊な設定なので、苦手な方は各自自衛をお願いします。












兄は誰より美しかった。
生まれる前から共にいて、生まれた時には二人きりになった。私達は双子で、私達にはお互いしかいなかった。母も父も知らず、暮らす場所も着る服も食べるものもあったけれど、家族というものはいなかった。けれど不思議と悲しくは無かった。
兄はいつでも傍にいてくれて寂しさなど感じる事は無かったし、私には両親がどういうものなのかわからなかった。勿論知識の上では知っていたけれど、そこに憧れや羨ましさを感じる事は無かった。知らないものを羨むことはできなかった。
 
「貴女はいいわね。あんな素敵なお兄様がいて」
 
うっとりとした表情で兄の後ろ姿を見送る友人の言葉に、私は曖昧な笑みを浮かべた。
そう言って誰もが私を羨むけれど、同時に優越感を感じていることも知っている。私はトム・リドルの妹だ。妹は家族で誰より近しい存在ではあるけれど、恋人や伴侶にはなれない。だから彼女たちの恋の障害にはなり得ない。そう、思っているのだと。
 
「いい子だ」
 
目を細めて微笑するその唇が、美しい弧を描く。そうやって笑うと、兄はとても絵になる。
 
兄は私の自分と同じ漆黒の髪を払いのけると、露わになった額に口付けた。ほっそりとした指が、緩やかに輪郭を撫で上げる。真っ赤に熟れた木苺みたいな唇を親指でやんわりと抑え、額をくっ付けて兄は囁く。
 
「お前は僕のものだ」

僕の半身、僕の家族、僕の恋人。毎晩毎晩、呪文のように繰り返す。言い聞かせるように。刻み込むように。

「欲しいものは? 」
「無いわ」
「本当に? 遠慮しなくていい」
「トムがいればそれでいい」
「────欲が無い」
 
くつりと喉を鳴らして兄は笑う。人は私達を見てそっくりだと言うけれど、私には兄の方が数段美しく見えた。頭脳も美貌も何もかも、兄は完璧だった。

何も望まない。何も願わない。欲しいものは全てここにある。
欲が無いわけじゃない。ただはじめから、望むべくものが全てこの手の上にあっただけ。

「欲しいのは貴方だけだもの」

他の誰も欲しくない。興味など微塵も抱かない。

「貴方だけでいい」

後はただ、堕ちて行くだけ。
 

(片割れの呪縛/リドル)
家族愛にしろ恋愛にしろ、リドルが好きになる可能性があるとしたらマグルではない血縁かなー…と思って昔書いてみた話。発掘したのでコソッとアップ。
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