「ねー沖田、明日の誕生日のことなんだけどさ、」
「副長の座」
「いや、そーじゃなくてさ」
「副長の座」
「話ちゃんと聞いて欲しいんだけど」
「副長の座もしくは土方コノヤローの首」
「…あのさ、あたしみたいな平隊士には用意できんて。しかも誰もプレゼントの話なんかしてねーよ」
別にあたしが沖田に何かプレゼントしてあげようとかそんな考えを起こしたのでは断じて無い。奴の誕生日が明日ってことで、同い年でそこそこ仲の良いあたしに局長直々の命が下ったのだ。
「アンタが誕生日に何が食べたいか訊いてくれ、って局長から言われたんだよ。さあ今すぐ答えろ」
全くあの人もお母さんの様な事を言い出すもんだ。餓鬼じゃあるまいし、と突っ込みたいのをぐっと堪えて言いつけ通り縁側でだれてた沖田を叩き起こすというハイリスクな事までやってのけたのに。相手は身体の半分が不真面目でできた沖田だ、まともに答えてくれる訳無かった。
「鬼嫁」
「それは酒の銘柄だろ未成年が、答えないならマヨ尽くしが良いですって伝えるぞ」
「言えるもんなら言ってみな、土方ごとテメェもマヨで溺死させてやらァ」
アイマスクを額から外しながらニヤリと笑う。うわ、本気の目だよコレ。ああもうだから嫌だったんだ、もう適当に答えちゃだめかな。あたしハンバーグ食べたいんだよな。もうハンバーグって言っちゃおう。デミグラスソースよりおろしダレ希望で。
「真面目に答えないんならもう勝手に決めちゃうからね、あたしだって忙しいんだから」
「何でィ、ちゃんと言ったじゃねェか鬼嫁って」
「だからそれは食い物じゃないっつの。何か、酒だけで良いのか誕生日のディナーが」
「良い訳ねェだろ、胃が荒れる。酒と肴がありゃいい」
何処のおっさんだアンタは。もう一回言うが、未成年だっつーの。しかもあたしたちは法を遵守する警察なんですがね。もう真剣に答える気は無いんだろうな、そう思って踵を返した。向かうは局長の元。と、後ろから肩をがっと掴まれた。もちろん犯人は沖田。振り解こうにも奴の握力はハンパなく、なかなか逃げ出せない。
「もう何だよ!真剣に答える気無いんじゃんか、だからパーティーのディナーはハンバーグにしてもらうんだァァァ!離せェェェ!」
「俺は真面目に答えて言ってんでィ、酒と軽いモンと、それがありゃ良い」
顔を見ると、ちょっと真剣な表情。え、マジで言ってたんか。こいつ、もう救いようの無い莫迦なんじゃないか。やばいよ近藤さん、我らが一番隊隊長は来るとこまで来ちゃったみたいです。
「…本当に、それだけで良いの?」
「食いモンはな。お前、明日は早番だから参加するんだろ」
「まぁ、よっぽどの事が無い限り強制参加だしね。でも何でそんな事訊くのさ」
「…これだから鈍い奴は困るんでィ」
「え?何何どーいう意味?」
「…察しろバカ女!」
そう怒鳴って、沖田はすたすたと去っていった。ちょ、自分が引き留めたくせに勝手にどっか行くか普通。しかも怒鳴られる理由も分からない。けど、たぶん本気で言ってるんだろうから一応近藤さんには伝えることにした。そしたら「総悟も素直じゃねぇな」なんて言って笑い出した。話が全く見えないんですが。明日パーティー中に沖田の機嫌が良かったら訊いてみようかな。また怒られそうだけど。
純情ボーイ×鈍感ガール
「お前が居りゃいい、なんて言えるかよ、あのバカ女」