ゆらゆら、ゆらゆら。休日の朝の電車は静かにゆれる。
「何で日曜に補修なんだろうな」
「赤点取ったからでしょ」
横に座る檜佐木に問われて答える。車両にはあたしと檜佐木、二人だけ。
ゆらゆら、ゆらゆら、揺れては肩が触れる。その度に心臓は跳ねる。
ゆらゆら、ゆらゆら。
「で、赤点どころかクラストップの南部さんは何で補修に行ってるんですか」
「友達に頼まれたんだよ、先生の説明じゃわかんないから教えてほしいって」
半分は本当、半分は嘘。檜佐木に会う、口実になるならと友達の誘いに乗っただけ。檜佐木が補修出るって、聞いたから。
住宅地に差し掛かった電車は、大きく揺れる。ゆうらゆうら、ゆうらゆうら。
「天気いーよな、今日」
「補修がなければ、どっか行きたい気分だね」
窓の外は、雲もほとんどない青空。きらきらと、ガラスを突き抜けた日差しが降る。
行けるならどこかに行きたい、檜佐木と。けど、口には出さない。友達以上恋人未満、あたしたちの関係は微妙なバランスで平衡を保っている。つつけば崩れるような。
ゆらゆら、ゆらゆら。電車がスピードを落とし始める。この駅で降りれば、学校までは歩いてすぐ。
「なあ南部、」
「なに、」
「補修、さぼるか」
ぐらり。車線を変えた電車は大きく揺れた。檜佐木の顔はいつもと変わらず、切れ長の目であたしを見ていた。
「このまま終点まで行くのも、悪くねえと思うんだ」
どうだ?と問う檜佐木。一瞬だけ友達の顔が頭をよぎったけど、心の中でごめんとつぶやく。ドアが閉まり、電車がまたゆらゆらと動き出す。あたしたちは座席に座ったまま。
「終点って、何があるんだっけ」
「海しかねえよ、海しかねえけど、いいとこだ」
見知らぬ景色の向こうに、
(見知らぬ私たち)
電車が終点に着いたときに、あたしたちはどんな風になっているのだろうか。
終点まで1時間、あたしと檜佐木は、ゆらゆら揺れてく。