えーと、どうしたらいいのだろうか。




忘れ物取りに教室に戻ったはいいけど、あたしの席であるはずの場所をなぜか占領されてしまっている。




しかもクラス一関わりたくない人に。




「ご、獄寺くーん…」




へんじはない、ただのしかばねのようだ。





とか山本とか沢田ならふざけてできるけど、さすがに獄寺くんには無理ですあたしまだ死にたくないもん。あたしの机で獄寺くんは爆睡中。呼んでもうつ伏せたままぴくりともしない。




床を見つめながら考え得る限りの対策を練ってみる。諦めて帰るのが一番早いけどそーいうわけにはいかない。だって明日テストの英語のノート取りに来たんだもん、アレがなきゃ赤点確実で死ぬ。でもノート取るにもこの猛獣のような彼を起こさなきゃいけない。授業中に寝てる彼を起こした先生はみんなあの不機嫌オーラに当てられて泣きそうな顔してたもん。あたしみたいなレベルじゃ即死だよ、でも諦めても補修決定のち課題地獄に堕ちる。どっちにしろあたしにはいい未来は待ってないよ。




こうなったら少しでも長生きする道を選ぼう。うん、猛獣より小言の嵐の方がまだ生き残れる可能性は高いよ。と思って顔を上げたとたんむくっと獄寺くんも顔を上げた。固まったあたしを彼の目がとらえるのにそう時間はかからなかった。ばちっと目が合う。





あ、あたし死亡フラグ立った。






「…何やってんだテメェ」




ほらもう怖いよお母さん!睨むとかそんなかわいいもんじゃないもん、あれ目から見えないビーム出してるって!全身から血の気が引く感覚。いやでも窮鼠猫を噛むって国語の先生言ってた、ネズミなりに最後の抵抗はしてみなきゃ、もしかしたら勝てるかもしんないじゃん!いや絶対無理だけど!




「あ、あの、そこ、あたしの席なんだけど」



「ああ?ここ俺の席だけど?」



「いや、今日、ホームルームで、席替えした、よね」




そう、あたしの席はほんの数時間前までは獄寺くんの席だった。けど月一の席替えが終わった今はあたしの席でその中には命をつなぐノートが入っているんだよ!





あたしの言葉にしばし考え込んだ獄寺くん、と、急にはっとしてみるみる顔が赤くなった。



「わ、悪ィ!」



獄寺くんががたんと勢いよく立ち上がった。すると椅子も一緒にがたんと倒れ、獄寺くんがあわててそれを戻そうとする。すごい焦ってる。あれ、こんな反応するなんて予想外すぎる。




椅子を起こしてその横に立って、特に何を言うわけでもないけど明らかに気まずそうな顔。目も泳いでる。いや、それにしてもテンパりすぎだよね。やばい、だんだんおかしくなってきた。さっきまで猛獣とかなんとか思ったけど撤回したい。この人むしろ小動物に見えてきたよ。



「…何にやついてやがんだ」


ドスを利かせた声なのに顔はまだちょっと赤い。ああもうだめ。もう何言われても怖くないこの人。




「だって…獄寺くんて…ぶふふ、すごい可愛かった、ふふふ、」



「なっ…」



「あ、獄寺君いた」


「おーい獄寺ー、補修終わったぜー」




そばのドアから入ってきたのは沢田と山本。沢田を見るなり獄寺くんはくるりと向きを変えて背筋をぴんと伸ばした。



「お疲れさまです十代目!」



「ごめんね遅くなって…あれ、一緒に2人がいるなんて珍しいね」




沢田があたしの方を見た。そりゃそうだよね、あたしじゃなくても獄寺くんが沢田や山本以外の人といるってこと自体レアだもん。




「いや、こいつはですね、」



「獄寺なんか顔赤いのな」



「う、うっせえ馬鹿!余計なこと言うんじゃ」



「まあちょっとね、獄寺くんがやらかしてしまっただけだから気にしないでいいよ、んじゃあたしは」



帰るよ、とようやく助け出せたあたしの英語のノートを机から取りだして足下のカバンを手に取った。一時はどうなるかと思ったけどこれであたしの命は長らえられたってわけだ。帰って1つでも多く単語を詰め込まねば再び地獄だ。




「あ、ちょっと待って」




くるりと向きを変えたところで沢田が呼び止めてきた。いやいや早いとこ帰って勉強したいんだよ空気読めよという気持ちを込めつつ振り向いてみる。



「なに沢田」



「今からうちで勉強会するんだけど、よかったら来ない?」



いやいや、急に何ですかその申し出。断る理由はないけど行く理由もいまいちない。どうしようかなとあたしが返事につまると山本がだめ押ししてきた。




「お前も補修組だし来いって、獄寺が教えてくれるし」




マジか。こんな態度で実はクラストップだったりする獄寺が教えてくれるとか、もしかしたら補修地獄脱出できるかもしれん。いや獄寺が教えるってそれもものすごい地獄なのでは。けど当の本人に了解を得る視線を送ると「十代目がおっしゃってるから俺は別にかまわねーけど」とまだうっすら恥ずかしそうな顔して言ってきたからあんまり怖くなくなった。





「あたしが英語で80点以上取れたらさっきの件はなかったことにしてあげるよ」



「上等だ、死ぬ気で教えるから覚悟しやがれ」





そう言ってにやりと笑った獄寺はめちゃくちゃきれいな顔しててちょびっとどきっとした。そういえばすごい格好いいんだったよ、この人。






飛び込んだ地獄の先は






意外と悪くない、のかもしれない。


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