Many
happy
returns!






『お知らせ致します。18:30発東京行き、NN321便は機体トラブルのため、欠航いたします。繰り返しお知らせ致します、18:30…』

臨也は買い換えたばかりのスマートフォンを思わずガシャンと落としてしまった。







1月28日は静雄の誕生日だ。当の本人は3日前とかにようやく気づきだすようなタイプなのだが。朝目覚めて、顔を洗い部屋へ戻ってくると、携帯電話がチカチカ光っているのが見えた。

「…幽か」

マナーモードにしていたため、気づかなかった。兄貴おめでとう、と短い文章だが、静雄はとても暖かな気持ちになった。父親がプレゼントを抱え、母親がケーキを焼き、家族4人で幸せな誕生日を迎えた子どもの頃が少し懐かしい。すると携帯がブル、と震えだした。

「…はい、」
『静雄?』

聞こえた声は母親のものだった。静雄は携帯を充電コードから抜くと、そのままキッチンへ移動する。

『28日だから…仕事前にと思って。邪魔じゃなかった?』
「うん、…これから準備、するところだから」
『そう。…誕生日おめでとう、父さんからも伝えてくれって頼まれてるの。気にしながら会社に行ったわ』

鍋にミルクを入れ、火にかけた。マグカップを取り出しながら、静雄はふっと笑う。

「そっか…、…ありがとう」
『またお休みの時に帰ってきなさいね、待ってるからね』
「ん、また連絡するよ。…母さん、ありがとう」
『風邪引かないようにね。静雄、お仕事頑張って』

うん、ありがとう、と呟き、静雄は電話を切る。携帯をベッドへ放り、テレビをつけて着替え始める。温まったミルクをカップに注ぎ、ず、と啜った。朝だ。誕生日の朝に違いない。よく晴れた、けれど少し寒い日だった。






「よう静雄、今日誕生日だよな?これプレゼントだ」
「わ、…すみませんトムさん、ありがとうございます」

出勤すると上司からプレゼントを手渡された。開けてみれば最近オープンした駅前のケーキ屋の洋菓子が詰め込まれていた。これは素直に嬉しい。一度食べてみたいと思っていたのだが、なかなか買いにいけなかったのだ。その後、仕事で街に出れば、セルティと新羅に会う。

『静雄!ハッピーバースデー!』
「おめでとう静雄!あっこれプレゼント!」

どうやら待ち伏せていたようで、新羅なんかはパーンと街中であるのにクラッカーを鳴らしてきた。上司は驚いたような顔をして、だが笑っていた。二人は静雄にプレゼントを押し付けると去っていった。ふにゃりとした感触、クッションか何かだろうか。

「シズシズー!誕生日おめでとーっ!」
「静雄さん、おめでとうございます!」

後ろからどんっとぶつかられ、何事かと振り返れば見知った男女の顔がにやにやと笑っていた。その二人の後ろから、高校の時の同級生である門田がため息をつきながら歩いてくる。

「おいお前ら、ったく…」
「シズシズ、これプレゼントー!受け取って!」

ずいっと差し出されるその箱を、静雄は戸惑いながらも受け取った。「俺も俺も!」と隣にいた遊馬崎もプレゼントを積み上げてくる。

「さ、さんきゅ…」
「すまねえ、静雄が誕生日だって教えたらな、…これは俺からだ、おめでとう」

最後に小さな箱を渡される。確か門田には、去年もその前もプレゼントを貰った気がする。

「悪いな、毎年…」
「何言ってんだ、お前が生まれた大事な日だろ?とっとけよ」

ほら行くぞ、と門田は歩き出す。バイバイ、シズシズー!と三人は去っていった。本当にプレゼントを渡すためだけに来たようだ。静雄の両手が塞がったことに気づいた上司は、どこからか紙袋を貰ってきてくれたようで、静雄はそれにプレゼントを入れた。

「ありがとうございます、トムさん」
「いや、…にしてもすごい人気者だなー静雄」
「いえ、そんな…」
「ま、いーことだよな。誕生日はこうでないと、…素直に祝われとけ」

そう言って上司はくしゃりと静雄の頭を撫でた。その後も高校の後輩からお菓子を貰ったり、色々な人からプレゼントを手渡されたり祝いの言葉を言われたりと、気づくと紙袋はパンパンになっていた。







家に帰ってくると、小包が届いていた。幽からで、だが箱には有名なブランドのロゴが刻まれていた。静雄はプレゼントたちを部屋に置き、バスルームへ向かう。お湯をバスタブに溜め、部屋に戻ってエアコンをつける。静雄はカーペットの上に座り、はあ…と息をついた。チッチッと時計の針の音が妙に大きい。



来ない。



たくさんのプレゼント、笑顔、言葉。静雄は溢れるほど貰ったし、幸せな気持ちにもなれた。素晴らしい誕生日を迎えることができた。だが、静雄は寂しい気持ちがどこかにあることを知っていた。

(……女じゃあるまいし)

怒ったりとか、機嫌を損ねたりだとか、そういうことはしない。女でも子どもでもないのだから。決してそんなことはしない。思わない。…はずだ。

『午後10時からは、ドラマスペシャル!地上波初登場…』

テレビから声がし、ゆっくり静雄は顔を上げる。もう10時か。あと2時間で、今日は終わる。静雄の誕生日が終わる。静雄は立ち上がり、着替えを準備してバスルームに行き、お湯が半分ほど溜まっているのを確認し、服を脱いだ。そっと足を入れ、暖かなお湯に触れると、少し気分が楽になるような気がした。

(………連絡もなし、ってのは、…何かあったのかもな)

恋人であるはずの折原臨也は、一週間前からロンドンへ行っている。理由はよくわからないが、出発の日にあった臨也はスーツ姿だったので、何か仕事関係だろう。いつ帰ってくるのか聞いた時は、静雄の誕生日までにはと笑っていたのに。…まさか29日と勘違いしてたりするのではと頭に過ぎり、それだったら笑い飛ばしてやってもいいかな、と静雄はシャワーのレバーを回した。さあっと静雄にお湯がかかる瞬間、聞こえた音。

ピンポーン…

静雄はお湯を止めた。ピンポーン、ピンポーンと繰り返されるインターフォン。慌てて静雄はバスタブから出ると、濡れた身体のまま、バスタオルを腰に巻きながら玄関へ走った。カシャンと鍵をはずしてドアを開ければ、そこには大きなスーツケースと共に男が一人立っていた。黒い上品なコートに身を包んだ臨也だ。

「、…ど、どうしたの」
「……風呂、入ってて…」

静雄の格好に驚いたようだったが、臨也は自分のコートのボタンを素早くはずすと、静雄の身体にかけた。コートの下は、出発する時とは違う、チャコール色のスーツだった。臨也の後ろで重い玄関のドアが閉まる。

「……ごめん。その、…」
「…、ちょっと服着てくる。あがってろ」
「あ、…うん」

静雄は用意していた着替えを持ってバスルームに戻り、身につける。髪をタオルでがしがし拭きながら部屋に戻れば、臨也は静雄が今日貰ったプレゼントたちを眺めながら正座していた。静雄はその隣に座る。

「…なんで正座してんだよ」
「……いや、だって…。…言い訳するわけじゃないけど、…飛行機が飛ばなかったんだ。それが最後の東京便だったから、一日待つしかなくって…ごめん、あのさ、本当は、今日の朝にはシズちゃんのところに」
「気にしてねえよ、…コーヒー飲むか?紅茶のがいいんだったっけか、」

大したもんねえけど、と立ち上がろうとした静雄の手を臨也はぐいと引く。静雄はバランスを崩し、臨也の胸に倒れこんだ。スーツは冷たかった。ぎゅうとそのまま抱き締められる。

「…ごめん、」
「…だから、気にしてねえって。飛行機、大丈夫だったか?事件とかじゃ、ねえよな?」
「うん、機体のトラブルだったみたいで、…携帯壊しちゃって、連絡する間もなくって。ずっと間に合え、間に合えって…思ってた。どうしても今日のうちに、会いたくて」

どうやら誕生日を間違えていたわけではなさそうだ。静雄はそっと臨也の頬に触れた。臨也は静雄と目が合うと、やはり申し訳なさそうな顔をする。

「シズちゃんの誕生日なのに、…俺、もっと余裕持って予定組めばよかったな…。色々考えてたんだ、本当だよ。喜ぶこととか、たくさん考えて…レストランとか、実は予約もしてたし」
「…考えてくれてたんなら、俺はもう何もいらねえよ」

静雄は両手で臨也の頬を包み込んだ。臨也の身体ごしに見えた時計は、もうじき28日が終わることを示している。幸せな誕生日だった。間違いなくそう言える。

「……来年は、今年の分まで、シズちゃんを幸せにするよ」
「…何も特別なことなんて、考えなくていい。傍にいるなら…それでいい」
「……うん。きっと、…誕生日おめでとう、この一年が、君にとって素晴らしいものであるように」

臨也は静雄の顎を優しく掴むと、ちゅ、と口付けた。心の奥から満たされる感覚がして、静雄は目を閉じた。強がっていた本当の思いも、全て溶けていく。唇を離した後に微笑めば、臨也は目を細め、静雄の目元に優しくキスをした。





お誕生日おめでとう、シズちゃん!
いつまでも素敵なシズちゃんでいてください^^
20110128
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