普通女って奴はあれが欲しいだのどこに行きたいだの、男の財布と見栄をズタズタにするまで我儘を言うもんだと思い込んでたが、目の前の恋人が言ったのは我儘と言うには至極質素なものだった。




「うおーすごいわ!流石にシーズンオフなだけあって人っ子一人居ないねー」




「海が見たい」なんていきなり言い出すから連れてきたのに、何この可愛げの無い感想。




「ちょ、折角海に来たんだしもーちょい可愛いリアクション無い訳?海キレーとかさー」



「うん、クラゲだらけだね」



「ごめん銀さんが悪かった、お前に可愛いとか求めた俺が馬鹿だった」



「ほら銀さん、早く砂浜に降りようよ、何時までも駐車場から眺めてても楽しくないしさ」




手招きしながら階段を降りるその表情は特にはしゃいでる訳でもなく、ほぼ無表情だ。いや、これはアレだ、楽しませろっつー女王様の挑戦状に違いない。負けるな俺。




「…何、そんなに銀さんと浜辺で駆けっこしたい訳?私を捕まえてごらーん的な?…え、何その冷たい目」



「もう突っ込むの面倒くさいよ新八くんの苦労が身にしみて分かるわ」




何かさ、俺泣きたくなってきたんだけど。普段からクールだし口を開けばこんな悲しい会話しか繰り広げられねーし。本当に俺こいつと付き合ってんだよね?好き合ってるんだよね?



そんな俺の葛藤も知らず、今度は浜辺の流木に腰掛けて海を眺めだした。さんざんな扱いをされときながらぼーっとしてるその横顔すら愛しく思えるあたり、俺はかなりの重症なんだろう。




「で、お前はここに来て何がしたかったの?」




隣に腰掛けて問いかけてみたが、うん、と生返事が帰ってくるだけ。それきり彼女は言葉を発さず、俺も黙り込んだ。打ち寄せる波の音だけが包み込むようにこの場を支配する。




「…静か、だよね」



「…ああ」




そういえばここんとこ依頼が珍しく多くて、ぼーっとするのも幾日ぶりか。ましてやこうやってこいつと居る時間なんて殆ど無かった。



後ろの道路からは行き過ぎる車のエンジン音が時たま聞こえるが、肌寒い潮風に当たろうなんて奇特な奴は居ないらしく、駐車場には何時まで経っても俺の原チャリだけ。他の人の気配も無い。



完全に、二人きりの空間。



不意にそっと寄り添ってきて、漸くこいつの意図が分かった。本当に素直じゃねーな、うちのお姫様は。そっと肩に手を回して囁いてみた。




「二人っきりになりてーんなら、回りくどい事しねーで正直に言やぁいいのに」



「…五月蝿い」




ぶっきらぼうな答えが返ってきたが、彼女の横顔は夕日じゃない赤に染まっていた。




ささやかなエゴイズム




「何ならこのまま後ろのホテルで朝まで二人いででで髪引っ張るのはナシって」



「調子に乗るなよバカ白髪」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -