大学の授業にも慣れてきた。バイトも始めてみた。友達とサークルに入ってみた。一人暮らしを始めてまだ間もないけど、大した問題もなく順調に暮らせている。




一人楽しすぎるぜ、って誰の言葉だったかを呟いてみる。声は部屋の白い壁にぶつかり、ころんと落ちる。




楽しいけれどバカやってた高校の連中が懐かしいと思うのもまた事実。懐かしい、なんて。大した時間は経ってないのに、遠くに来てしまったんだなと思う。



深夜バラエティ番組をBGMに、明日の予習を始める。テレビの向こうでは見慣れた芸人がアホなことやってるけど、あたしの部屋は静かで1人。笑っても何となく空しいというか。




コレが世に言う、ホームシックって奴なんだろうか。






と、急にまだ傷も付いてないテーブルから振動音。携帯の着信だ。こんな夜中に誰だと手に取ると画面には見慣れた名前が。




高杉、晋助。まじかよ。






「…もしもし?」




「よォ、生きてっか?」





低い声が耳に絡みつく。間違いない、高杉だ。






「急に電話とか、どーしたの」





「銀時達がな、お前にかけろってうるせーからかけただけだ」






銀時達、ってことは。いつものあの4人か。よくよく耳を澄ますと高杉の他に聞き慣れた声が、恐らく3人分。





「別に俺が言ったんじゃねーよ、高杉がどーしてもかけたいとか言うからさー」




「ばっ!テメー適当なこと言ってんじゃねーぞ白髪!」




「すまんな、高杉が五月蠅いだろう。今電話して大丈夫だったか?」




「おいヅラ!携帯返せ!」



「ヅラじゃない桂だ!」




「アッハッハ、元気にしちょるがかー?」






次々に聞こえてくる、高杉と坂田とヅラと坂本の声。多分、携帯を奪い合いしながら各々好き勝手に喋ってるみたいだ。久し振りの感覚。バカやってるな、相変わらず。





「…オイ、」






漸く高杉の元に携帯が返ってきたみたいだ。何となく息が上がってるような気がする。アイツ等容赦ないからな。





「大丈夫か?」








大丈夫か。









ただそれだけの問いかけ、の筈なのに。高杉の声が、鳩尾にすとんとはまりこんだ。卒業してこっちに来てから、何もはまらなかった隙間に。






今までその場所を満たしていた何かが、意識もしないのに目からぼろりと落ちたのが分かった。









「大、丈夫、だし、」






どうしよう、視界が滲む。こんなんで泣くとか、奴にはバレるのは嫌だ。とは思うのに、嗚咽まで止まらなくなってきた。




「…馬鹿が、そんなんなる前に電話くらいよこせ」




「だ、って、」




「メールすらして来ねえから、野垂れ死んでんのかと思った」




クク、と喉で笑う高杉の声。ああ、心配してくれていた、のかな。口は悪いけど、なかなか優しい奴等なのは、これまでの付き合いの中で知ってること。






「大丈夫だよ、もう」







あんたが、あんた達が気にかけてくれてるって分かったから。だから、大丈夫。






もしもし?聞こえてますか?






ありがとう、って言ったら、高杉はどんな反応するんだろう。







title by 無気力少年。
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