「土方さん今日誕生日らしいっすね、おめでとうございますまた少し死に近づきましたね」





俺の姿を見るなり駆け寄ってきて何事かと思えば、なんつーことを言うのか、この部下は。ニヤニヤ笑う顔といい、どっかの誰かとそっくりだ。そう思ってため息をつく。





「…祝う気持ちがこれっぽっちも感じられねーんだけど」




「何言ってんですか、土方さんの寿命が近づくのにこれ以上喜ばしいことがあるわけないじゃないですんぶっ」




「よーし、今すぐテメーの寿命も縮めてやらァ」





生意気な部下の介錯くらい、造作もない。左手で奴の顔を掴んだまま右手で刀を抜くと、げっ、と呟き俺の顔をばっと見上げた。





「ちょ、軽いジョークじゃないっすか!そんな簡単に刀抜くとかダメですって、刀は侍の命じゃないっすか」




「心配すんな、すぐ終わっから」




「いやいや終わったらいかんですから、順番的には土方さんの方が先じゃないっすか」





「まだ言うか」
「よーしそれなら俺が永山ごとあの世に送ってやりまさァァァァ!」





叫び声とともに何かが目の前に飛び出してきた。反射的に永山を突き飛ばし刀を抜くと、キインと金属のぶつかる音。目の前に現れた栗色の髪に呆れを感じながら怒鳴る。





「さっきから姿が見えねえと思ったらどこに潜んでんだテメーは!」





庭の茂みから飛び出してきた総悟の刀を、自らのそれで受ける。片手だけで相手できるような奴ではないので、永山の顔を掴んでいた左手も刀の柄へ。何しろこのクソガキ、こういう時だけ目がマジだ。こっちも本気で行かないと、殺られる。長年の付き合いで、それくらいは分かる。





「つか隊長、今私ごと斬ろうとしませんでしたか」




「気のせいでィ、つかテメーも加勢しろ。その非力な腕でも刀持ちゃ多少は使えんだろ」




「断固拒否します、めんどくさいんで」




「…上等だクソアマァァァァ!」





総悟が一声叫ぶと、俺に向けていた刀を引き、永山に斬りかかった。永山も抜刀して応戦する。2人して、目がマジになっていた。何しろコイツらの仲の悪さはハブとマングース並みだ。放っておけば間違いなくどちらか、というか永山がやられる。




…つーか、こいつら何がしたいんだ。俺に突っかかっといて、俺をほっぽりだして鍔迫り合いって。ガキの遊びならそのまま放っておくが、生憎ここは泣く子も黙る真選組の屯所内だ。内乱で刃傷沙汰は困る。取りあえずでかいガキ2人の頭に鉄拳制裁をくれてやった。拳骨で、一発ずつ。





「痛っ!ちょっと土方さん、頭割れたらどうしてくれるんですか」




「そんぐらいで割れる頭ならとっとと割れろ、テメーの頭なんか大して使いもんにならねーし」




「うるせーよ死ね沖田」





「お前が死ね永山」





「…お前らいい加減にしとけ」





もう一発ずつ鉄拳制裁をくれてやると、両者とも渋々という顔をしながらようやく黙る。何か俺、父親みたいになってねえか。いや、その役目は近藤さんだろう。とりあえず俺の役目は、ちゃんと奴らを仕事に向かわせることだ。





「遊びてーなら見廻りでも行って攘夷浪士と追いかけっこしてこい、ここでやっても時間の無駄だろ」




「遊びじゃねェです、本気の斬り合いでさァ」




「もっとタチ悪ィわ、いいから行ってこい」





へいへい、とやる気の欠片も感じられない返事をして、総悟はだらだらと廊下を歩いていく。が、永山はその場に立ったまま動かない。俺の話聞いてたのか、コイツは。さっさと行け、と小突こうとすると、永山が隊服のポケットから何かを取り出した。それを両手で俺に差し出してくる。





「…果たし状なら総悟に直接渡せ」




「違います、誕生日っつったらプレゼントですよ。それに果たし状だったら何回か渡してますし」





永山が真顔で言う。果たし状の事には触れないで、差し出された小さな包みを受け取って、封を開ける。中には、今使っているのと同じデザインの、携帯灰皿。





「土方さんの、いい加減ボロボロだったんで。お気に入りとかだったらいかんかなと思って、同じ奴探したんですよ必死で」





口を尖らせて俺に愚痴るその様子は、大して嫌そうなものではない。確かに最近、買い換えようかと思っていたから丁度良かった。一応、礼は言っておく。





「…ありがとな」




「ちゃんと使ってくださいよ、休日まるまる潰して探し当てたんですから」





じゃ、あたしは見廻り行ってきますよと立ち去ろうとしたその後ろ姿に呟く。





「…よく分かんねー奴な」





すると、聞こえていたのか永山がくるりと振り返った。最初に俺に喧嘩をふっかけてきた時のような、含みのある笑い顔をこちらに向ける。





「何言ってんですか、めちゃくちゃ分かりやすいですよ、あたし」




「いや、分かんねーから言ったんだけどな」





俺をおちょくったと思えば、しっかり指示した仕事はこなすし。かと言って部下らしい振る舞いは全くしない。そのくせこうやってプレゼントなんか用意して。なのに喧嘩はふっかけてくる。コイツは俺を、どうしたいのか。





「あたし、土方さんのこと割と本気で好きなんですよ。分かりにくいってんだったらそれはアレですよアレ、好きの裏の裏の裏の裏返しだからですかね」





ケラケラと笑って去っていく後ろ姿に、今度は聞こえないように呟いた。





「それ、結局表だろーが」




アレが好いている相手への表現の表側なら、アイツはロクな恋愛してこなかったんだろう。ため息をついて煙草に火を付け、少し考えて新品の携帯灰皿に灰を落とした。


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