「で、何で俺なの」



「だって古市くらいにしか頼めないんだもんこんなこと。あたしを助けると思って付き合え、そして宿題の借りを返せ」




そんなやり取りを携帯でした次の日。あたしと古市はショッピングモールにいた。昨日は早苗と二人で来たところに、今度は古市と二人だ。ただし、デートなんて可愛らしいもんじゃない。というか古市とだなんてごめんこうむる。黙ってればそこそこイケメンなのに色々残念だし。




「大体考えてはいるんだけど、古市にも相談乗ってもらった方が確実だし」



「彼氏いる子とかに聞けばいいのに」



「聞いたところで参考になると思う?」



「あー…」




古市が微妙としか表現できない顔をする。大体美咲さんから耳打ちでされたお願いが無茶ぶりすぎるのだ。



「辰巳に、誕生日プレゼント探してあげてくんない?あいつも高一だし、女の子からプレゼントもらったらちょっとは色気付くかなと思うんだけど」




無茶な願いである。そもそも相手はあの男鹿だ。ヒルダさんと一つ屋根の下、しかも子育てなんてとんだオプションまでついてるというのに。




「女に興味がない、っていうより考えたことすらなさそうだしね」



「普通ならあんなゴスロリ巨乳と子育てなんて、男だったらもっとテンション上がるだろ。まああのヒルダさんとベル坊だってことを差し引いても、あいつに今時の高一らしさを求めても無理だ」




それにはあたしも同感だ。拳を握りしめて力説する古市に、あたしもうんうんとうなずく。



歩きながら周りのお店を見る。メンズのお店が少ないのは、まあこういうところでは普通だし仕方がない。しかし、こういうところに男鹿がいるところが想像できない。こんなオシャレなところより、廃ビルとか川原とかの方が似合うってどんな高校生だ。




「…全くもって思い付かないんだけどどうすればいいかな古市君」



「もういっそのことあそこでごはんくんのキーホルダーとか買ったらいいんじゃないかな」



「ちょ、投げんな!あんた連れてきた意味がないじゃん、お願いだからもうちょい真剣に考えろ」



古市が子ども向けのバラエティ雑貨のお店を指差すがそれは却下した。男鹿は喜ぶだろうが美咲さんから怒られる、間違いなく。それだったらその横にあるあまりにも場違いなシルバーアクセのお店の方がまだ色気がある。買い与える本人には色気なんざカケラもないが。




「…色気、ねえ」



あたしが呟くと、その言葉に反応したように古市が息を吐いた。ため息つきたいのはこっちだ、真面目に考えろ。そういう前に古市が口を開いた。




「ぶっちゃけ、男鹿なら笹木さんからもらったものなら何でも喜ぶと思うけどな」



「…何それ」



「あれー、古市君じゃん」




不意に後ろから聞こえた声に振り返る。見覚えのある飴色の長髪に、あたしは眉をしかめた。




「…よく会いますね」




声の主、夏目さんはにこにこしながらこちらに近付いてくる。あたし知り合いでもないのに何でこんなにこの人と会うんだろうか。




「そんな露骨に嫌そうな顔しないでよー。もしかして、デートの邪魔しちゃったかな」



「古市はそんなんではないので」



「あはは、そうだよねー。きみはどっちかっていうと男鹿ちゃんっぽいし」



ケラケラと笑う夏目さん。本当この人はどこにでもいるな。というか石矢魔に住んでる人間が行動範囲が狭すぎるのか。




「ま、俺は邪魔そうだし退散するかな。男鹿ちゃんにもよろしくねー」




そう言って夏目さんはひらひらと手を振って離れていく。あれ。今日はやたらとあっさり。いつも絡まれるというか余計なこと言ってくるから、変に拍子抜けしてしまう。まあ、何もなしに終わるんならいいか。というか絡まれることに慣れすぎてるせいか、そう感じるのは。




「…何だか、気に入られてるっぽいよね、笹木さん」



「もう慣れたよ。それに、悪い人ではなさそうだし」




あの人は会うたびに絡んできて、余計なことは言うけどそれ以上のことはしない。悪意もなさそうだし、今のところは。




「さ、とにかくちゃっちゃと買ってさっさと帰ろう。古市、手始めにあのシルバーのお店からね」



「男鹿があーいうのつけるとこが想像できん」



「それをさせるのが美咲さんのお願いなんだから、さあ課題丸写しさせた分働け。…あ」



間抜けな声を出したのはあたしだけでなく、古市もだった。その目の前には、壁面にディスプレイされた、シルバーのネックレス。その中のひとつに、あたしと古市は釘付けになった。




「…値段的にもいけるわ、これ」



「つかこれしかないでしょ」




すみません、これください。その声も、あたしと古市の声はぴったり合った。






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