現代人は一日平均二十回以上は携帯を開くそうだが、あたしは間違いなくその平均値を上げてる人間の一人だと思う。
夜の、11時。普段ならそろそろ寝ようかなんて思う時間帯。
「…まだ、仕事中、だよね」
ベッドに腰掛けて開いた携帯を閉じてみる。けどすぐ開けて、画面に映るアドレス帳の名前を見つめる。
土方十四郎。
云わずと知れた真選組副隊長で、あたしの恋人、の筈。
ここんとこ仕事が忙しいみたいで、会うことは疎かメールの遣り取りさえも途絶えて今日で十日。普段は自分から連絡なんてしないんだけど、こうも連絡が取れないとやっぱり心配だし、会いたいって、思う。
でもあたしは電話もメールも用事がないと出来ないタイプだし、第一電話したとしても何話せばいいのか。それに仕事中だったら迷惑だろうし、そんな思いが頭の中で渦巻いてて、通話ボタンに指で触れては携帯を閉じる、その繰り返し。
毎日会えなくても、時々声が聞けたらそれで良いとは思ってるし、土方さんにもそう言っている。ちゃんと繋がってるのは解ってるから。だからこそ、こうやって会いたくなった時、口実が見つからない。
「どーしよー…」
ため息をつきながら携帯を後ろ手で放り投げながら、そのまま後ろに倒れ込む。おっと、携帯が潰れる。
思わず手の下に敷きそうになった携帯に目をやると、画面は呼び出し中。…呼び出し中!?
切ろうかどうしようか躊躇した瞬間、通話口から聞こえてきたのは。
「どうした、」
紛れも無く土方さんの声だった。
「いや、あの、」
慌てて携帯を耳に押しつけ弁解を試みてみたけど、上手いこと言い訳が見つからない。
「お前から電話なんか珍しいな。…何かあったか?悪ィ、連絡出来なくて」
「いや、あたしは大丈夫なんだけど、あの、」
申し訳無さそうな声色に焦ってしまって、兎に角電話した口実を作ろうと部屋を見回す。と、この間奮発して買ったエスプレッソマシーンが目に入った。半分はあたしの為、もう半分はいつも缶コーヒーばっか飲んでる土方さんの為にと買ったやつ。
「あ、あの、コーヒーがね」
「は?」
「コーヒー入れたから、今日、家に、来ませんか」
いやいや何口走ってるのあたし!?理由にしてももーちょいマシなものはなかったの自分!?
一瞬の間の後、土方さんの吹き出したような声が聞こえた。…怒られると思ったけど、まさか笑われるなんて、予想外だ。
「ンな下手な口実作るくらいなら正直に言えよな、会いたいって」
電話だから顔は見えないけど、たぶん苦笑してる、そんな声。必死に隠そうとしたのに呆気なくばれた本心に急に恥ずかしくなってきた。
「え、あの、何か、ごめんなさい」
「謝るとこじゃねえだろ。…すぐ行くから、待ってろ」
こちらが返事をする間も無くぷつん、と気の抜けた音で電話が切れた。
あたしが言わなくても何もかもお見通しなのか、あの人は。悔しいけど、同時に嬉しい。あたしの事、解ってくれてるって思って良いんだよね。
でも素直に待つのは何か癪だから、言い訳は用意して置こうと立ち上がって新品のエスプレッソマシーンのスイッチを入れた。
いつもときどき
わたしにはあなたがいるから、