「穴場?」




「そう!絶対人いないし静かだし、いい場所見つけたんだ」





前々から一緒に行こうと約束してあった花火大会。の、穴場とやらを古市が見つけたらしい。あたしも人混みはあまり好きじゃないし、背も高くないから、会場に行ってももみくちゃにされないように身を守るのに必死になって花火なんか見れたもんじゃない。毎年そうなるのを知ってたから、その穴場とやらに行ってみようかとついてってみれば。






「いや、穴場ってここかよ」





着いたのは古市の通う石矢魔高校、通称石ヤバ。大きな穴のあいた壁から中に入り込んだ古市は、早くーと手招きをしている。いやいや穴場っちゃ穴場だよ、だって夏休みの夜に学校忍び込むとかどこの小学生だ。というか男鹿と古市と、実際にやったよ小5の時。




ため息をついて浴衣をひっかけないように穴をくぐると、待っていた古市があたしに手を差し出した。





「え、どうしたのその手」




「手、繋いで行こ?足下暗いし浴衣じゃ歩きにくいだろうから」




「…分かった」





出会ってからは長いけど、付き合いだしたのは最近。こういう、恋人らしいことをされるとこそばゆいというか。まだまだ慣れない。おずおずと手を握ると、古市もぎゅっと、手を握り返してくる。横に並んで歩くと、いつもより近い距離に気恥ずかしさを感じた。





「ここ、鍵壊れてるから入れるんだー」





そう言って古市が手をかけたのは正面玄関のドア。言った通り、ドアは普通に開いたしセキュリティーとかもかかってないらしく警報も鳴ったりしない。どんだけ不用心な学校なんだか。





落書きとタバコの吸い殻と空き缶なんかでぐちゃぐちゃの廊下を歩いて、階段を登る。浴衣で草履のせいでいつもより歩きが遅いけど、古市はあたしに合わせて歩いてくれてる。校舎はほんの少し涼しいけど、つないだ手だけが熱くて、心地よかった。





「ほら、ここだよ」





そう言って古市が鉄製の扉を軋ませながら開けた。扉の向こうはフェンスに囲まれた、何もない空間。屋上。




少し遠くに見える街の光とか、うっすら聞こえるお祭りの賑わいとか。ここだけ、現実から切り離されたように静かで何もなくて。ほう、とため息がこぼれた。





「本当、いいとこ見つけたね」




「でしょ?2人きりで過ごすこととかあんまりなかったからさ、こういうのもいいかなと思って」





古市がにっこりと笑う。どきりと、胸が鳴った。つないだ手から、熱が全身に回るように、熱く感じる。きゅっと、繋いだ手を握る。





「…ねー古市」




「何?」




「あんたって普段は男鹿の陰に隠れててケンカするどころか人質にされたり女子より弱かったりするしそのくせ格好付けたがって」




「え、何で急に俺けなされてんの」




「そーいうのひっくるめて、やっぱあんたのこと好きだなあって、今思った」





そう言ったと同時にドン、と大きな音が響き渡った。見上げると、黒い空に色とりどりの、花火。




落書きとゴミだらけの、味気ない場所で。見た目は最悪な場所なのに、今まで見た花火の中でいちばん、あたしの中に焼き付いた。





夏の宵、光り輝く粒子






あたしの言葉に古市は何も言わなかったけど、繋いだ手を、ぎゅっと強く握り返してくれた。






君と奏でる恋の詩様に提出

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