誠凜高校バスケ部。新設校ながらインターハイ決勝リーグまで進んじゃうようななかなかの強豪校なのに、先輩方も同期も、みんな和気あいあいとしてて仲が良い。それはマネージャーであるあたしに対しても。




「南部ー、ドリンクもらえるかー」




先輩方と同期ははあたしのことを「南部」と呼んでくれる。あ、例外はあるけど。水戸部先輩は声聞いたことないからノーカンで、あとは小金井先輩が、「南部ちゃん」って呼ぶ。あと、黒子くんとかカントクは丁寧に「南部さん」って呼んでくれる。





あと一人の例外が、彼だ。





「マネージャー、これよろしく」





そう言ってあたしにくしゃくしゃのビブスを寄越してきた彼。火神大我、我らが誠凜のエース。




彼だけだ、あたしを名前で呼んでくれないのは。





「絶対あたしのこと嫌いなんだよ、だからマネージャーってしか呼ばないんだよね」





お昼ごはんのメロンパンにかぶりつきながら目の前の黒子くんに訊いてみた。普段は火神くんと食べている彼だが、その火神くんがさっきの授業で爆睡していたために只今職員室で説教をくらっているそうで。これはチャンスと入部してからずっと抱えてきた悩みをぶつけてみたのだけど。黒子くんの答えはあたしが予想していたのとは大分違っていた。





「…何で嫌われてると思ったんですか、それだけで」




「いやだって今言ったじゃん、火神くんだけマネージャー呼びなんだもん。よそよそしいにも程があるよ」




「僕が見る限り、嫌ってはないと思いますよ」




「どこを見て?」




「というか一目見たら分かりますよ」





そう言って黒子くんは購買のサンドイッチを口に入れる。あれだけの運動量なのにどうしてこれだけで足りるんだろう。マネージャーのあたしの方が食べてるって。自分のお弁当を見つめる。うん、たぶん倍は食べてる。





「おい黒子…っと、お前ら何で一緒にいるんだ」




声がした方を振り返ると、火神くんが若干疲れたような顔をしていた。あの様子だとかなり絞られたらしい。まあ授業中寝てたのは火神だし、しょうがないけど。





「お帰りなさい火神君。今南部さんの相談に乗ってたとこなんです」




「ちょ、黒子くん!言わなくていいよそういうのは」




「…相談?」





火神くんの眉間にシワが刻まれた。ほら!すごい嫌そうな顔してるじゃん!あれであたし嫌われてなかったら何なんだ!黒子くんに抗議の眼差しを送ったけど、当の本人は涼しげな顔でパックの牛乳をすする。




「南部さん、火神君にははっきり言わないと伝わりませんよ。君の悩みなんてこれっぽっちも気付いていませんから」



「…黒子、それどういう意味だ」




火神くんの眉間のシワがいっそう濃くなる。いやいや本人に言いづらいから君に聞いたんだよ黒子くん!




「それじゃあ僕は図書室行ってきます。あとは二人で解決してください」



「ちょ、まっ、黒子くんんんんん!」




あたしの静止も聞かず、黒子くんはすたすたと教室を出ていってしまった。残されたのはあたしと、今だ眉間にシワが寄ったままの火神くん。どうしろっていうんだこれ!




「…で、何相談してたんだ」




じろっと、きつい目付きで火神くんが聞いてくる。そりゃそうだよね!あんな言い方されちゃ気になりますよね!黒子くんは何て爆弾を落としていってくれたんだろうか。本人に言いづらいから相談したいと言ったのに。しかしこうなっては直接質すしかないのか。意を決して火神くんに向き直る。




「あのね、火神くんはさ、何であたしのこと名前で呼ばないの?」



「は?」



「火神くんだけなんだよ、バスケ部であたしのことマネージャーって呼ぶの。先輩も同期も、みんな名前で呼んでくれるのに。あたしのこと何か気に食わないんなら直接言って、そういうのすごく気になる」




勢いに任せて思っていることを全て吐き出した。何かあたしに落ち度があるんなら言って欲しいし、ずっとモヤモヤしたままじゃそのうち部活にだって支障が出るかもしれない。全国目指す、って一丸になってるのに、それはまずい。火神くんの目をじっと見つめる。




「…わりぃ、何かマネージャーって呼びやすいから。別にお前が気に食わねえとか、そんなんじゃねえから」




気まずそうに、目線をあたしから外して火神くんは頭をかいた。火神くんは嘘が下手な人種だから、この感じだと本当に意識もなくマネージャー呼びしてたんだろうな。ならば。




「だったらちゃんと名前で呼んでほしいな、役職で呼ばれるのはカントクやキャプテンも一緒だけどさ、呼んでるのが火神くんだけなんだもん。ちょっと寂しいじゃん?」



「お、おお。じゃあ…千尋」











「ふおおおお!?」



「え、何か俺おかしいこと言ったか!?」



「いやまさか下の名前呼ばれるとは!名前ってみんな南部って苗字で呼んでるから!こういう時だけ帰国子女ぶるのか!」



「いやお前が名前って言うから!普通名前っつったらファーストネームだろうが!」



「その場合、苗字で呼ぶ人の方が多いですけどね」




「うおおお黒子くん早かったね!」




いつの間にか後ろにいた黒子くんは、相変わらず感情の読めない顔でたたずんでいた。




「本を返しに行っただけなので。あと火神君」



「…んだよ」



「ちゃんと言ったらどうですか、名前で呼ぶのが気恥ずかしくてマネージャーって呼んでたんだって」



「てめ、黒子!そういうことは普通黙っとくもんだろうが!」



「ちょっ!その話はあたしがいるところでやるのはどうなんですか!」




喧嘩腰で怒鳴る火神くんを制するように大声を張ると、火神くんはぴたりと止まってこちらを見た。みるみるうちに、顔が赤くなる。




「その、あの、だな」



「そこまで言われたらあたしもねえ、気付かないほど鈍くないよ?」




そうか、そういうことか。さすがにこれは、嫌われてるとは言えないよね。むしろ逆。




「普通に、名前で、呼んでいいよ。南部じゃなくて、千尋って。まずはそこからだ」




本当に、火神くんは嘘がつけない人種だ。ここまで気付かなかったあたしもあたしだが、そういうことならば。あたしだって火神くんのことは嫌いじゃないし。




「あたしは大我って呼んだ方がいい?」



にやにやしながら聞くと、顔を真っ赤にして小さく「…おう」と返事が返ってきた。



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