妹は僕の宝物 前編




※兄(臨也)妹(静雄♀)パロです。



「起きろよ兄貴〜。朝だぞ、起きないと蹴るぞっ」

可愛い声で「お兄ちゃん、朝だよう…」と優しく起こしてくれる妹はここにはいない。臨也はもぞ、と布団の中で寝返りをうった。すると言葉どおり、げしげしと足で布団の上から身体を蹴られる。

「、っいたいよシズちゃん、」
「遅刻してもしんねーぞ!」
「起きる、起きるよ…」

臨也は仕方なくむくりと起き上がる。そこにはセーラー服の上にエプロンをし、腰に手を当てながらぎろりとこちらを睨む妹の静雄の姿があった。臨也は上半身裸のままベッドから降りる。

「、また裸で寝てるし…」
「なあにシズちゃん、お兄ちゃんの上半身に興味が」
「ねえし…。さっさと着替えて降りてこいよな」

はあと呆れたようにため息をつくと、静雄は部屋を出ていった。トントンと階段を降りていく音が小さくなる。臨也は頭をがしがしと掻き、ハンガーにかかっているワイシャツをはずした。これも妹がアイロンがけまでしてくれたものだ。臨也は丁寧に袖を通した。






制服のワイシャツとズボンだけ身につけ、臨也は下へと降りた。洗面所で顔を洗って歯を磨き、寝癖を少し直す。目をこすりながらリビングへと向かった。

「ふああ…、…ねっむ〜」
「兄貴、これ持ってって」

キッチンから静雄がご飯の入った茶碗を二つ差し出してくる。臨也はそれを受け取り、ダイニングへ持っていく。静雄はてきぱきと味噌汁をテーブルに置いた。臨也は冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップを二つ持ってくる。席に二人座り、いただきますと手を合わせる。

「シズちゃん、今日もありがとう」
「どういたしまして」

兄妹の両親は離婚しており、今は海外赴任中の父親側で暮らしている。本当はもう一人末の弟がいるのだが、そちらは別れた母親と一緒だ。二階建ての広い家に兄と妹で生活し始めて、三年。父親はたまにしか帰ってこない。家事は妹の静雄が主に担当していた。元々料理が苦手だった母親に変わって作ったりしていたので、慣れたものだった。

「…なあ兄貴、今日兄貴帰ってくるの早い?」
「今日?うーんどうだろ…どうして?」
「…と、友達と、放課後遊ぼうと思って…兄貴のご飯、どうしようって」

臨也は今年高校三年生、静雄は高校一年生だ。臨也は一つ隣の駅の私立高校、静雄は近くの公立高校に通っている。去年静雄が高校受験の時は、三者面談は全て臨也が出向いた。静雄の受験中は臨也が家事を全部こなしたし、静雄の家庭教師にもなった。臨也は静雄がとても大事だった。兄なのだから、妹を守ってやることは当然だと思っていたのだ。

「いいよ、俺どうとでもするし」
「、ありがと。8時くらいまでには帰ってくるから…」

静雄はにこりと笑った。臨也は箸を口に運びながら頷く。静雄は本当に綺麗になった。元々整った顔立ちをしていたが、高校生になって途端に大人っぽくなった。そして臨也は、どんどん静雄を愛しいと思うようになった。妹としても勿論だが、きっとそれ以上に。どんな女と付き合っても静雄の顔を思い浮かべれば本気になれず別れてしまう。静雄以上の女などいなかった。

「兄貴、お弁当はこっちな。忘れず持ってって」
「うん。今日は何入れてくれたの?」
「今日は…里芋と鶏肉の煮物とか、香味揚げとか」
「おいしそうだね。また新羅に自慢しなくちゃ」

笑って言うと、静雄は「そんなに上手くできたわけじゃない」と照れながら言った。とても可愛いかった。静雄にとって自分は良い兄でいたかった。静雄のことを誰より大事に思っていたが、だからこそ、兄として振舞わなければならないと思っていた。食べ終わった臨也は手を合わせごちそうさまと言うと、食器をカチャカチャとシンクへ持っていく。食器洗いは臨也の担当だった。

「シズちゃん、食べたのから食器貰うよ」
「、うん」
「ゆっくりでいいけどね?」

臨也は慣れた手つきで食器を洗っていく。静雄がごちそうさまと手を合わせて最後の食器を持ってくると、それも全て洗って乾燥機に入れた。静雄はぱたぱたとリビングを出ていく。臨也はきょろきょろと辺りを見回した。制服のネクタイはどうしたんだったか。部屋になかったのでリビングのはずなのだが。

「あれ?どこやったっけ…ねーシズちゃーん、俺のネクタイしらなーい?」

臨也は階段の下から上に向かって呼びかける。暫くすると鞄を持った静雄が急いで降りてきた。セーラー服のスカートがひらひらと舞う。

「ええ?なかったか、リビングに?昨日見たけど」
「ないんだよねえ」
「だから兄貴は…ちゃんと部屋に持ってっとけばよかったのに。仕方ねえなぁ」

鞄を適当に置くと、静雄もネクタイを探し始めた。ソファの下に落ちていたようで、静雄はほっとしたような表情を見せる。ネクタイを持ったまま、静雄は臨也の傍へ来た。

「あった、兄貴。今度から気をつけろよな」
「うん。シズちゃん、結んでくれる?」
「ええー」

臨也はソファに座った。静雄は納得いかないようだったが、諦めて臨也の首にネクタイを回した。しゅる、しゅると丁寧にネクタイが結ばれていく。静雄の長い指はとても綺麗だった。きゅっと最後に上まで締め、静雄は満足したように臨也から手を離した。

「できたぞ」
「ありがとう。上手だ」
「まあな。兄貴、ほら早く鞄持ってきて、もう遅れる」

はいはい、と臨也は早足で鞄を取りに2階へ上がった。鞄を掴んで再びリビングへ戻り、静雄のお手製の弁当を中へ入れる。静雄はもう靴を履いていた。

「早く、兄貴」
「わかってるよ」

臨也も靴を履く。二人で家を出て、臨也が鍵を閉めた。そのまま車庫に行き、バイクにキーを差し込む。毎朝、雨が降っていなければ臨也は静雄を後ろに乗せて高校まで送ることにしていた。静雄はヘルメットを被る。臨也もヘルメットを被り、ハードケースに鞄を入れた。

「シズちゃん、行くよー」

バイクに跨り、静雄の手が自分の腰に回されたのを確認すると、臨也はエンジンをかけた。車庫からバイクが路上へ出て行く。とてもよく晴れており、暑いくらいだった。臨也はなるべく近道をしながら静雄の高校へとバイクを走らせる。バイクの免許を早めに取っておいて正解だった、と臨也はいつも思う。臨也は私立高校なので基本的に免許取得は認められていなかったが、成績優秀で学年トップの臨也には教師たちは何も言えなかった。

「あ、平和島さんだ」
「今日もイケメンのお兄さんとバイクで登校かぁ、いいなぁ」

学校が近づくにつれ、登校途中の生徒たちがだんだん増えてくる。臨也と静雄の乗るバイクが通り過ぎた後には、皆ぼうっとそのようなことを呟いた。学校でも有名な美少女の静雄と、同じく静雄の兄だと納得の整った顔立ちの兄。生徒たちの憧れだった。

「、よっと。はいシズちゃん、到着だよ〜」
「ありがと、兄貴」

学校の近くで臨也はバイクを左に寄せる。静雄は後ろから降り、ヘルメットを取った。ふわ、と肩ほどまでの髪が広がる。ケースから鞄を出し、ヘルメットをしまった。

「それじゃ、兄貴、気をつけて」
「うん。シズちゃん、いってらっしゃい」

手を振る静雄に臨也は振り返し、ウィンカーを出してまた車道を走っていく。静雄はそれを見送って、学校の門へ向かって歩き出した。すると後ろからトントンと肩を叩かれる。

「おはよう、平和島さん」
「あ…お、おはよう」

にこりと微笑んでくるのは同じクラスメートの男子生徒だった。きらきらした印象の彼は、一週間ほど前に転入してきたばかりだった。まるで王子様のようなオーラに女子生徒たちは黄色い声をあげたが、彼は隣の席になった静雄にしか興味がないようだった。彼は自然にす、と静雄と並んで歩き出す。

「今の、お兄さん?昨日も一緒だったよね」
「…うん。いっつも送ってもらってんだ」
「そうなんだ。…ねえ、今日の約束、覚えてくれてる?放課後の…」
「ああ、うん、大丈夫。兄貴にも言ってきたから」

静雄はこくりと頷いた。彼も満足そうに笑う。今日の放課後は、この男子生徒との約束だった。こちらに来たばかりでまだ街もよく知らないというので、案内を頼まれたのだ。特に用事もなかった静雄はそれを引き受けた。朝、臨也には友達と遊ぶと伝えたが、間違ったことは言っていない。静雄は彼と一緒に教室へと向かった。


201008

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