昼休みの屋上、天気は快晴。すこんと抜けるような青空と暖かい日差しの下、ロケーションは最高だ。壁を背もたれに座り込んで、持ってきたお弁当を膝の上に広げた、とたんその上に影が差した。




「何お前、弁当それだけ?だから胸成長しねーんじゃね」




銀八があたしの前にしゃがみ込んで顔を覗き込んできた。よれよれの白衣に締まりのない顔、取り敢えず教員免許は早いとこ返上した方がいいと思うって姿の、うちのクラスの担任だ。




「…余計なお世話だこの若白髪。つか何で居んの」



「そりゃお前、ここは俺の定位置だし。お前こそ何で一人で飯食ってんの?志村姉とか神楽とかどーしたよ?」



「妙は調理部の集まりで今クッキー焼いてて神楽は沖田にお弁当奪われて大乱闘始めたから」




妙の歯が砕けるようなクッキーもどきを食わされるのも乱闘に巻き込まれて痛い目見るのも御免だ、と思って普段来ない屋上で寂しくランチの予定だったのだが。



定位置、ってことは銀八もここでランチタイムなのか。また面倒くさい奴と一緒になってしまった。




「あーだから教室が汚かったのね。お前見たか、机とかすげーひしゃげてたぞ」




そう言いながらあたしの横に座り込んでコンビニの袋からいちご牛乳のパックを取り出した。ずびずびとストローからの音とともにこちらに流れて来るいちごフレーバーから逃げようとあたしは軽く奴から距離をとる。




「まじ匂いが甘ったるい、寄るな来るな近づくな」




あたしが極度の甘味嫌いなの知ってんだろ、と続けると銀八は凄く傷付いた様な顔をした。




「お前何でこれの良さが分かんねーのかなー、人生絶対損してるぞ」



「まだ大して生きてもないから損したって取り戻せます誰かさんと違って」



「俺と10しか違わないのに年寄り扱いかよ」




だから嫌だったんだ、こいつとランチタイムなんか。



昔からどうも甘いものとか可愛いものとか、所謂女子が好みそうなものが大嫌いで、その嗜好はショートカットにごついシルバーのピアス、ってあたしの姿に見事に反映されてる。




「大体甘いものなんて摂取しなくても人生生きていけるし、このまま行けば誰かさんみたいに糖尿で死ぬことはないから」



「いや俺糖尿で死ぬ決定?本当ひねくれてるっつーか…いや、ある意味まっすぐだよなお前」



「そーいう所はブレる気も踏み外す気も無いからね。あたし真面目だから」




お弁当も食べ終わったし、そろそろ神楽たちの様子でも見に行こうかな、そう思って立ち上がろうとしたら銀八と目が合った。何時になく真剣な目。アレ、いつもこんなに眉と目近かったっけか。




「じゃあ、甘くなかったらいい訳?」



「は?」




思わず出た気の抜けた声。つか顔近い。何かそんなに見られると恥ずかしいし柄にも無く照れてしまう。つかよく見たらこいつ顔は良いんだ。銀八はにやり、おちょくるような笑みを浮かべた。こんな表情、普段の締まりの無い顔から作られてるとは到底思えない。




「銀さん確かに甘いもの無いと生きてけないけど、甘くないのも嫌いじゃないよー」




お前みたいな、ね。




そう言ってあたしの手に何かを握らせると、立ち上がって銀八はドアの向こうに消えた。



いやいや意味分かんなかったよ?今のは何なんですかね?話が飛びすぎて支離滅裂だ。国語教師のくせに日本語解りづらいとかもうだめじゃん。やっぱ教員免許返上してこいこの不良教師が。嘘、何か解った気がする。あたしの勘違いじゃなければ。



今のは、あたし、口説かれたのか?



奴が寄越した、小さいチョコレート。カカオ80%の所謂ビター。包みをそっと開いて口に入れてみると、苦さと控えめな甘さが広がる。甘い、けど苦い。これくらいなら、食べてやらないことも無いな、と思ってしまった。悔しいが。



取り敢えずチョコのお礼に、コーヒー牛乳しか飲めないあの天然パーマにブラックでも差し入れしてやろう。




メルト



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