彼らが
死神
だったなら 前編





※「BLE/ACH」パロです。静雄の斬魄刀は「津ヶ流(つがる)」です。




「いいーざーやあああ!!」

ドオン、と何かが崩れ落ちるような凄まじい音がする。周りにいた死神たちははっとするが、きらきらと光る金髪がちらりと見えてああまたか…と諦める。あれを止められる自信がある者はいなかった。

「あーあ…また壁壊しちゃって。困ったちゃんだねえ」
「うるせえ!!逃げんな臨也ア!!」
「臨也、じゃないでしょー」

空中でくるんと一回転すると、白い羽織を着た男はスタンっと静かに地に下りた。勿論無傷である。そして白羽織は隊長の証。男はにいと笑った。

「折原隊長、でしょう」
「ああ!?」
「平和島副隊長」

あっという間に間合いを詰められ、男、臨也の手が腰にささっている刀へと滑る。静雄も負けずにすぐさま距離を取り、自身も刀へと手を伸ばす。だが臨也はいつの間にか後ろへと回っていた。

「、ッ、いざっ…」
「縛道の六十一、六杖光牢」

しまった、と思った瞬間にはもう遅かった。キン、と光が胴体を囲い、自分の身体の自由がきかなくなる。刀に手をやったのはフェイクだったか。静雄はぎりっと臨也を睨みつけたが、臨也の笑みが深くなるだけだった。

「じゃあねーんシズちゃん。またね」
「待ちやがれ臨也ッ!てめ、今日という今日はっ…」
「おい静雄ー?どこ行ったー?」

どこからか自分の隊の隊長の声が聞こえ、静雄ははっと顔を上げた。臨也が面白くなさそうに一瞬顔をしかめた。そうしているうちにドレッドヘアーに白羽織を着た男がひょこりと顔を出す。

「お、いたいた」
「、トムさん!すみませっ…」
「これは田中八番隊隊長。困りますよ〜、あなたの部下がいつも僕の邪魔をするんですから」

わざとらしく臨也が白羽織をふわりと揺らして静雄の前に立つ。静雄はぎり、と力を入れてみるが、臨也のかけた鬼道は詠唱破棄でありながらも威力は充分で、はずれる気配がない。田中八番隊隊長、と呼ばれた男は頭を掻きながらため息をついた。

「そいつぁ悪かったな。…解放してやってくれるか」
「…さあ、どうしましょうねえ」

臨也がにやりと口の端を上げたのと同時に、すぐ後ろでドオンと音がした。臨也はすぐさま振り向く。そこには手を腰に当てて立つ静雄がいた。片手には自身の斬魄刀を持っている。臨也はチッと舌打ちをした。

「その必要はないッス、トムさん。今、もう解けましたから」
「…シズちゃん」

霊力は充分なはずだったんだけどね、と臨也は呟く。臨也のかけたはずの鬼道は静雄の斬魄刀によって解かれてしまったようだった。静雄は斬魄刀を鞘に戻すと、すたすたと上司の方へ向かって歩き出した。

「トムさん、任務ッスか」
「ああ。すぐ来てくれるか。おまえに向かってもらう」
「了解です。…仕方ねえ、臨也、今日は見逃してやるぜ」
「俺のセリフね」

静雄も大きく舌打ちをすると、上司の後に続いて行ってしまった。臨也と静雄は出身が同じで、小さな頃からの幼馴染みだった。真央霊術院に同期として入り、とにかく仲が悪く、よく喧嘩を繰り返した。それに加え、二人とも天才的な死神としての力、素質を持っていたため、ちょっとした有名人だった。そういえば、もう何百年一緒にいるのだろう。数えるのも面倒なほどたくさんの時間だ。

「…任務、ねえ……」
「あなたまたこんなところにいたの?いい加減にして頂戴」

後ろから声がかかったと思えば、副隊長である波江が立っていた。むっとした表情で臨也を見ており、自身が手にしていた書類をぐいっと臨也に差し出した。臨也はそれを受け取り、目を通して顔をしかめた。

「…何、あの虚、結局八番隊に任せるの?」
「ええ、そうみたいね。上の決定よ」
「……八番隊、」

臨也の脳裏にちらつく金色の髪。その持ち主の平和島静雄は八番隊の副隊長だった。既に卍解も物にし、隊長クラスの力を持つにもかかわらず、彼が副隊長でいる理由。隊長である田中トムをとても慕い、尊敬しているために八番隊を抜ける気がないらしい。静雄らしいといえば静雄らしいが。

「私、今から用事があるから抜けるわ。今日までの書類、よろしくね」
「……」
「…聞いてる?」
「ああ、うん、聞いてるよ。任しといて、いってらっしゃい」

波江を見送りながら、臨也は再び手元の資料に視線を戻す。先日、臨也の隊の隊員が六名死んだ。ある虚により殺されたと臨也には報告されていた。てっきり討伐の命令は我が隊に来るかと思っていたのだが。






「へい、…わじま……副たい、ちょ…」

隊長から任務の説明を受け、静雄は隊員たちとすぐにその場所へと向かった。数日前に五番隊の死神が六人殺されたらしい。かなりの力を持つ虚らしいが、おまえなら大丈夫だろうと上司は言った。静雄も期待に応えるべく、任務成功を約束した。既に三名の隊員が偵察に向かっているはずだったのだが。

「、大丈夫か!?しっかりしろ、」
「…、ほ…虚、です、副隊長。…みな、…奴にッ…」

虚が出没するという場所に到着してみれば、そこには見慣れた顔の死神が倒れていた。全員で三名、偵察へ先に出かけた我が八番隊の隊員たちであることがすぐにわかる。辺りは真っ赤な血で染まっていた。静雄や他の駆けつけた隊員たちは息をのむ。

「ふく、たい、ちょっ……奴は、危険で、」
「もういい、喋るな!いいか、……、…おい、おまえ、まさか」
「危険、で…逃げ、……副、タイチョ、オオオオオオ!!」

静雄は一瞬早く隊員から手を離し、後ろへと飛んだ。他の隊員たちもわあっと声をあげて下がる。血まみれの隊員ががばっと起き上がり、静雄へと向かってきた。もう本人の意思で動いているのではない。虚に喰われ、操られたか。

「、チッ……いくぞ、赦すな、津ヶ流!!」

静雄は斬魄刀を鞘から抜き、解号を叫んだ。途端、ぶわっと静雄の斬魄刀から青い幾つもの光の線が虚へと向かう。虚へと光が触れた瞬間、ドン、ドオン、と大きな爆発が起こった。

「平和島副隊長の、津ヶ流…!さすがです!」
「すげえ、やりましたね、副隊長!!」
「……いや、本体はどこか別だ。あいつは操られてただけだろうよ…くそ、っ」

斬魄刀を手にしたまま、静雄はなるべく早足で来た道を戻った。なんだか嫌な予感がした。相手は死神を何人も喰っている、油断はできない。すると急に前にいた隊員が一人、突然悲鳴を上げて倒れた。血の飛沫が飛び、静雄は目を見開いた。

「なんだ、!?」
「おい、大丈夫かっ……なんだ、あれは…!」
「へ、平和島副隊長ッ…あれが、本体では…!」

隊員の一人が前を指差した。そこにいたのは、大きな体をした虚だった。感じる霊力はかなりのもので、隊員たちはがたがたと震えだしていた。静雄は唇を噛む。まさかこれほどまでとは思わなかったのだ。今ここにいる無事な隊員は五人。静雄を入れて六人。副隊長として、取るべき行動は。そして、しなければならないことは。静雄はふう、と自分を落ち着かせるように息を吐いた。

「ふ…副隊長…!」
「…いいか、…とりあえず逃げろ。これは…予想以上の虚だ。応援を呼ばねえと、っ、危ねえ!!」

虚の動きに逸早く気づいた静雄が、狙われた隊員を突き飛ばした。と同時に右腕に感じる痛み。静雄はあまりの痛さに目をぐっと瞑った。やられた、やばい、利き腕を。

「、平和島副隊長ッ…!!」
「逃げろ!!これは命令だっ…俺にかまわねえでいい、早く!」

隊員たちは戸惑いながらも足を動かし、逃げていく。静雄も立ち上がって走るが、虚の攻撃は銃のようなもので、遠距離で隊員たちを狙っていった。静雄の隣にいた隊員がドンと足を撃たれ、その場に倒れこむ。静雄はすぐに足を止め、隊員の傍へ駆け寄った。

「…ふ、副、隊長…ッ」
「大丈夫か、っ」
「…お、俺はもう、いいです、から!副隊長、早く逃げてくださ、」
「はあ!?ふざけんな、見捨てるわけねえだろ!それに弱音吐くんじゃねえ!…ほら、早く、腕、を……ッ!?」

静雄ははっと上を見上げた。自分たちを見下ろす虚のぎょろりとした目。振り上げられた虚の腕。あまりの速さに、静雄の反射神経は追いつかない。



201009
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -