「愛してる」 静かな部屋に突然落とされた声は低く響き、驚くほど鮮明に私の耳へと届いた。 たった五文字のその言葉に思わずその声の主の方へと振り返れば彼は今にも泣きだしそうな顔でこちらをただまっすぐ見つめていた。 「どうしたの」 いつもは言わないようなそんな言葉に返せた言葉は何の答えにもならないような無機質で無難な逃げ口上のような疑問形。そんな私の答えに今にも泣きだしそうだったその表情はまた一段と歪んだ。 「寿一?」 「……愛して、いる」 「ええ、私も愛しているわ」 誰よりも強いはずの貴方が何をそんなに不安になる必要があるのか、そんな気持ちを込めて名前を呼べば彼はただ壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返す。強情な貴方はきっと自分の望む答えが聞こえるまでそうやって不安に押し潰されそうな顔のまま同じ言葉を繰り返すのだろう。だからそんな姿を見たくない私は簡単に貴方の望む答えを口にする。 そしたら先程までのしおらしさなんて何処へやら、ほんの一瞬で私の腕を掴んで引いてその広い胸の中へと私を招き入れ、閉じ込めた。 「どうしたの、寿一」 「……俺には言葉が足りないと、」 「言われたんだ」 ぎゅうぎゅうと昔から変わらない力加減の下手くそな抱擁にも慣れたもので私は招き入れられたその胸の中、いつもの楽なポジションに入り込んで笑う。 「大丈夫よ」 貴方の気持ちはいつだってきちんと伝わっている。強すぎる視線が、加減のできないその腕が、私を呼ぶその声が、貴方を形作る全てが饒舌に気持ちを伝えてくれる。 「私はそういう寿一が好き」 どんなに遅くなろうときちんと家に帰ってくる貴方が好き、記念日には必ずアップルパイを買ってくる貴方が好き、朝にはおはようを、夜にはおやすみを、必ず私に伝えてくれる貴方が好き。 「……俺も、好きだ」 「ええ、知ってるわ」 「こうして俺の傍にいてくれることに感謝している」 「私がそうしたいからしているの」 感謝されるようなことではないわ、と笑えば貴方は困ったようにほんの少しだけ眉を下げる。 「これからも俺の傍にいてくれ」 「もちろん、傍にいさせてちょうだい」 「ありがとう、愛している」 「どういたしまして」 繰り返すように愛している、と伝えればもう言葉はいらないと言うように近付いてくる唇に静かに目を閉じた。 言葉にする想い (確かに伝わる熱と愛情) *** 拍手ありがとうございました。 |