君に
恋のお誘い






「シズちゃん、よかったら俺と…まあ、ほら…シズちゃん、どうせ一緒にいる人いないんでしょ?俺が一緒に過ごしてあげるよ、仕方がな」
「はいダメダメダメ〜!!」

バツーっと新羅が手を大きく交差させて見せる。臨也ははあ…と大げさにため息をついた。新羅からのダメ出しはこれで5回目である。

「臨也、そんなんじゃ静雄から『臨也てめえ!!ふざけんな!』って机を投げられるのがオチ」
「ちょっと似てる」
「あ、ほんと?…じゃなくって!いいのこのままで!?最後の文化祭なんだよ…!」

高校時代最後の文化祭を明日に控えており、生徒たち、特に3年生は張り切って準備に取り組んでいる。だが新羅と臨也は屋上でサボりだ。というか、新羅は臨也に引っ張られて連れてこられているだけなのだが。

「わざわざ僕を練習相手にしといてさあ…」
「新羅だって大道具仕事なんてやりたくないだろ?」
「…臨也の練習相手も同じようなもんなんだけどなあ」
「……」

ぼそりと呟く新羅に臨也はむすっとした表情で返す。明日に迫った文化祭は二日に渡って行われるものだ。何故臨也がこんなにも意中の相手、静雄と文化祭を過ごしたいのかというと、文化祭一日目夜の、あるジンクスだ。

「…ま、協力するって僕も言っちゃったしね…頑張ってよ臨也、結局は臨也の頑張り次第なんだから」
「そりゃそうなんだけどさァ…」
「けどあの女に困らない折原臨也が?まさかこんな乙女チックなジンクスに頼らなければならないなんてね〜女の子たちが見たら泣くよね〜」

新羅はくっくっと笑ってみせた。臨也は眉間に皺を寄せたままだ。新羅の言う、臨也が頼りにしているジンクス。文化祭の夜行われる花火を見ながら好きな人に告白すれば、結ばれる。実際これで恋人同士になったカップルが毎年たくさんいるという噂だ。

「うるさいな新羅…」
「そう怒らないでよ」
「…これを逃したら、俺の春は来ないと思うんだ…」
「わかってるじゃないか」

誠意を持って挑めば大丈夫さ、と新羅は臨也の肩をぽんと叩いた。臨也はまたため息をつく。静雄とは仲が良いとは決して言えない。…好きだなんて告げたら、どんな反応をするのだろうか。考えると少し怖かったが、臨也は去年からこの文化祭にかけようと思っていたのだ。臨也は静雄に恋をしていた。







「臨也、その……なんつーか、…時間、あったらよ…す、少しでいいんだけど。そ、その…うっ……うおああああああ!!」
「し、静雄…」

落ち着け落ち着け、と宥められ、静雄は真っ赤になってしまっている顔を両手で覆った。同級生の門田相手にここまで緊張するのに、本番はどうなってしまうのだろうか。前途多難とはまさにこのこと。

「ま、ゆっくりゆっくりでいいって」
「、ゆっくりなんて、…そっちのが無理だ」

静雄は指と指の間から門田を見上げる。門田は少し困ったように笑っていたが、何も言わなかった。東校舎の空き教室で、静雄は門田を意中の相手、…折原臨也と思い、ある練習を繰り返していた。

「…静雄、焦ることはないぞ?ジンクスなんかに頼んなくたって、」
「……せっかくの俺の決心を鈍らせるつもりか」
「そういう訳じゃねえけどよ、」
「…けど、…やっぱ無理かもな、こんなんじゃ…」

静雄はしゅんと落ち込んでしまっている。その顔は赤いままだった。静雄は窓辺にもたれかかり、はあとため息をついた。グラウンドでは生徒たちが出店やアーチの準備をしている。高校生活最後の文化祭は明日に迫っていた。その文化祭の一日目夜に行われる花火。静雄はこの花火に勝負を挑むつもりでいた。

「無理じゃねえよ。俺が言いたいのはだな、…焦って言ったってどうしようもねえぞってことなんだ」
「…けど、明日臨也に告る女子はたくさんいる。さっき教室で聞いた…何人か、そう言ってた」
「まあ、…あいつモテるからな…」
「……」

門田はぼそりと呟いた。文化祭の夜に打ち上げられる花火を見ながら好きな人に告白すれば、その想いが伝わり、晴れて恋人同士になれるというジンクス。かなりの高確率で成功するらしく、女子生徒たちがきゃあきゃあと一ヶ月ほど前から騒いでいた。

「…俺との約束なんて、」
「んなことねえよ、臨也はきっと…そうだな、静雄が一生懸命伝えれば、わかってくれるさ。あいつはなんだかんだ、静雄のこと気にいってるしな」
「門田…」
「女子なんかに負けんなよ」

門田が笑ったので、静雄は少し安心する。静雄が臨也を好いているということを唯一知っている門田は、何かと静雄に協力してくれた。こうして文化祭の準備をサボってまで、自分の練習に付き合ってくれている。静雄は心から感謝した。必ず明日、言わなければ。そして願わくば、臨也が…。初めて会った時から密かに抱いてきたこの想いを、頑張って告げたい。






次の日の朝、二人はばったりと昇降口で出会う。普通の生徒たちよりも明らかに早い登校時間なのに、とお互いが思い、ピシリと固まってしまった。どちらも夜あまり眠れずぼおっとしていたのだが、ここで意識がはっきり戻った。

「、…おはよ、シズちゃん」
「…おう」

臨也はなんとか声を絞り出す。にこりと笑うと、静雄も少しだけ口元を緩ませてくれた。ああ、愛らしい。静雄ならなんでも愛らしい。

「文化祭、最後だね」
「…そうだな。…そんなに楽しみか?」
「え、」
「こんなに早く来て、…」

静雄はぼそりぼそりと喋る。臨也は自分の靴箱から上履きを取り出し、ローファーを代わりに入れる。履きながら静雄を見れば、どこか俯きがちだ。

「…いや、…ちょっと早く起きただけ」
「そうか…」
「シズちゃんは?」
「……」

静雄は答えない。ことんと自分の上履きを落としたまま、履こうともしないし、ローファーを拾い上げようともしない。静雄は迷っていた。ここで言ってしまおうか。昨日、最終下校時間まで門田と練習した言葉を。今ならまだ、臨也は誰とも約束を取り付けていないのではないか。

「、…い、臨也」
「ん?」
「……あ、あのよ…」
「臨也ーっ、おはよー!あ、平和島くんも!」

明るい声が静雄の声を打ち消した。二人同時に振り向けば、数人のクラスメイトである女子生徒たちが昇降口に入ってきていた。文化祭に気合が入っているのか、いつもより化粧が濃く、髪の毛もアップスタイルだ。

「、おはよう」
「早いねー二人とも!今日は楽しもーね!…ねえほら、今言っちゃいなよ!」

オレンジ系の髪の女子生徒が、後ろにいた茶髪の女子生徒にそっと話しかけた。女子生徒ははっとしたように顔を上げ、ちらりと臨也を見た。静雄はそれでなんだかわかってしまった。ぎゅ、と鞄を持つ手に力が入る。

「、…い、臨也くん。あの…」
「何かな?」
「…その、今日さ、夜、予定ある?」

静雄は上履きを素早く履き、ローファーを靴箱へ入れる。そしてすたすたと歩き出してしまう。臨也は内心泣きそうだ。臨也もまた、ここで静雄に約束を取り付けてしまおうと考えていたのだ。静雄もあれで女子に人気があるし、もたもたしていられなかった。

「ごめんね〜、もうちょっと約束があって」
「、…そ、そっか…」
「じゃ、またあとで!」

にっこりと笑って女子生徒の誘いを断ると、臨也は早足で静雄の後を追った。慌てたが、静雄はそこまで早足で歩いていってはなかったようだ。教室へ向かう階段の途中でなんとか追いつく。

「し、シズちゃんっ…」
「、」

一気に階段を上ったせいか息があがってしまう。静雄は臨也の声に反応し、ぴたりと足を止めた。こちらを振り向いた時、少し瞳が潤んでいたのは…気のせいだろうか。

「…なんだよ」
「…あ、…あのさ、……俺、シズちゃんと…」
「…俺と?」
「今日っ…今日の夜、一緒にいたいんだけど!!」

なんだか色々省略してしまったが、言いたいことは伝わったはずだ。その証拠に、静雄の目が見開かれる。静雄の薄い唇から言葉が出てくるまでのこの時間が、臨也にとってはものすごく長いものに感じられた。

「……それ、」
「、え?」
「それ、……花火、も、?」

消え入りそうな声で確かにそう呟いた。臨也は顔を上げる。静雄はちら、とだけ臨也を見て、後は視線を逸らしてしまったが。臨也はこく、と頷いた。周りはとても静かだった。

「…わかった」
「、…お、オッケー?じゃ、じゃあ6時に…」
「…東校舎の、…2-Dの隣の、空き教室。あそこ鍵、壊れてっから…」

入れる、と静雄は言った。臨也は「必ず行く」と思わず口にすれば、静雄はほんの一瞬だったが、ふわりと笑った。

「絶対だからな」

とん、とん、と静雄は階段の続きを上っていく。その背中が見えなくなると、臨也は脱力してその場に座り込んだ。ああ、神様、明日の今頃、俺は幸せの真っ只中にいれるでしょうか。ここまでくれば後はもう、想いを静雄へ渡すだけ。臨也は口元に笑みを浮かべると、ゆっくり立ち上がって階段を上った。



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「マカロン。」ミツキチさんとツイッターで「コラボしましょう!」という話になって書いたお話です。
私が恐れ多くもお話を書かせていただきました!
ミツキチさんに挿絵を描いていただけるということで緊張して緊張してはうわああああ

そんなミツキチさんからの挿絵イラストが→こちら
素晴らしすぎる…本当にありがとうございます…!!!
私のお話なんぞに挿絵をつけてくださって…お忙しいのにありがとうございました…!!

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201011
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