お隣さんちの貴之くん、このごろ少し…いや、かなり変だ。山口さんちのツトムくんなんか目じゃないくらいに。
貴之の部屋、というか古市家が謎の爆発で半壊して、ようやく直ったと思ったら知らないゴツいおっさんが出入りするようになり。
うちのお母さんもすごい心配して事情を訊いたらしいが、貴之のおばさんもよく事情が飲み込めてないらしく逆にどうしたらいいのか訊かれたらしい。いや、当事者が分からないものをあたしら他人がどうにかできるはずがない。で、何故かあたしが直接貴之に確かめろという話になってしまって、今貴之の部屋で話を聞いてみたわけなのだが。
「…いや、俺にも分からないんだって。どうすればいいんだろう」
やっぱり逆に訊き返された。
「取りあえず男鹿くんとつるむのやめたらいいんじゃないかな」
「いや、そんな段階とっくに越えてんだよね。取りあえずうちに住み着いたおっさんなんだ、問題は」
貴之が溜め息をつく。どうやら話によると、何がどう間違ったか知らないけど貴之がおっさんを手込めにしたとか、と勘違いをされてるらしい。止めてくれ、幼なじみの好みがあんなもっさりしたおっさんだなんて笑えない。
「なあ、俺どうすればいい?」
「いっそのことまじでおっさんとデキちゃえば?」
「…本当まじ勘弁してください、お前だけが頼りなんだ」
茶化して言ったら貴之がものすごい真剣な顔で返してきたのでちょっと申し訳なくなった。しかしどうすればいいのかあたしにも分からない。取りあえず思いつくままに口にしてみる。
「真剣に恋人作れば誤解は解けると思うんだけど。おっさんじゃなくてちゃんと女の子の」
「そんな急に出来るくらいなら俺は今こんなに悩まないんだけど。何で出来ないんだろうな、彼女」
女子となれば見境なく声かけてくその軽さが原因なんだよ、とは言わないでおく。確かに顔だけはいいし優しいしいざという時は頼りになるし。ただ、がっつきすぎるのはあまり印象がよろしくない。ついでに言うと、貴之と一緒にいると必ず男鹿くんの何やかんやに巻き込まれる。そんな人間の彼女になろうなんて奇特な子はそうそういない。
「石矢魔じゃ見つからないだろうねー、中学の時の友達に紹介してもらえばいいじゃん」
「…それやってもここまで彼女出来てないんだよね、俺」
あ、すでに実践済みだったか。
「じゃあ…他に誰かいたっけ。あ、ちなみにあたしに言ってもだめだよ、友達ほとんどあんたのヘタレっぷり暴露してるから」
「じゃあもういねーじゃん、お前くらいしか」
「は?」
いきなり何を、と言おうとしたがすごい勢いで貴之に手を掴まれた。
「お願いだ、幼なじみのよしみだろ!俺を助けると思って付き合ってくれ!」
「何とち狂ってんのさアホ貴之!つか消去法みたいな言い方すんな!そんなんで付き合う女がどこにいんだ!」
掴まれた手を力一杯振りほどいて叫んだ。お前しかいない、と言えば聞こえはいいが貴之の言葉はそんなロマンチックな内容じゃなくあたしが最後の1人だと。腐っても幼なじみ、好意がないわけじゃないがこんな告白はあんまりだ。
「じゃあ」
何かを思いついたのか、貴之はあたしが振りほどいた手を今度は両手でがっちりと握りしめ、じっと目を見つめてきた。
「俺と、付き合って下さい」
「…言い方変えても一緒だろーが!帰れヘタレ!」
渾身の力で貴之の顔面にケリを入れ、そのまま部屋から追い出した。痛てーとかのたうち回っているがそんなの知らん。ドアを力一杯閉めてついでに鍵もかけてやった。そのまましばらくは入れてーとかごねていたが、諦めたのか階段を降りていく音がした。
「…あんな告白じゃなきゃ、付き合ってやらんこともないのに」
貴之には絶対言ってやらないが。女の尻ばっか追っかけ回した罰だ、しばらくはおっさんとランデブーしてろ、ヘタレめ。
ときめいたなんて言ってやんない