「ほんとありえないんですけど」

画面に浮かぶ歯の浮くような言葉の羅列に吐き気がする。何かしらの反応を返してあげることすら面倒で中身を確認するだけで確認してそのまま画面をシャットアウト。真っ暗な画面に浮かんだ私の顔は見慣れたうんざり顔。

「一回寝ただけで彼氏面してくる男って何なの」
「僕に聞かれたってわかるわけないでしょ」

向かいに座る宇佐美は私と同じうんざりしたような表情で私と似たようにスマホの画面を伏せるようにして机の上に投げ出した。

「何が宇佐美くんのこと好きになっちゃった、だよ。お前が好きなのは僕のカラダでしょって感じなんだけど送っていいと思う?」
「はは、宇佐美クンってばサイテー」
「はは、名字サンだけには言われたくなーい」

朗らかに、そして爽やかに笑い合ってはみてるけどその実、話している内容は言い逃れができないほどにサイテーの極み。私も宇佐美も同じ穴の狢、欲しいのは愛情じゃなくて一夜の火遊びなのだ。おかげで何度か痛い目も見たがそれでも止めようと思えない辺り私の方がもしかしたら向かいの彼よりタチが悪いのかもしれない。

「でも実際送ったらどうなると思う?」
「良くて宇佐美クンサイテーで、終わり。最悪刺されるんじゃない?」
「最悪の場合の方が対処しやすそうでウケる」
「うっわ、怖」

前言撤回、間違いなく宇佐美の方が何倍もタチが悪いし、多分私より何度も修羅場というべきか死線というべきかを掻い潜ってこの道を選んでいるサイテー野郎だ。

「実際向こうから危害加えて来る方が対処しやすくない?悪いのはお前じゃんって言えるからいろいろできちゃう」
「それ宇佐美が男だからできんだよ、私は痛い目見たことあるよ」
「それでなんで止めないの?」

丸い大きな、空洞のような真っ黒い瞳が真っ直ぐにこちらを射抜く。見つめ合えばその瞳に吸い込まれそう、なんて一見ロマンチックなことを考えたがこの場合の吸い込まれそう、は魅力ではなく吸い込まれた先には破滅しかない恐ろしいブラックホールのような瞳だ。

「宇佐美はあんの、止めない理由」
「質問を質問で返すのって僕、良くないと思うなー」
「ないんだもん、止める理由」
「じゃあそんなに痛くなかったんじゃん」
「そーなのかも」

喉元過ぎれば熱さ忘れる、当時は確かに恐ろしい出来事だったと思って反省の気持ちを持っていたような気もするが今となってはそんなこともあったな、程度のものだ。物理的にも精神的にもなかなか痛い思いをしたはずだが残念ながらそれは身体にも心にも傷痕を残すことはできなかったようだ。

「ま、僕も面倒な思いは結構してきたけど止めないのは同じ理由」

満たされたいのは今日、この時間だけ。それより未来の話なんてしたくないし、求めてない。いつまでもこのままでいられるなんて思ってやいないけど今がその時ではない。そう思ってもうどのくらい経ったのだろう。
そんな風には少しだけ感傷的になってみたりしていると机に投げ出された二台のスマホからそれぞれ軽快なメロディが流れ出す。

「鳴ってるよ、宇佐美クン」
「そっちもね、名字サン」

お互い何の合図を送るわけでもなく似たような動作でスマホを手に取った。私は全部面倒になったのでもう電源を落とす。宇佐美のスマホがどうなってるかなんて私の位置からではわからない。でも宇佐美のスマホももう何のメロディを奏でてはいなかった。

「ねぇ、」
「あのさ、」

綺麗に被った呼びかけに言葉を返さず黙って宇佐美の瞳を覗き込む。ブラックホールみたいなその真っ黒の奥には似たような瞳をした私だけが映っている。
どちらも同じものを望むのであれば、それはもしかしたら明日を語れる仲になれるのかもしれない。
どちらも同じものを求めるのだから、寂しい今日を埋めるだけの理想の相手になれるのかもしれない。

そんなことはどうだっていいからそのブラックホールの向こうの破滅を見てみたかっただけなのかもしない。

「今日、これから時間ある?」

問うた唇がどちらのものであったかなんてもうどうだってよかった。
だって私が言ってたって宇佐美が言ってたって結果は変わらないのだから。

最低な愛を叫んでおくれよ。
(今夜だけはお前が僕の)(貴方が私の最愛の人なんだから)


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サイテーだって笑い合えるくらいの距離感の宇佐美上等兵と最低な夜に溺れてみたい


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